欠陥品 2002/9/20

 

 

 

 

「完璧」という言葉は存在しているけれども、

私は「完璧」というものはこの世界に存在しないと思う。

 

もちろん、私も完璧とは程遠い存在だ。

それどころか、むしろ「欠陥品」ではないかと自分では思っている。

 

例えば、この鼻。

顔全体の面積に比較して、まるでだんごのように大きい。

はっきり言うと、無様だ。

 

さらに、この体格。

170cm。高すぎる。

これでスタイルでもよければモデルにでも…と考えそうだが、

残念ながら体のバランスはでたらめで、しかも体重が重すぎる。

 

鏡で自分の姿を見るたび、

私は自分が「欠陥品」であることを思い知らされていた。

 

 

私は私なりに、「完璧」は無理でも

せめて極力「完璧」に近づこうと 一所懸命努力した。

高級な化粧品も買った。

ブランド物の服やバッグもそろえた。

エステにも通った。

 

でも、「欠陥品」は、

いくら「修理」を施しても 「欠陥品」だった。

 

 

 

そんな自分自身に絶望しかけていた頃、

私は恋に落ちた。

相手は、2つ年上の会社員。

正直、私にはありあまるほど素敵な男性だった。

惚れた者の目で見たものは、すべてが輝いて見えるというけれど

贔屓目を差し引いても、彼はやはり素敵だった。

 

初めて彼とデートしたときには、

私の心臓は飛び出そうになるほど どきどきと鼓動していた。

 

夜の港でいろいろなことを語り合ったとき、

私の目は、ただ彼だけを見つめていた。

 

でも、私は「欠陥品」

彼には、不釣合いだと半ば諦めかけていた。

 

 

 

 

でも………

いつものように彼と電話で話をしている最中、

唐突に彼が衝撃的な言葉を口にした。

「俺と…付き合ってくれないか?」

 

私は、

今までに無い至福な気持ちと

言いようの無い強烈な不安に

一瞬言葉を失ってしまった。

 

こんなにうれしいことはない。

毎晩のように夢見ていた、彼の言葉。

だけど、気持ちとは裏腹に

心の奥底で、なにか私を苛める不安があった。

 

こんな「欠陥品」のどこがいいのだろう?

いまは一時の感情で好意を抱いているだけで、すぐに飽きるかもしれない?

実は彼は遊び人で、私は単にからかわれているだけじゃないのか?

 

 

結局……

 

私は、彼に返事をすることができなかった。

 

 

 

 

 

翌日、私は学生時代の友人と食事をしながら

昨夜の出来事を相談した。

彼女は、私の言葉にいちいち頷きながら、

私に一つ有効なアドバイスをしてくれた。

「…だったら、彼に素直に理由を聞いてみたら?」

 

それが聞ければ苦労はしない…と思ったものの、

それ以外に良い解決法が見つかるわけでもなく、

複雑な気持ちのまま、私は彼女と別れて帰宅した。

 

 

 

 

その日の夜、彼からの電話は無かった。

「答えが出るまで、俺、待ってるから」

その約束を守ってくれているのだ。

そんな彼の真摯な気持ちに応えるため、

私は勇気を出して携帯電話のメモリーから彼のアドレスを呼び出した。

 

 

 

最初はあたりさわりのない話から始まり、

1時間ほどの遠回りを経て、私はついに勇気を出して

彼に一つの質問をした。

「あの…私の、どこがいいんですか?」

 

私の質問に戸惑ったのか、

しばらく電話口の向こうの彼は無言だった。

その微妙な「間」に、なぜか急激に焦りを感じた私は

まるで堤防が壊れたダムのように

次々と言葉の洪水を吐き出した。

 

「いや…あの…私のどこがいいんだろうってね?」

「あなたは…とても素敵な人だから…」

「私、なんだか信じられなくて…」

「私って、ほら、あんまりかわいいタイプじゃないし…」

「背も高くて…あんまり女の子らしくもないしさ」

「だって…私って………『欠陥品』だから……」

 

 

 

 

ひとしきり私の言葉を聞いたあと、

彼は優しい声で、

私の魂に残る台詞を口にした。

 

 

 

 

「俺も含めて、完璧な人間なんていないと思う。

だけど…そんな君のいいところや、悪いところ、

あるいは君が自分で欠点だと思ってても本当は美点であるもの。

それらすべてを含めて、俺は君が好きなんだ。

どこが好きなんてひとことでは言えないよ。

だって、それを言ってしまえば、

その好きなところが君からなくなった時、

僕は君のことを好きじゃなくなるってことになるじゃない?

だから…もし君が自分のことを『欠陥品』と言うのなら、

その『欠陥品』である、君と

僕は付き合いたい」

 

 

 

 

…私は、心の中の欠けていた部分に、

なにか暖かいものが流れ込んでくるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

1ヵ月後。

 

 

私はあのとき恋の相談をした友人とまた食事に出かけた。

しかし、今回は前回とは違い

私と彼のおのろけ話ばかりだった。

前は親身になって聞いてくれた彼女も、

今回ばかりはすこし辟易したようだった。

 

 

楽しい時間もあっという間に過ぎていって

二人の会話がふと途切れたとき、

彼女が不意に私に向ってこう言った。

 

 

 

「ねぇ…いまのあなたはまだ『欠陥品』?」

 

 

 

 

 

私は、彼女の質問に即答できない自分に気付いて

少し驚いてしまった。

 

 

「欠陥品」であった私の、

欠けていた「なにか」。

 

それが、見つかったのかどうかは正直わからない。

 

もしかするとあのとき、

私の中に流れてきた暖かいものが

私の欠けていた「なにか」を満たしてくれたのかもしれない。

 

 

 

「……わからないわ」

私はしばらく考えたあと、

ため息と一緒にそう言葉を吐き出した。

自分でも気付かないうちに、自然と笑みが零れていた。

 

「…へぇ………」

彼女は私の言葉に満足げに頷くと、

私の顔をじーっと見つめた。

「………ねぇ、あなた、なんだか最近すごく綺麗になったね」

 

突然の言葉にびっくりしている私を尻目に、

彼女は、目の前のケーキを美味しそうにほおばりだしたのだった。

 

 

 

end