ちこの魔法屋
いまではない時。
ここではない場所。
そんな世界での、不思議なお話。
とある平和な名も無い街に
一軒のお店がありました。
お店の名前は、「ちこの魔法屋」
「ちこ」という名前のちいさなかわいらしい女の子が経営する、
とてもかわいらしいお店でした。
お店では、
家の看板や、ちいさなタンス、テーブル、イスといった
日常の何気ない家具や素材を取り扱っていて、
ちこは、その家具たちが織り成す独特の雰囲気がまるで魔法のようだと思い、
お店に「ちこの魔法屋」という名前をつけたのでした。
「ちこの魔法屋」はかわいい女主人と素敵な素材に囲まれて、
毎日毎日たくさんのお客様で繁盛していました。
そんなある日のこと、
忙しいひと時がようやく過ぎて、ちこがほっと一息をついたとき
お店の入り口にひとりのあどけない少女がたたずんでいることに気が付きました。
その少女はなにやらとても真剣な顔をしたまま、
入り口に立ってじっと
ちこ のほうを見つめていました。尋常なことのように思えなくて、ちこは少し考えたあと
思い切ってその少女に声をかけてみることにしました。
「…かわいいお客さん。今日はどうしたのかな?」
おそるおそるちこが声をかけると、
その少女ははっとしてちこを見上げると、
真剣なまなざしを向けて、こう言いました。
「おねがいです、まほうつかいさん!
あなたのまほうで……あたしのおかあさんのびょうきをなおしてください!」
その言葉を聞いて、ちこは一瞬びっくりしてしまいましたが、
すぐにその少女がなぜそんなことを言ったのか
気が付きました。
「そうか…この子、私のお店の名前から、
私が『魔法使い』じゃないかって勘違いしているのね……」
お店の名前に「魔法屋」とついていますが、
もちろん
ちこ は魔法使いではありません。それどころか、魔法などというものは
この世界には存在すらしていません。
きっとこの少女は、テレビかなにかの影響で、
魔法の存在を信じているのでしょう。
そして、ちこのことを魔法使いと信じて疑っていないようです。
少女から詳しいお話を聞くと、
どうやら少女の母親は高い熱を出していて
もう
3日間も寝込んでいるということでした。
ちこは、この少女がどんな想いでここにやってきたのか
まるで手に取るように分かりました。
ちこにすべての希望を賭けて、
勇気を出してお願いに来た、この少女。
その、ちいさくてつぶらな
真摯な瞳には、少女の心からの祈りと願いが込められていました。
そんな少女の気持ちに心打たれたちこは、
正直に本当のことをいうことができませんでした。
「どうしよう……」
しばらくの間思案をめぐらせたあと、
よいことをひとつ思いついた
ちこ は、部屋の奥からひとつの「青い花」の形をした素材を
取り出してきました。

「これはなぁに?まほうつかいのおねえちゃん」
「えっと、これはねぇ…
強く想ったお願い事をかなえてくれる、『魔法の花』なのよ」
「まほうの…おはな?」
少女は、その小さな頭をすこしだけかしげました。
「うん、そうだよ。
あのね……
これからこの『花』を持っておかあさんのそばにいくの。
そして、この『花』をじっと握り締めながら
『おかあさん、はやくびょうきが治ってください』
ってお祈りするのよ。
朝も、昼も、晩も。
あなたがおかあさんに元気になってほしいとおもっているあいだ、ずっとね」
少女は、不思議そうな瞳で「青い花」をじっとみつめると、
満面の笑みを浮かべて
「ありがとう!まほうつかいのおねえちゃん!」
と元気いっぱいのお礼の言葉を残して、
お店の外へと駆け出していったのだった。
「あらら、お金もらえなかったわ……でも、まぁいいか」
ちこはなんとなく満足な気持ちになると、
ふぅとひとつ息を吐いて、またいつもの日常に戻ったのでした。
それから数日後。。。。。。。。
いつものようにお店の忙しい時間も終わり、
ちこがようやく一息ついた頃。
数日前と同じように、あのときの少女が
入り口にじっと立っていることに気が付きました。
しかし、今回は前回とは大違いで、
少女の顔には満面の笑みがあふれていました。
「あらあらちいさなお客さん。今日はどうしたのかしら?」
ちこがしゃがみこんでその理由を尋ねてみると、少女は
「あのね、あのね!
まほうが……おかあさんにかかったの!」
と、こぼれそうなほど大きな瞳をめいいっぱい開きながら
うれしそうにそう答えてくれました。
どうやら、おかあさんの病気が治ったようです。
「あのね、あたしあれからずーっとずーっとおかあさんのそばにいたの。
それでね、この『まほうのあおいはな』をてにもったまま、
『おかあさんがげんきになりますように』って、ずっとおねがいしてたの」
「うん、うん」
「そしたらね、おかあさんがあたしのあたまをなでなでしてくれてね……
『あなたがそんなにおねがいしてくれるから、わたしもはやくげんきにならないと』
っていってくれたの!」
「そっか、そっかぁ…」
「それでね、それでね。きょうあたしがめをさましたらね…
おかあさんがげんきになってたの!
『やさしいあなたがまいにちおみまいしてくれたおかげだよ。ありがとう』
って、あたしにいってくれたの!」
「へぇ…。おかあさん、元気になって本当によかったね!」
「うん!ぜーんぶ、まほうつかいのおねえちゃんのおかげだよ!」
その言葉を聞いたとき、
ちこ
はすこしためらったあと、少女の瞳をみつめながら、こう言いました。
「あのね、かわいいお客さま……。
本当は、『魔法』なんて存在しないのよ…」
「えっ…?」
少女は、不思議な顔をしてちこを見つめかえしてきました。
「そしてあたしも、ほんとうは『魔法使い』なんかじゃないの」
「ええ!?だって…でも、おかあさんは…」
ちこはにっこりと素敵な笑顔を見せながら、
少女に向ってこう口を開きました。
「本当に『魔法』を使ったのはあなた自身なのよ。
ちいさなお客さん」
「あたしがぁ?」
少女は信じられないといった表情で、
自分の顔を指差しました。
「ええ、そうよ。
あなたがね、おかあさんにほんとうに心の底から
『元気になってほしい』ってお願いしたから、
おかあさんはげんきになったの」
「ほんとに?」
「ほんとうよ。そしてね…
『あなたがいちばんたいせつなひとのことを想う気持ち』が…
ほんとうの『魔法』なんだよ」
ちこの言葉に、少女は理解できたのかできなかったのか、
むずかしそうな表情をしばらくうかべていたが、
すぐに元気いっぱいの声で
「えへへっ、まほうつかいのおねえさん、ほんとうにありがとう!」
というと、
あどけない笑顔をちこの心の中に残して、
駆け足でいとしのおかあさんの待つ家へと
帰っていったのでした。
「ちこの魔法屋」
そこは、不思議で、あったかくて
なんだか素敵な、魔法使いのお店。
「魔法」をつかうことはできないけれども、
本当の「魔法」の意味を知っている、かわいい魔法使いの住むお店。
あなたもいつか、
この不思議な世界にやってきたときには、
ぜひ「ちこの魔法屋」まで
足を運んでください。
かわいい主人が、素敵な笑顔で出迎えてくれますよ?
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