yasashii
「はるかさん・・・」
「なあに?綾人くん」
「レストランでそれはちょっと・・」
「え?おいしいわよ?」
家でやるならまだしも・・
綾人の目は、しょうゆとマヨネーズをわざわざ店員にもってこさせてかける遥のたらスパに釘づけになる。
「おいしい、かどうかは別として・・外ではあんまりやらないほうが・・」
「あら。どうして?」
「恥ずかしいからですよ!」
ひそひそ声になった綾人に合わせるように遥の声も小さくなる。
「・・そうかしら」
色がやきそばみたいになってるよ・・
綾人は自分の前のピザにかじりついたが、食べた気がしない。
口の中に入ってくるのは当然ピザだし、マヨネーズやしょうゆの味なんてしないのに、
目の前のそれが気になって味を感知する感覚がどうも定まらない。
しかし・・おいしそうにそれを食べつづける遥に、もしかしたら・・なんて期待もしてしまう。
でも・・
きっとそれにつられて味見させてもらっても失敗しそうだし。
「どうしたの?黙っちゃって。おいしい?それ」
「え、ええ。まあ」
マルガリータはピザの定番だし、ここの店もおいしいし。多分おいしい、ハズ。
結局マヨネーズやらたらこやらのまざった味をもやもや想像しながらピザをたいらげ、
綾人は水を飲むと一息ついた。
「遥さん、食べるの遅いよね」
「・・・そう?ごめんね。待たせちゃって。ちょっと待ってね」
そう言って急いで食べ出す遥さんもかわいいんだけど・・・でも口に運んでる物体に問題がある。
「あ、いや、そうじゃなくて。女の人って上品に食べるなあ、って思っただけ。ゆっくり、食べてていいから」
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
「・・でもぼくも最近はちゃんと給料もらってるから、いつもいつも遥さんにおごってもらわなくても大丈夫ですから」
「いいの。上司と一緒の時は素直におごってもらうものよ」
「・・はあい」
「それはそうと、綾人くん。いろんな女の人とお食事、してるの?」
「・・え?」
遥さん・・笑顔なんだけど、笑顔なんだけど目が笑ってない・・・
「お上品にお食事する女の人と、よく一緒にご飯食べてるの?」
「は、遥さん?」
女性と食事するなんて遥さんに誘ってもらうか、家でみんなで食べるときだけだよ、そう言おうとした
綾人はその事実に多少のショックを受ける。
・・・と同時に、いろんな男の人と食事したりやっぱり誘われたり・・・現に樹さんは付き合ってないって言ってたけど・・
樹さんといい雰囲気で食事してるのを見たことを思い出して、
「僕だってたまには」
虚勢を張って口をついて出た言葉に、遥の表情が曇った。
今までの笑顔が太陽なら一瞬にして曇天の空になったように。
「遥・・さん?」
「・・そうよね」
最近綾人は背も伸びたし、さらにかっこよくなった。
それは遥の贔屓目も多少あるのかもしれないけど・・でも周りの人間を、女性を惹きつけるのは事実。
「・・・帰りましょ」
そう綾人を促したはずなのに、遥は綾人を置いていくように早足で車に急ぐ。
「え?え?」
その切り替わりの速さに付いていけなかった綾人が、我に返って遥を追いかけた。
「遥さん!」
大人げない、やつあたりだ、そう思っていても立ち止まることができない遥。
「ちょっと待ってってば」
にぎりこぶしにした手をつかまれた遥が驚いて立ち止まる。
綾人の手はあったかくて、思っていたよりも大きくて力強かった。
痛いくらいにつかまれても、ふりほどくことも、声を出すこともできない。
「最近遥さん怒ってばっかりだよね。なんかあったの?」
綾人が手を放そうとしないことに、少しよくした遥の表情にほっとする。
「・・・なんか嫌なことでもあったの?頼りないかもしないけど、話聞くくらいならぼくにもできるから・・」
「ありがと。少し大人げなかったわね・・」
最近の遥さん、少しどころじゃないって。
「それで・・どうなの?」
「どうって・・」
「・・・いろんな女性と、お食事、してるんでしょ」
どうして遥さんが涙目になってるんだ?!涙がでるのはこっちじゃないか。
・・・でも、なんだかすごく悪いことをしてしまった気がして、胸が痛い。
「い、いや・・そっそんなことも、ないけど・・ほら、キムとか、恵ちゃんとか小夜子さんとかさ、あそこでご飯食べてるの
たまに見ると、女の人たちってゆっくり食べるんだなあって、思っただけだよ」
エルフィは入ってないのね。
まあ、エルフィがお上品に食べてる姿は想像できないとしても、食堂じゃなきゃドックで食べてるだろうし、綾人くんはあんまり食堂行かないものね。
「そう・・正直にいっていいのよ?ほんとはあたしが誘うの、迷惑じゃない?他に一緒に食べたい女の人がいるんじゃないの?」
「まっまさか!迷惑なわけないじゃないですか」
遥の寂しげな表情に目を奪われて、つかんだ手を離すタイミングを見失う。
「・・綾人くん、誰にでも優しいから・・勘違いしちゃうのよ」
そう。ほっとにあきれるくらいに。最近の綾人は誰にでも優しい。
誰にでも、その笑顔で笑いかける。
その度に、あたしは・・・
「そんな、誰にでも優しいわけないじゃないですか・・・遥さんだって・・優しいですよ。最近少しいじわるだけど・・」
「迷惑じゃなかったら、いいの」
「迷惑なんかじゃ、ないです。それにっ・・それに・・女の人と食事なんて、家での食事以外は遥さんとしか・・」
「・・・そう」
「ぼくは遥さんといると心地いいから、特別誰かと一緒に食事がしたいとか思ったこともないし・・だから」
「ありがと」
「・・・・うん」
綾人くんの心の中に、どんな立場であれあたしの居場所があるなら・・それでいい。
あたしの想いに気づいてなくても、それでいい。
いつか・・・
あたしの口から伝えたいから・・・
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