Only One          2003/3/7

 

 

 

ある日、ある場所、ある小学校でのお話。

 

 

 

先生「みなさん、今日の宿題は……

 

     『この世に一つしかないもの』を、明日学校に持ってくることです。

 

     あなたたちが『これはこの世にひとつしかない!』と思うものを

   

     持ってきてくださいね」

 

 

 

 

 

先生に宿題を言われた生徒たちは、それぞれ「世界に一つしかないもの」を探しました。

 

 

 

 

 

そして、次の日。

 

先生「さぁみんな。『世界に一つだけしかないもの』は見つかりましたか?」

 

 

ある子供は「家族の写真」を持ってきました。

 

ある子供は「母親の手作りマフラー」を持ってきました。

 

ある子供は「転校した友達からもらったふでばこ」を持ってきました。

     

 

 

そして、最後の子供の順番が回ってきました。

 

 

最後の子供は、両親を幼い頃に亡くして、施設で暮らしている男の子。

 

学校に友達もいない、物静かな男の子。

 

 

「さぁ、君が想う『世界で一つのもの』は何かな?」

 

先生の言葉に促されるようにして、

 

その男の子は顔を下に向けたまま、

 

手に持ったものをゆっくりと前に差し出しました。

 

 

 

それは、どこの道端にでも生えている

 

一輪の「タンポポの花」でした。

 

 

 

それを見た瞬間、他の子供たちからいっせいに声があがりました。

 

「そんなの『世界にたった一つ』のものじゃないよ!」

「そんなのただの雑草だよ!」

「そんなものしかなかったの?」

「そんなのおかしいよ!」

 

 

「みなさん、静かにしてください」

 

先生が落ち着いた、それでいたしっかりとした声でそう言いました。

 

ざわついていた教室は、一瞬にして静まり返りました。

 

先生「みなさん、まずは彼の話を聞いてみましょう。

  

     彼がなぜ、この花を『世界に一つだけのもの』と

 

     思ったのかを、ね」

 

そして、先生に促された男の子は、

 

顔を伏せたまま、ゆっくりと、

 

その理由を語りました。

 

「このタンポポの花は、校庭の一本松の下にひとつだけ咲いていました。

 

他のところに咲いているタンポポもあるけれど、

 

このタンポポは、世界でたった一つ

 

校庭の一本松の下に咲いていたタンポポです。

 

だから、持ってきました」

 

 

 

その言葉を聞いて、また子供たちが騒ぎ始めました。

 

「タンポポはタンポポじゃないか!どこが『世界にたった一つ』なんだよ?」

「先生!あたしは」

「そんなものしかなかったの?」

「そんなのおかしいよ!」

 

 

 

先生は、騒がしくなった子供たちを手で制すると、

 

静かな声でゆっくりと、子供たちに向かって語りかけました。

 

 

先生「みなさんの意見はわかりました。

 

     でも、私は思うのです。

 

     彼が持っているこのタンポポの花は、

 

     やっぱり『世界でたった一つのもの』なのではないかとね。

 

     なぜならば、彼が、このタンポポのことを

   

    『世界でたったひとつのもの』だと思っているからです」

 

 

子供たちは、意味がわからないという感じで

 

お互いの顔を見合わせました。

 

先生は、穏やかな笑顔を子供たちに向けました。

 

 

先生「いいですか、皆さん。

 

      この世界の中には、本当にいろいろなものがあります。

 

      このタンポポの花や、鳥、風、空気、水……

 

      それらのものは、あなたたちにとっては

 

      ごくあたりまえの、どこにでもあるものかもしれません。

 

      だけど、それらのものは、もしかしたら

 

      どこかの誰かにとって、とても大事な

 

     『世界にたったひとつのもの』であるのかもしれません。

 

     そのことを、あなたたちは

 

     どんなことがあっても、忘れないでくださいね。

 

     今は、私が言っていることの意味はわからないかもしれませんが、

 

     いつかきっと、分かる日が来ると思います。

 

     私はそう信じています。

 

     なぜなら、私にとってあなたたちすべてが

 

     『世界でたったひとつのもの』だからです」

 

 

 

 

 

 

先生が、子供たちに出した宿題の本当の意味。

 

このことに子供たちが気付いたかどうか、

 

その後の人生にどんな影響を及ぼしたかは定かではありません。

 

 

 

これは、ある日、ある場所、ある小学校でのお話。

 

世界でたったひとつのものを、捜し求めた日のお話。