「あの・さ・・・バレンタインのお返しって、なにがいいんだろう」
「ああ・・そっか。もうホワイトデーなんだ」
「う、うん」
「お返しかあ。そうねえ・・・マシュマロとか・・キャンディーとか?」
街に出るとあっちもこっちもかわいいラッピングがされたマシュマロとかあめとか、たくさん売ってた。
そう。
・・・めぐみやキムにもらったチョコのお返しはきれいな色のあめを買ってきたんだけど・・
「遥さんは、さ。なにが欲しい?」
遥さんへのお返しだけ、なんだかしっくりくるものがなくて買えなかった。
「え?あ、気を遣わなくていいわよう」
あの手作りチョコ・・・本命チョコだったのかな。
違うのかな。
遥さんの真意をつかめないまま・・気が付けばホワイトデー。
もしかしたらバレンタインデーっていうことすら関係なくて、ただ作ってきただけだったりして。
そんなことないよね。
「あ、ほら。遥さんにもらったチョコ・・すごくおいしかったから」
「ありがと」
うふふ、と笑いながら頬を染めるのは・・・
それは、やっぱり・・
好かれてる・・・のかな。
「それに、てぶくろとか、もらっちゃったし」
「ああ、あれは・・いいのよ」
「は、遥さんが喜んでくれるものを贈りたいんだ。だから」
「綾人くん・・・」
・・・樹先生は、なにを贈るんだろう。
っていうか遥さんは樹先生にチョコ、贈ったのかな。
「あたし・・綾人くんの絵が欲しいな」
「ぼくの・絵?」
「うん。・・よかったら」
そうだ。遥さんの絵を贈ろう。
喜んでくれるかも。
「うん。わかった」
遥さんの笑顔に、つられて笑った。
「・・なにやってんの?」
「うわあっ・・なんだよ」
いきなり背後から恵の声が降ってきた。
「仕事中になにやってんのよ」
恵の視線から逃れるようにそっとスケッチブックを閉じた。
「関係ないだろ」
「あるわよ。同じ職場で働いてんのに一人だけさぼってたら怒るに決まってるでしょ」
「はいはい」
「ねえ・・・今の、おねえちゃん?」
「・・・」
「・・・ふう〜ん」
「なんだよ」
「べっつにー」
目ざといなー・・
恵はなにか言いたそうな顔をしてたけど、無言でキムのほうへ歩いていってしまった。
「なんだよ」
自分だってふらふら歩いておしゃべりしてるくせに。
「綾人くん?どうかした?」
「あ、いえ・・別に」
「そう?あ、恵」
「なによっ!」
なんでめぐみはああやって遥さんにつっかかるんだろう。
子供だなあ。
「わたしの、おねえちゃんなんだからね」
「え?」
スケッチブックに向かってた僕はめぐみが部屋に入ってきたことに気づかなかった。
「・・・・・・あんまり、一人占めしないでよね」
「なんだよそれ。いっつも遥さんにつっかかってばっかりいるくせに」
遥さん、あれでもたまに堪えてる。
見てればわかる。
「・・・・・これでもあたし、おねえちゃんのこと、尊敬してるし、感謝してるしその・・・・」
「・・・・」
「おねえちゃんがあたしを育ててくれたようなものだしね。大変だったと思うんだ・・・でもなんかおねえ
ちゃんて、かんぺきって感じがするでしょ」
「・・そうだね」
けんかも強いし、仕事もできるし、美人だしね。
「ちょっとぬけてるとことか、おっちょこちょいなとこもあるけど・・・仕事はできるし、誰にでも好かれるしさ」
「・・・そうだね」
「あたしから・・・・おねえちゃん全部、もってかないでほしいの・・」
「・・・・・」
「それだけっ。おやすみっ!」
大きな音を立てて離れていく足音。
「ごめん恵・・・」
一人占め、してるように見えるのかな・・・
「ごめん」
恵に言われて初めて気が付いたかもしれない。
遥さんを独占してるって言われて、少し誇らしくて、うれしかった。
・・・・遥さんの気持ちを確かめる前に・・・自分の気持ちに、気が付いてなかったのかもしれない。
僕は・・・
「遥さん・・これから帰り?」
「あら?綾人くん。綾人くんも帰り?」
「はい」
「ちょうどよかった!乗ってかない?」
ほんと偶然。
そっか。この絵・・家で渡そうと思ってたけど家には恵がいるから・・
「よし。シートベルトしめた?」
「・・・ここって交通量そんなに多くないのにやっぱりシートベルトって必要あるのかな」
「何言ってるの〜。万が一ってことがあるでしょ」
毎日毎日通る海沿いの道。
春が近づいてきて夕方でもだいぶ日が高い。
遥さんの向こう側、海に光が反射して水面がきらきらしてる。
「どうしたの?」
「あ、いや・・」
「綾人くん、海、好きよねえ」
「うん・・」
「・・・あたしもよ」
うん。知ってる。
「遥さん、これ・・自分ではうまく描けたと思うんだけど・・バレンタインのお返し」
「え?ほんとに?いいの?」
「うん。今、見てみる?」
「見せてくれる?」
遥さんっ!前向いて運転して!
「・・・はい」
自分の絵を人にプレゼントするなんて初めてだから、少しくすぐったいような・・うれしいような恥ずかしいような・・
「うわあ〜・・・・すごい、こんなステキ?あたし。うれしい!!ありがとう綾人くん」
家宝にするね!!
って、言いながら目を細めてはしゃぐ遥さんの目尻に・・
「なっなんで・・泣いてるの?」
なんか・・した?!
「ごめん・・うれしくて・・」
遥さんて、よく泣くなあ。
「それにしても・・綾人くん、いつのまに描いてたの〜?」
「ん〜・・まあ、ちょこちょこと」
「その・・あたしのこと、見ながら描いてくれたの?」
「そうだよ」
「全然気が付かなかった〜・・・恥ずかしいな〜」
照れながらも、泣きながらも車は遥さんの華麗なハンドルさばきで家の前に止まった。
「お夕飯、なに食べたい?」
「え?今日は遥さんが作ってくれるの?」
「うふふ。うれしいから腕によりをかけてなんか手の込んだものを作りたい気分なの」
「・・よろこんでくれてすごくうれしいけど、そろそろ泣き止んだほうがいいよ」
おじさんがなにごとかと思うよ。
「そっそうね」
あたふたとバッグからハンカチを取り出す遥さんを見て。
いたずら心と・・・最近自覚したばっかりの自分の気持ちが手伝って、僕は隣に座る遥さんの肩に
手をかけてそっと近づき、頬にキスをした。
「えっ?!あっああ綾人?」
「涙とまったみたいだね。送ってくれてありがとう、遥さん」
「ええ〜?!」
涙はとまったけどパニックになってる遥さんを置いて先に車を降りたのは、顔から湯気がでてるんじゃないか
って思うほど熱い自分の顔を見られたくなかったから。
樹さんあたりは慣れてそうだもんな〜・・
キスくらいでこんなになったりしないんだろうな・・
樹さんは遥さんにバレンタインのお返しなにか贈ったのかな。
樹さんはやっぱり遥さんのこと、好きなんだろうな。
僕よりも遥さんのこと、知ってるみたいだし。
そうやって僕はまた樹さんのことが気になってる。
「あ〜!!」
やめた。
こんなこと考えてたってしょうがない。
・・遥さんに聞くわけにいかないし。
僕は、僕だ。
樹さんや他の人とは違う。
これから知っていけばいい。
遥さんのこと。
よし。
「遥さん?夕飯つくるの手伝おうか?」
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