恋愛小説

                                                                                                     2003/6/15

 

 

 

 

「なんで、エッちゃんと一緒に歩いてたの!?」

 

ユカの言葉にサトルははっとした顔になった。

 

「ユカ・・・、見てたのか?」

 

「だって・・・サトルくんのことが心配で・・・」

 

「・・・ユカ!!」

 

サトルは不意にユカの両肩をつかむと、ぐっと自分の胸の中に

 

引き寄せた。

 

ふわりと舞う、ユカの長い髪。

 

「あ・・・っ」

 

「ごめん、ユカ。心配させて・・・

 

エッちゃんとはなんでもないだ。

 

家のことで相談に乗ってただけなんだ

 

「う・・うそよ、そんな」

 

「ウソじゃない!僕は・・・君だけを・・・

 

「サトル・・・」

 

二人は強く、強く抱きしめあうと、熱い口づけを

 

交わしたのだった・・・

 

 

 

 

 

「・・・なーんて、んな都合のいいことがあるかっちゅうの!」

 

私は悪態つきながら

 

手に持っていた小説をぽいっと無造作に投げ捨てた。

 

 

本の題名は「ユカとサトルの物語」

 

いわゆる「恋愛小説」だ。

 

 

BOOKOFF100売っていたので暇つぶしに購入したが、

 

ただでさえ腐ってしまいそうな脳みそが

 

余計に産業廃棄物のヘドロのスープみたいになってしまった。

 

 

はっきりいって、100円貰っても読みたくない。

 

 

「あーくだらない。こんなの、サトルの浮気のごまかしに

 

惑わされてるだけじゃないの。あほらしっ

 

私はトドメとばかりに一発強烈な屁をぷぅっ!とかまして

 

甘ったるい少女小説に『死刑』を宣告した。

 

 

 

「ゥAいくらなんでも屁は勘弁してくれよゥゥゥ」

 

部屋の反対側に座り込んでいたオトコが

 

ハナクソをほじくりながら私に向かってそうノタマウ。

 

 

『けっ。このクズが』

 

私はこころのなかで、さっき読んだ恋愛小説では

 

登場人物の誰もが口にしないような悪態を付きながら

 

このさえないオトコをきっとにらみつけた。

 

 

 

 

・・・そう、私たちはいわゆる一般に「カップル」と呼ばれる存在だ。

 

 

 

 

恋愛小説では、

 

心の清らかな少女と、誠実な(あるときはいけずな)少年が

 

私みたいな下等な人間が廃人になってしまうような

 

甘い言葉を交わす関係。

 

でも、付き合って5年も経てば、

 

愛もクソもあったもんではない。

 

目の前で屁をここうが、ハナクソをほじくろうが

 

なんの感慨も湧かない。

 

 

 

 

ええ、現実なんてこんなものデス。

 

 

 

 

思えば、私たちも熱く燃え上がった時期もあった。

 

時間があれば、いつでも会いたいと思うときもあった。

 

誰かに取られそうで、やきもきしたときもあった。

 

 

でも、5年も一緒にいればどうでもよくなってしまう。

 

 

 

恋愛小説では、こんなこと書いていなかったのに。

 

昔は目をキラキラさせながら読んでいたのに・・・

 

 

現実を知ってしまえば、夢や理想は遠く色あせて

 

そして、いつのまにか、

 

どうでもよくなってしまう。。。。

 

 

 

 

「これじゃいかん!」

 

 

 

ふとそう思い立った私は、

 

ぐうたらとおなかを出してくたばっているオトコ(彼氏)をひっぱたき

 

無理やり起き上がらせた。

 

 

 

「なにすんだよぉ・・・」

 

「デートするよ!!」

 

「はぁ?なにいってんだお前?」

 

「はぁ、じゃないでしょ!あたしら付き合ってるんだから

 

デートくらいしてもあたりまえでしょ!!」

 

「おいおい、俺ら付き合って何年だよ?いまさら・・・・」

 

「いいから、しっとせんかい!!!」

 

 

私は彼氏に、とっておきの服を準備させると

 

気合を入れて化粧をし始めた。

 

 

思えば、彼氏と会うのにまともに化粧をするのは

 

どれくらいぶりだろう・・・

 

ここ数年、忘れていた感覚を思い出すように

 

ゆっくりと、化粧をわが身に施していく。

 

 

 

彼氏も、なんとなく私の気配が普段と違うことを

 

察したのであろうか。

 

黙って身支度をし始めた。

 

 

 

 

それから一時間後。。。。

 

 

 

 

「できたっ!!」

 

見事な美男美女カップル(?)の

 

数年ぶりの復活の瞬間である。

 

 

「ふふふ。どう?かわいい?」

 

「・・・・・ふう。んで、どこいく?」

 

「・・・ちぇっ。つまんない反応こと」

 

私は、いまだに納得のいかない顔をした彼氏を無理やり引っ張ると

 

週末の街中へと出かけていった。

 

 

 

 

夏物のかわいい服を見る。

 

試着して感想を聞く。

 

おいしいパスタのお店を探す。

 

二人で食べ比べをして食事を満喫する。

 

 

 

そんなことが、いままでできていなかった。

 

いや、忘れていたのだろうか・・・

 

いつのまにか、効率だけを考えていた関係。

 

面倒なことはせず、自分に都合よく

 

相手との付き合いも、なぁなぁの関係。

 

 

でも、それって

 

もしかしたら

 

『なにか大事なもの』を忘れていたのかもしれない。

 

 

 

あまりにも毎日食べているがゆえに

 

その存在を忘れてしまった『塩』のように

 

思い出したときにそのありがたみがわかる存在・・・

 

 

 

彼氏も私と同じ気持ちになったのだろうか。

 

それとも久しぶりに化粧した私に見惚れたのか。

 

彼の態度も、あのぐうたらしたオトコとは同一人物とは思えないほど

 

やさしく、気遣いがあるものに変わってきていた。

 

 

 

 

     ・・そして夜・・・

 

 

「あー今日は楽しかったね!」

 

私の声に、彼がはずかしそうに頭をかきながらうなずいた。

 

「そうだな。楽しかった。でも、なんで今日は急に・・・?」

 

私はいたずらっ子っぽく笑いながら

 

こう彼に伝えた。

 

「そうね・・・・・あの脳みそがとろけてしまいそうな

 

恋愛小説の影響かしら?」

 

 

たかだか100円で買って、

 

不満のあまり投げつけて、

 

それどころか、トドメに屁までかましてやった

 

あの恋愛小説。

 

 

でも、結果的には

 

どういうわけか、私たちにすこしだけ

 

昔の気持ちを思い出させてくれた。

 

 

「へぇ・・・そっかぁ。たまにはあぁいうのもいいもんだな」

 

彼氏のいかにも感心したといった感じの言葉に、

 

私は心の中で苦笑いしながら頷いた。

 

『そうだね・・・

 

でも、恋愛小説の本当の目的とはかけ離れた読み方だったけど、

 

結果オーライってことで!』

 

 

死刑撤回。

 

明日からは神棚に飾るかな?

 

そんな罰当たりなことをかんがえながら

 

私はそれでも、あの恋愛小説に感謝したのだった。

 

 

 

END