読者の皆様へ
これは巨匠・島田荘司氏の最高傑作である「異邦の騎士」をパクったものです。従ってその重要なトリックが露にされていますので、まだ読んでいない方は見ないようにしてください。既に読破した方、今後読む予定の無い方のみお進みください。
目が醒めて見ると公園のベンチの上だった。
背中がひどく痛む。俺は何をしていたんだろう。何も記憶が無い。もう夜中のようだったが、俺は起き上がろうとした。
「そのまま、じっとしていて!」女の声がした。見覚えの無い顔だ。
「君は?」かろうじて俺は声を出した。
「私?私は高橋信子。あなたずっと倒れていたのよ。私の家に来て。寝ていいわよ。」
以前のことは全く覚えていない。ただ自分が記憶を無くし初めて会った女の家で寝ていたようだ。
記憶喪失。
「起きたの?あなたお名前は?」信子はにこやかに聞く。
「それがわからないんだ。すべて思い出せない・・・」
「でも名前が無いのは不便よね。とりあえず何か名前を付けましょう。『カチャ』なんてどうかしら?」
「どうでもいいさ。」俺はつぶやいた。カチャなんてどうしたら思いつくものなのか。
この女はおかしいのではないだろうか。女のくせに草履を履いているし携帯電話も紙コップの糸電話のようだ。たまに関西弁を使う。麻雀も好きらしい。しかしこんなみずしらずの俺に雨風をしのぐ家を提供してくれているのだから、文句は言えないだろう。
「カチャ、私の作ったジャガイモの料理食べて!」
「カチャ、映画に行きましょう!」
「カチャ・・・恥ずかしい・・・明かりを消して・・・」
信子と男女の関係になるのにそう時間はかからなかった。気付くと俺は信子を愛していた。
そうして1ヶ月が過ぎた。ある時信子は言った。
「白石駅にある探偵事務所知ってる?あそこで占星術もやってるんだって。今度私とカチャの相性を見てもらいに行かへん?」
「相性なんて・・・」そういう俺を尻目に信子ははしゃぐ。結局、その日の午後、その怪しい探偵事務所を訪ねることになった。
地下鉄白石駅で降りるとそこは繁華街だった。某ファミレスやゲームセンターが建ち並ぶ。そんな駅前の雑居ビルの一室にそれは佇んでいた。
金太一中年探偵事務所
ノックすると背の低い鷲鼻の小男が出てきた。
「あの・・・あなたが金太一さん・・・」
「名前と言うものはただの記号に過ぎません。フェ○チオやカフェレシオと同じです」
この男は何を言っているのだろうか。それこそ頭がおかしいのではないかと疑った。俺は帰ろうと目で合図したが、信子は全く帰る素振りを見せない。仕方なく入ることにした。
金太一は相性占いなどせず雑談ばかりしていた。「金太の大冒険」という歌が大好きだと言う。今時まず見ないレコードでそれを掛けると卑猥な歌詞が部屋に氾濫した。俺はうへえと言うしかなかったが、信子は赤面していたようだった。
それからたびたび3人で会うようになった。
俺と信子そして金太一で麻雀(サンマ)したり、バッティングセンターに行ったり、ドライブしたりした。車の中でも「金太の大冒険」を掛け金太一はいつも大声で歌っていた。いつのまにか信子も一緒に唄っていた。信子の出身地は広島だったので、いつか皆でランスを見に行こうね、と話していたものだった。
しかし幸せな時間は長く続かなかった。
私は信子の家で自分の日記を発見してしまったのだ。記憶を無くす前のものだった。
日記帳
3月31日(土)
今日はパチンコをする。 台はCR天才バカぼん。
30,000円負けました。
でも楽しい台でした。
負けて悔いなし…
って、そんなことあるかい!! 負けたら悔しいっちゅうの。
でも本当に楽しめる台なので、みんな1度やってみるといいよ。
今回のトータル、マイナス30,000円。
通算マイナス37,500円
7月28日(土)
今日は給料日の後でお金は十分にあるので、早速パチる。
まあ、いまのところ外回り中だから、そんなに時間はないんだけどネ。
今日の勝負台は美麗なのじゃ。
この台は有名といえば有名なのである。
一言で説明させてもらうならば、AVパチスロなのだ。
AVというのはアダルトビデオなのだ。
ボーナスを引けば、液晶画面でAVギャルが服を脱いでいく、
つまり打っていて恥ずかしい台なのだ。
しかしそこをあえて打つ。
なぜなら、俺は男だから!!
10,000円の投資、ボーナス何も引けず。
ひたすら台にお金をつぎ込む。
う〜ん、ダメだ。
飽きた、というか面白くね〜。
騙された。
はいっ、やめました。
今日はこれで打ち止めっす。
明日の為に休むとしよう。
今日の収支、10,000円のマイナス。
今回のトータル、マイナス21,850円。
通算マイナス269,220,000,000,000,000,000,000円
7月29日(日)
俺はもうだめだ。
もはや競馬やパチスロでは返せる額では無い。
9月中に1,000万円をポク洋銀行の口座番号69、ポクレンに
入れなければ債権者に殺される。
これが最後の日記だった。つまりこの日の夜に俺は記憶を無くしたのだ。何だって!?9月中に1,000万円をポクレンの口座番号69に振り込まなければ殺される!?今日は何日だ?9月30日?第9回しろいし区民ふれあい健康マラソン大会の日だ。今日じゃないか!今はもう2時だ。何とかこれから1,000万円を金策しなければ!!
俺はポク洋銀行琴似支店の前にいた。短時間で大金を作るにはこれしかなかった。
強盗。
金物屋で買った包丁が腹にあることを確認する。3時ちょうどに突入しよう。あと3秒、2秒、1秒、よし・・・ところが扉の前にいた小男が俺の前に立ちふさがった。
「よしたまえ、カチャ君」
「金太一!?」
「やっぱり来たね。間に合って良かった。思いとどまるんだ。無意味だ。」
「何が無意味だ?金を作らないと殺されるんだぞ。今日中に。どいてくれ」
「君は幻想を見ているんだよ。借金も無ければ、殺される心配も無い。そのポクレン口座番号69の名義人は・・・高橋信子だ。」
「馬鹿な・・・」
「あの日記は信子が書いたもなのさ。創作なんだよ。君はそんなに負けていない。むしろ勝っているんだよ。かなりね。それはホームページの『また負けちゃった』を見ればいい。まあ競馬やパチスロは大好きらしいけどね。あの日記は信子が自分の手を汚さず君に1,000万円を作らせるための罠だったのさ。」
「もう聞きたくない・・・」
全てが明らかになったことを知った高橋信子は自殺した。その後一通の手紙と私の免許証が届いた。
カチャへ
カチャ、騙してごめんなさい。
私は広島の片田舎から出てきて右も左も分からず
ただ少林寺拳法と麻雀ばかりしていました。
麻雀での負けはいつしか莫大になり
とても返せない額になりました。
そこで魚屋一丁南2条店で偶然見つけたあなたを後ろから
殴り気を失わせたのです。
あなたは上手い具合に記憶を無くしました。
計画は実行されるはずだったのです
でも。
あなたと一緒にいるにつれてあなたを愛していきました。
日記は見せまいと思いました。
あなたと毎日競馬や麻雀をしていたい。
ずっとこんな日が続いてくれたらいい。
そう思いました。
ところが偶然あなたはあの日記を見てしまった。
全ては幻だったのかもしれません。
私はあなたを愛しています。
豊平川の土手で泣きながら手紙を読んでいると一台のスクーターが止まった。
金太一だった。ノーパンだ。
「陽気な奴でも聞こうよ。たまには眼鏡を外して」
金太一はラジカセで金太の大冒険を掛けた。それから言った。
「この封筒には君の免許証がはいっているぞ」そして免許証を見てこう続けた。
「これでようやく君の名を呼べるわけだね、ホリ岡君」
これは私のただ一つの悲しい物語だ。もう二度とこんな悲しい話を語ろうとは思わない。ところで金太一があの時貸してくれた「金太の大冒険」は以後よく聞いた。つボイノリオのこの傑作は、今も私の大事な一枚である(実話・掲示板参照)。
しずしずと曲が始まり、最後に金太がお姫様とマカオに着く頃、決まって私はイチモツを振り乱し、颯爽と夜の豊平川土手に現れた、二十代の金太一中年を思い出す。

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