ドリー夢小説

「でさー、まどかがねー明日絶対泣くってあたしに自慢してんのよー」

「なっちんそれ自慢じゃないんじゃない?」

「ってゆーかさー!彼女に失礼だと思わないー?!まあ相手があんただから

しょうーがないとも思うしー?あたしもきっと泣いちゃうからさー」

「またまた。なっちんってば」

明日は・・・結婚式。

あたしの。

あたしと、零一さんの。






『結婚前夜』








「ねーちゃん?」

ドアのノック音がないまま尽が顔を覗かせた。

「・・・・なっちん。ありがとね。元気でた」

「ほんと?あんまりナーバスにならないようにね!大丈夫。ヒムロッチがの嫌がるようなこと

したらいつでもアタシが奪いに行くから!」

「ありがと。なっちん。大丈夫。先生優しいんだから」

高校生のときと変わらない、なっちんとの楽しい会話。

でもあたしはなぜか気持ちが落ち着かない。

「明日、ね。ばっちりおしゃれしていっちゃうからね」

「うん。楽しみにしてる」

「・・・あたしも。。また明日ね!おやすみ」

「おやすみなっちん」


明日、念願の愛する人のお嫁さんになれるというのに気持ちが沈んでるのがわかる。

これを・・・サムシングブルーっていうのでしょうか?


「ねーちゃん・・・先生から電話。家に。なつみさんとずっと電話してたんでしょ?携帯

がつながらないからって・・・でる?」

「・・・・・あとで、あたしから掛け直すって言って」

「わかった」


実感がわかない。

明日、零一さんと結婚するってこと。

これから零一さんと2人きりで生きていくってこと。

2人で暮らして、2人で毎日ご飯を食べて、2人の家に帰っていくこと。

頭ではわかってる。だけど・・・

そんな明日からの生活が想像できなくて、少し怖い。


「ねーちゃん?・・・・元気、ないな」

「尽!もう黙って入ってきちゃだめって・・・・ま、いっか。明日から・・・寂しくなるね」

あたしも、きっと尽も・・

「寂しくなるよ・・・たまには顔見せに帰って来なよ。家、近いんだしさ」

「素直な尽・・・なんだか気持ち悪いね」

これは照れ隠し。

いつまでも小さい弟だと思ってた尽も、もう高校生。

見上げるような格好で尽と話す。

この生活が、明日から変わってしまう・・・

「尽・・・」

「ねっねーちゃんっ・・・・・大丈夫だよ」

生活が変わることにおびえてるんだ、あたし。

ベッドに座るあたしのとなりに腰をおろしてた尽がオトナに見えて、思わずしがみつく。

「大丈夫だよねーちゃん。先生、優しいじゃん。ねーちゃんのこと大事にしてくれるよ・・・俺の次

くらいにね」

優しく背中を撫でてくれる大きな手。

あたしは明日から新しい家庭をつくるんだ。

お母さんとお父さんと、尽と離れて・・

「尽ぃ・・」

「姉ちゃん・・・俺がもらってやろうか」

「尽?」

「俺だってあと1年すれば、もう姉ちゃんを嫁にもらえる年になるんだぜ」

「・・・18になったって兄弟じゃ結婚なんてできないわよ」

「・・・・わかってるよ」

「・・・・ありがと、尽。大好きよ」

大きくなっても甘えん坊のかわいい弟。

そうよね。もう会えないわけじゃないんだもんね。

「よーし。お母さんとお父さんにあいさつでもしてくるか」

「泣くなよ、ねーちゃん」

泣かないわよ!・・多分。


「あれ?お母さん、お父さんは?」

「お父さん?おじいちゃんたちの泊まってるホテルで今ごろ飲んで泣いてるんじゃないかしら」

「そっか・・」

明日は忙しそうだな。

「あのね・・・お母さん、ありがとう。今まで」

「あらあら・・・・どういたしまして。でもね、いつまでもあなたは私たちの子供だし、

いつまでも私たちは家族なの。寂しくなったり困ったりしたらいつでもここに帰って来てね。

それより・・今日はほんとに先生と一緒にいなくてよかったの?

さっきも電話あったんでしょう?」

「あ、うん・・。ねえお母さんも結婚式あげる前の日って・・緊張した?不安だった?」

「そうね・・・お父さんと暮らしてからの毎日楽しくて充実してて・・・あんまり覚えてないわ。

でもきっと不安だったわね」

この気持ちを、忘れちゃう日がくる・・?

「さあ。明日は早いんですからね。早めに寝たほうがいいわ。眠れそう?」

「・・・努力してみる。ありがと、お母さん」

零一さんに、電話してみようかな。


『・・・・・・ただいま留守にしております。発信音の後に・・』

あれ?

「零一さん・・家にいない?」

そうだ。携帯に・・

「・・・・もしもし・・?」

「もしもし?零一さん・・・どこかおでかけですか?」

高校生のときにはじめて連れていってもらったあのマスターさんのお店かしら?

「ああ、いや・・・・大丈夫か?尽くんから聞いたがその・・・元気がないようだと・・」

零一さんの気遣う声に、一気に感情があふれだす。

「零一さん・・零一さん、会いたい・・これから行ってもいいですか?」

零一さんのこと、好きで好きで眠れない夜だってあった。

早く朝がきて、学校に行って零一さんに会いたいって毎晩毎晩思ってた。

忘れたくない気持ち。

あのときの・・胸が痛くなる想い。

そんな気持ちを少し忘れてたのかもしれない。

好きな時に零一さんに会えるようになって、好きって言ってもらえて。

「零一さん・・会いたいの。だめですか?」

大学に進学してからも零一さんはずっとあたしのこと見ててくれた。

いろいろあったけどあたしたちはずっと一緒にいた。

これからも・・

「零一さんあたしっ・・」

「かまわない。暖かい格好をして外に出なさい」

あたしはマフラーひとつ首にまくと駆け足でドアをあけた。

早く会いたい。

明日まで待てない!

走りやすいようにスニーカーをつっかけて玄関をでると・・道の向こう側に見慣れた車が止まっていて・・

「零一さん!!」

零一さんだ!

来てくれたんだ!

・・暖かい格好をするように言ったはずだが」

しょうがない、とでも言うように微笑みながら運転席から降りてきたのはやっぱり零一さん。

「零一さん!零一さんっ・・」

あたしは嬉しくて零一さんにしがみついた。

「靴も・・まったく。とりあえず乗りなさい。寒いだろう」

零一さんから離れたくなくてあたしは返事をしなかった。

零一さんはそれ以上なにも言わずにひょい、とあたしをかつぐと運転席のドアを開けてあたしを助手席に

おろす。

「ひゃっ・・・」

車の中は暖房で暖まっている。

あたしはつっかけたままの靴を履き直すと零一さんを見た。

「どうした?なにか・・・悩み事か?明日のことで」

零一さんは・・・不安になったりしないのかな・・

「あの・・」

あれ?そういえば・・

「零一さん・・いつからここにいたの?言ってくれればよかったのに」

「ああ、少し前に・・な」

歯切れの悪い零一さんの台詞。もしかして零一さん、結構前からいたんじゃ・・

「あの、なにか・・お話でも?」

「いや・・つい、な。明日のことを考えていたら、君の顔が見たくなった。気がついたらここに

むかっていた・・」

零一さん・・

「あたしも・・あたしも明日のこととか、これからのこととか考えてたんです。

でも・・少しだけ不安で。生活が、環境が変わるってことが・・。でも零一さんの顔見たら

ほっとしちゃった」

あたしは大丈夫。

だって・・お相手はこの人だから。本当はなにも不安に思うことなんてなかった。

「私もだ。・・・会えて、よかった」

「今日は寝付けないかもって思ってたけど・・・ぐっすり眠れそうです。零一さん」

零一さんの大きな手で頭を撫でてもらうとここ数日でたまった疲れに気づく。

その動きが気持ち良くて・・

「眠そうだな」

「・・・はい。あたしも・・会えて良かった。零一さんに会えてよかった」

零一さんもあたしも明日は早い。

もう・・いかなきゃ。ちょっと淋しいけど。

「ありがとう零一さん、来てくれて・・・気をつけて帰ってくださいね」

車をでて、ボンネットの前であたしたちは手を触れ合い、手をつないだ。

「ああ・・・また明日。おやすみ、

零一さんの唇が軽くふれた。

家の前だもんね。さすがにちょっと恥ずかしい。



「おやすみなさい、零一さん。明日・・ね」