Bittersweet Peccadillo U  ~ 翼side ~

 

 

 

“つばさくん・・・”

 

もう翔君の俺を呼ぶこの単語には愛おしさ以外何もない。

呼んでいる翔君の切なそうな顔が今は柔らかな笑みで満たされている。

呼ばれる俺の胸を締め付ける切なさの鎖は今は温かい翔君の手のひらに変わった。

 

そっと瞳を閉じて翔君の声を反芻する。

 

 

 

“つばさくん・・・”

 

 

 

何度も響く翔君の声がこだまして心の中に積もっていく。

 

 

 

「ねぇ、ねぇ?翼君」

部屋に響き渡る口元でくぐもる未だに慣れない翔君の声。

耳元に甘く響く音色がたまらない幸福を運んで来る。

 

 

 

幸せだった・・・

ただひたすらに。

 

 

 

幸せすぎた・・・

ただ残酷に。

 

 

 

呼ばれた声に振り返ると翔君は紅茶を持って

リビングのソファーに深く沈みこんだ俺の背後に立っていた。

ツンと鼻につく紅茶の香りを含んだ湯気が視界を霞める。

変わった嗜好をすぐに覚えた翔君は小さなポットにたっぷりと注がれた

ホットミルクと一緒に紅茶の入ったカップをテーブルの上に

「ハイ、どーぞ」なんて笑って置いて行った。

 

 

 

 

 

 

普通の生活だった。

何の変哲も無い。

 

 

 

 

 

すべてを投げ捨て逃げ出した僕らを待っていた新しい生活は

酷く当たり前の生活だった。

日常が平行移動しただけの。

当然のような普通の生活。

 

 

滝沢が翔君に。

滝沢の家が翔君の借りている小さなアパートに。

忙しく通り抜けていた時間がゆったりとした2人の時間に。

俺の生活の全てがスライドして入れ替わっただけ。

 

 

大きく変わったようで何も変わらない。

俺だけが何も変わらない。

 

俺を求める人の側に身を寄せ、

与えられる幸せを甘受しているだけだった。

 

 

滝沢の留守中に走り出した俺にはいくらでも逃げ場所があるようで、

本当の居場所はどこにもないように思えた。

 

 

 

 

 

あの日、手をつないだままどれくらい二人で走っただろう。

見慣れた滝沢と暮らしたこの街の景色が走馬灯のように目の前を去っていく。

滝沢が「翼の誕生日を思い出すから好きだ」と言った金木犀が植えてあるあの公園も。

ヴァニラの香りの好きだった俺の影響で好きになった

フレーバーコーヒーを飲みに一緒に通いつめたコーヒーショップも。

滝沢特製チャーハンとパスタの材料ばっかりだったけど、

夕飯前に連れ立って買い物に行った商店街も。

夏になると男二人で浴衣を着込んで団扇片手に出かけた

大きなお祭りが開かれるメインストリートも。

夜風に当たりによく足を運んだ散歩道になっていた川沿いの小道も。

全部・・・翔君と2人で振り返ることなく通り抜けた。

 

 

 

そして・・・

あの“駅”も。

 

 

 

3人を知るあの駅で俺はまた電車に乗る。

一度目に共に乗車した彼を残したまま、

一緒に乗り込むことが出来なかった彼と二人で・・・

 

あの時は光り輝く車体に、よく磨かれた窓いっぱいに朝焼けが差し込み、

いつまでも身体を赤く染め続ける朝焼けが滝沢の激しい恋心のようで滝沢の心の中を開いて見ているようで胸が痛くなった。

そしてその赤が俺の眼の前に現れなかった彼がすっぽり抜けた心の中を侵食していった。

柔らかなシートに冷えた身体を埋めて、

滝沢の肩に頭を預け、その確かな人の温みを自分の身体に移しつつ

グングン近づいていく都会の閑散とした冷たい温度を感じ

1人不安に押しつぶされそうになった。

 

二度目の始発は大分古びれた路面電車だったけど、

なんだか懐かしくて車体についた古傷も潮風で出来たさびも、

時代遅れの中刷りも、

弾力を失って生地がこなれた座席も、

黄ばんだつり革も、

何度磨いても光ることのなくなってしまった曇ったガラスも、

満面の笑みで俺たちを出迎えた車掌も

全てを愛しまずにはいられなかった。

都心から遠ざかっていく僕らはしっかりと指を絡めて互いの手を握り

小さな子供がまるで冒険にでも出るようにドキドキしながら

電車の隅で小さく蹲ってこれから始まる未知の生活を思い、

二人で頬を高揚させ笑いあった。

 

 

 

そうしてたどり着いた先は夏が好きな2人にふさわしい、

海が望める高台の上にある古びれたアパートだった。

潮風に当たった壁面は変色とさびで汚れていて、

今まで暮らしていたマンションのように華やかさは無かったけれど、

都会の冷たさが消えたその小さな部屋はアイドル2人が身を隠すには十分な場所だった。

 

幼稚園の時に女の子たちに無理やりやらされたままごとみたいに、

翔君と2人でおもちゃみたいな安い食器を近くの100円ショップで買いそろえて、

買い物ゲームしながら小さな商店街の八百屋でグレープフルーツを1つおまけしてもらって、どちらが追いかけるでもなく鬼ごっこするように家路に着いて、

誰が口うるさく言うでもなく自然に2人手を洗い、

たった¥100のプラスチック製のスカイブルーとモスグリーンの

カラフルなコップに生ぬるくてかび臭い水道水を汲んで一気に飲み干して、

まるで遊びつかれて家に帰ってきた子どものように

その6畳一間の畳の上に男2人大の字で寝そべった。

狭い部屋で触れ合う手を気にしながら、

いくつも雨漏りの染みのある天井を見上げて笑った。

 

まるで俺たちには現実なんてものがまったく感じられなかった。

キレイなマンションに住んで、高いレストランで食事して、

周りの大人たちに大事にされ、テレビでスポットライトを浴びる。

アイドルという名を欲しいままに生活していた頃の方が普通の人には非現実だろうけど、小さな頃からそこで生活していた俺にとっては現実だった。

だから何度落としても絶対に割れないコップに

捻ればいつでも出てくる不味い水を飲む生活は俺たちにとって生活なんかじゃなかった。

だから可笑しかった。

「“滑稽”って言葉がよく合うよ」って翔君は呟いた。

 

 

 

翔君とのチープな生活はとても普通だったけど

幼い頃、大人の模倣したままごとみたいだった。

 

 

だからどんなに滝沢との生活から遠ざかったとしても、

遠ざかれば遠ざかるほどより近くに、リアルに感じてしまうだけだった。

 

 

 

 

 

 

最初はそんなこと分からなかった。

ただなんとなく・・・

何かが違うような気がして。

それが翔君との生活のせいだなんて思えなかった。

だってそれは生活的にはとても不安定だったけど、

精神的にはとても安定していたから。

 

こんな怖いくらいなまでの普通の生活が

自分にとってもう非現実にしか感じられないようになっていただなんて、

そんな真実気づくわけもなかったし、気づきたくも無かった。

やっと手に入れたように見えた“幸せ”と“リアリティ”は

虚像だったなんて認めたくなかった。

 

 

何かの違和を感じながらそれを打ち消すかのように「幸せ」だと口にして、

頭を振り乱し一心不乱に身体を重ね合わせていたコトは逃げだったのかもしれない。

別にムリに明るく振舞っていた訳でもなかった。

自分自身で何にそんなに不安になっているのか、

自分がそんな不安にさいなまれている事ですら分からなかった。

分からなかった。何も。

 

かと言って、明るく過ごして気づかないように

しないといけない不安が二人にない訳でもなかった。

言い知れぬ不安は日ごとに僕らの生活を侵食していく。

日を追うごとに激しくなる情事のワケはこの見えない不安を掻き消すためのもので、

決して抜け落ちた時を埋めるものでも、想いの熱の差を埋めるものでもなかった。

 

 

逃がしてはくれないだろう商品として僕らが生きてきたあの世界と

少なくとも必ず追いかけてくるであろうたった1人の男の存在の陰は

常に俺たちの背後に迫っていることぐらい分かっていた。

知らない振りして楽しそうに笑って、まるで少女が口にするように“幸せ”だと繰り返し、

身体を繋げて“好き”だと昔飼っていた九官鳥のように言い続けていれば

不安も恐怖も薄れるような気がしていた。

その陰を消す事なんて出来るはずもなかったのに。

逃れられるようなものでは決してなかったはずなのに。

それほどまでに何を信じてそんな無意味な事を繰り返していたのか。

言葉を紡ぎ合っても何一つ確かなものなど残らず、

何度身体に翔君の片割れを流し込まれても俺は何も生み出すことは出来ないのに・・・

 

自分で望んだこの生活には幸せだけではなく、

確かに言い知れぬ何かが付きまとっていた事は

本当は2人、手をつないで走り抜けた街の想い出の中に見つけていたんだ。

でも知らない振りして逃げた。

確実に僕らは逃亡者だった。

“滝沢”という監獄から脱獄した囚人。

囚人はいつのまにか鎖で繋がれる事も

鞭で打たれることも、全てに慣れてしまった。

そして愛した人がいたことすらも忘れかけていた。

 

しかしその囚人には他にも枷がつけられていた。

それがもう1人の囚人と同じもの・・

あの時の“約束”だったと気付いた滝沢は何を思ったんだろう。

愛という鉄格子で四方全てを塞いで一層隔離を厳しくしても

身体の一部になりかけているその枷を感じるたびに囚人たちは互いを思い出す。 

死でもがいて3人ともあの暗闇の中で溺れかけていたんだ。

 

結局2人、結ばれなかったあの3年前の約束にずっと拘束されていたんだ。

本当は俺たち2人はあの時の“約束”から逃れたかったのかもしれない。

翔君と2人手をつないで滝沢の下から逃げることと、あの時の約束を守ること。

いつからか俺たちは『あの時の約束から逃れること』と

この2つを混同してしまっていたんだ。

約束を守ることでそれをなくしてしまおうとしたんだ。

あの時の守れなかった約束の重みから逃れるために。

 

お互いがお互いを縛り苦しんでいたんだ。

 

 

 

 

 

そしてその約束にとらわれ続けた“もう1人の男”・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

“滝沢、滝沢、滝沢、滝沢・・・”

眼を堅く閉じ、下唇に自分の歯を食い込ませて、

顔を歪めて必死に涙を堪えた。

締め付ける胸の痛みは滝沢との思い出がもたらすものなのか

それとも翔君への永遠が約束された愛情がもたらすものなのか?

 

偽りだったけどそれでも二人懸命に恋人を演じて真実に似せた滝沢との生活。

日常についていくのに必死だったあの頃の自分が今の俺を占めているんだ。

 

 

忘れられないよ。

翔君と幸せを感じるたびに滝沢を思い出す。

 

忘れたいよ。

滝沢との思い出が翔君との生活で蘇らないように。

 

あの日、翔君が最後に口付けで解いたはずの滝沢の一筋の未練は、

あの一瞬にほんの少しだけ出来てしまった

滝沢への同情と言う名の最後の愛情の隙間に絡み付いて付いてきてしまった。

絡みついた糸は俺の心の歯車を次第に狂わせていく。

滝沢・・・

 

 

今はっきりとお前の存在を感じる。

お前は俺に消えない傷を人生かけてつけてくれたんだな。

 

すげーよな・・・

 

 

どこに行っても忘れらんねーよ・・・

 

 

お前の愛の深さが一生俺を離さねーよ・・・

 

言葉と一緒にさっき飲み干した水道水がカラダからこぼれる。

ヒビがはいったプラスチックのコップのようにもう俺は使い物になんないよ。

このカラダに『水』と言う名の翔君の愛情を満たすことなんて出来やしない・・・

翔君の愛情が流れる水ではなく降り積もる雪ならば

俺は望んで底冷えの土地にこの身体を置くだろう。

永遠に愛情の白い粒がこのヒビ割れた身体から消えていかないように・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井よりずっと遠いところを見つめて翔君が突然切り出す。

「翼君はさぁ。滝沢君のこと『愛してた』訳?」

 

 

 “愛”なんてあの時の俺には今よりもっと現実的なことだった。

愛されている現実はもう眼の前に支度されていたから。

本当は“愛”なんて分からないまま愛されていたから。

生きて行くには絶対に誰かが必要だっただけで、

その時俺の隣には拒む理由もなくただひたすらに俺を愛してくれる滝沢がいた。

ただそれだけだった。

 

翔君との未来があの時見えなくなって、

隣に無条件で愛し続けてくれる人が側にいた。

それが滝沢だっただけだった。

俺の『愛』は“滝沢”そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翔君を思い続けながら、滝沢に愛される生活はそれなりに心地良かった。

いつだって都合のいい時に一言「翔君・・」と呟けば

滝沢は俺に指一本たりとも触れる事が出来なくなってしまうから。

どうしても抱かれたくない時や面倒な時はそうやって滝沢を遠ざけた。

そして滝沢に抱かれながら目の前に翔君を思い浮かべて朽ち果てる事も

滝沢との生活の初期ではごく当たり前のことだった。

 

滝沢の優しさにつけこんで心の隙間に翔君を飼いならす事に

罪悪感とか後ろめたさとかそーゆーのは全く感じていなかった。

実際そんなもの感じていられる程余裕なんて無かった。

それくらいもうどうしよも無かった。

自分の気持ちをうまく手なずける方法すらももう分からなくなっていた。

滝沢はそのことを知っていた。

だからそこにつけこんだ。

 

愛される気持ちよさだけを身体で受けとめ、

愛されてた快感を身体で表す。

簡単だった。

身体は勝手に反応する。

 

何かが間違っているとは思ったけど、

それを間違いだと思うことすら怖かった。

“翔君”というあの時一番大事だったものを失った後に

他にもう失うものなど無かったはずなのに、

すでにこの身体を抱いている滝沢を失う事がとても怖かった。

 

心のどこかで間違っていると思いつつも、

愛されている心地よさと抱かれる心地よさを混同し

「これが愛だ」なんて勝手に錯覚するようになったんだ。

 

 

 

 

でもそんな愛の錯覚はやっぱり本物の愛情には勝てなくて、

いつまでも心の目は誤魔化せなかった。

たった一つの思い出が、

翔君への想いの全てを記憶に蘇らせた時

滝沢への不確かで確実な愛情が揺らいだ。

 

 

 

「滝沢のことは好きだった。」

 

 

 

そう翔君には返した。

それで十分だった。

愛なんて分からない。

 

滝沢と一緒にいるには欠片ほどの好きという気持ちで良かったんだ。

それがいずれ愛情へと繋がって行くのだと信じて疑わなかった。

悲しみに埋め尽くされたあの長い一日を過ごした日は

滝沢に寄りかかるので精一杯だった。

 

だから初めて二人裸になって向き合ったあの日は、

滝沢に一体何をしてあげたらいいのか分からなかった。

戸惑う俺に向かってはにかみ笑いで「これからよろしく」

なんて改めて言った滝沢にいとおしさが込み上げてきて、

もうそれだけで十分だった。

幸せだと錯覚するには十分だった。

 

激しく抱かれて、奇声を上げて、

初めて経験した鞭打つような痛みと

荒波のような快楽に全部忘れた振りしたら楽になった。

 

 

だから滝沢に激しく抱かれるのは嫌いじゃなかった。

 

例えば麻薬のようなものだった。

一時の痛みも悲しみも虚しさも全てを快楽に変えてくれる。

忘れたいことも逃れたいことも全てなくしてくれる。

そして持続性がないのも良く似ていた。

だから繰り返した。

何度も、何度も・・・

 

 

滝沢と過ごした時間に後悔なんてない。

そうやって少しずつ・・・気持ちを膨らまして行った。

セックスの気持ちよさを彼への愛情の表れだと錯覚し、

身体にのめり込む気持ちを彼への興味だと取り違えた。

滝沢が愛してくれるただそれを身体に受け流す事が俺の滝沢への愛だとして、

そうして愛し合っていると思い込めば“本当に”愛し合っている2人になれたのだから。

 

 

 

翔君は「そっか・・」なんて微動だにせず答えた。

 

 

 

 

 

 

その言葉の数十秒後に初めての来客を知らせる音が激しく耳を振るわせた。

 

 

 

 

 

 

滝沢に見つけられて安心した。

これでもう必死に守るものはなくなったと。

守るものなんてこの生活に何一つ無かったのに。

ただ当たり前のありふれた幸せしかなかったはずなのに。

 

 

滝沢に見つけられた時のことは覚えていない。

ただ気付いたら見慣れたマンションのベッドの上で

裸の滝沢が刹那の表情を浮かべて凄い速さで目の前を上下していた。

 

“あー・・抱かれてるんだ”と思った。

 

「あん、あん」声をあげながら涙をこぼした。

揺れる視界が涙でぼやけて必死に滝沢の肩にしがみついて

「いい・・、イイ・・イクー・・・」と発狂した。

大きく口を開いて何かを吐き出すように喘いだ。

身体の髄に響くような滝沢の突き上げは

心まで届いて彼のコトを押し出してくれるだろうか?

 

「あぁん・・ん・・んっ、もっとぉー・・」

滝沢の腰は異常をきたした機械のようだった。

一度突き上げられると頭2つ分ベッドをはい上がった。

それを堪えて滝沢にくっ付いていると3度に1度の割合で突かれる場所が

外から一番遠いところで、身体全部が性感帯に変わっていっぺんに刺激されてるみたいにメチャメチャ気持ち良かった。

 

「あー・・・ぁんっ、はっ・・、は、はっ。あん、あー・・・っ」

ぶわっと鳥肌が立ったと思ったら身体全部が脱力して腹を白い液体が流れていた。

滝沢はまだ息が上がる上気した身体に左手をねっとりと這わし、

こねるように身体を撫でた。

左胸には唇を押し付け上唇と下唇を上手に使って甘噛して、

その唇の間からチョロチョロと舌先を出して小さなキャンディーを舐めた。

 

「・・ぁ・・」

小さく漏れ出す声を聞いた後、滝沢は何も構わずにまた腰を揺らし始めた。

滝沢が吐き出した液体がちゅぽちゅぽと湿った音をたて、

柔らかかったモノが次第に身体の中で膨れ上がっていく・・・

だんだん一杯に埋まっていく感覚が新しくて気持ちが昂ぶっていく。

いつもは入り込んでくる滝沢に自分が大きさを合わせている気がしていたけど、

中で膨れていく滝沢は俺の大きさになるとピタリと内壁に密着して、

初めて一緒になった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日3晩、俺たちは片時もベッドの上から降りることはなかった。

 

細かく噛み砕いた食べ物を口に移して深いキスをしながら飲み込む。

 

「俺の舌も一緒に飲んで・・・」

 

滝沢は時々こんな台詞を吐いた。

もしかしたら受動的な受け入れる愛の方が俺は楽なのかもしれない。

喉の奥からせり上がって来る飲み込んだばかりの食べ物を堪えて

滝沢の舌をぐっと飲み込もうとする。

むせ返って唇を離すと滝沢は悲しそうに「ごめん」と謝る。

「翼に飲まれて一緒になりたかった」と言う。

 

 

いつまでも吐き出せないまま翔君への気持ちは胸に残ったままだ。

 

 

 

 

俺がマリを残してあの部屋からいなくなった日。

泣きじゃくるマリを抱きながら、

独りあの広すぎる俺の匂いと思い出で溢れた部屋の中で、

こみ上げる涙を堪えきれずにただ子どものようにj涙を流したと滝沢は言った。

 

翼の匂いがあの部屋から無くなってから襲われる

とてつもなく大きな寂しさの重圧にとても一人じゃ耐えられなかった。

それでもいつか翼が戻ってきてくれるんじゃないかと思って・・

そう思って・・・

オフの日には一日中玄関の鍵を開けて、

テーブルにご馳走を支度して、ダイニングで翼の帰りを待ち続けたとも言っていた。

 

仕事の合間にはかかってくると信じて疑わない携帯をチェックして、

翼の携帯に繋がるまで何度も・・

何度もダイヤルをして発信履歴が1度の休憩時間でいっぱいになった。

時間と日にちが経つたびに着信履歴から翼の名前が消えていって、

すっかりなくなってしまったのは翼がいなくなってから2日後のコトだった、そうだ。

 

 

 

アイドル2人の失踪を5日間も隠しとおせた事務所の力の凄さを少しだけ恨めしく思った。

翔君が翼を5日間も拘束出来るなんて許せなかった。

5日間の間に何回ヤったんだろうって考えたらそれだけで気が狂いそうだった。

だからあの夜“嫉妬で立ったんだよ”秘密めいた言葉で締めくくる。

くすくすとさも面白そうに笑ってあと2日だよ・・と囁いた。

 

「翔君は・・?今・・」

言いかけた言葉を遮るように滝沢は言う。

翼は何も心配しなくていいんだよ。

翼に多少の傷がついたとしてもそれはオレが埋めてやれるからね。

翔君には悪いけどこの一件で消えてくれるだろう。

事務所だって黙っちゃいないだろうし、直接手を下さなくても翔君は自分で翼の側には近寄れない状況を作り出してくれたんだからありがたかったのかもしれないな。

 

きっと翔君はひどい目にあってるだろうことはその言葉から十分計り知れた。

ここから逃げ出して翔君を助けようか?

5日前に滝沢の家から手を引いてくれたように・・・

でも・・・

 

滝沢は24時間俺の側にいた。

仕事も何もかもすっぽかして。

 

 

タイムリミットはアト2日だろう・・

 

 

 

 

 

2日後、予想通り滝沢は自宅を出て行った。

計算外だったのは出かける30分前まで一晩中俺を抱いていた事だった。

抱きしめて眠るのではなく、きちんと8時間労働。

さすがに膝が笑って立てなかった。

 

情けなくてベッドに突っ伏して枕に顔をうずめた。

滝沢は全て知っているんだろう。

無音の部屋には毎日のように響き渡っていた俺の喘ぎ声が残っているようで、

耳を塞いだけど、耳にもその声は残っていて、頭の中まで響いてきた。

 

気付いたらそのまま眠っていて、

滝沢に揺すられあと1度で意識を飛ばせるという所で目覚めた。

数時間前まで抱かれ、夢の中まで滝沢に抱かれ、

身体には疲労感が残り鉛のように重い頭で寝返りを打った。

 

 

 

目の前に滝沢がいた。

「だいぶいい声出してたよ・・・抱かれ足りないんでしょ?」

そう言って滝沢は夢で半立ちになっていたモノをぐっと握って上下に刺激を与えた。

完全に立ち上がったものを口に含んで舌で舐めまわし、

先端を柔らかい舌先を使ってチロチロと刺激する。

トロトロと湧き上がってくる蜜を唇を上手に使ってちゅぱちゅぱとしゃぶって、

爪で根元を優しく掻いた。

筋がブルブルと震えて滝沢の口の中に全てを吐き出した。

滝沢は右手の長い3本の指を自分の口の中に突っ込んで、

残りの吐き出されたものを口に含んだまま俺の唇にも同じものを流しこむ。

いつまでも身体の中に留まっている気持ちは、

滝沢への快楽で吐き出されても何度も身体の中に戻される。

 

唇を押さえつけて身体の自由を奪ってさっきの指を入り口に当てられる。

キュっと締まると同時に指を食い込ませるとぐっと指を銜え込んでいく。

くにゅくにゅと指を動かして緩まっていく自分の身体の反応に絶えず

声を上げて滝沢にしがみつく。

 

指をクッと折り込んで内壁を強めに擦ると痛みが走って足をバタつかせた。

暴れる俺をきつくベッドに押し付けて無表情で滝沢は何度も同じ事を繰り返す。

ベッドのスプリングが波打つように揺れ身体が跳ね上がり叫び声を上げ、

必死に抵抗しているようでそれでも罰を甘んじて受けているように堪え続けていた。

ひときわ強く滝沢が指を内側に押し付けて指を引き抜いた時には、

部屋中に鉄サビの匂いがプーンと漂いミシミシと軋みながら滝沢を銜えていた。

呼吸を止めて滝沢の動きに集中してミリ単位で突き進んでくる身体の内側を感じる。

 

「っ・・ん、はっ」

耐え切れなくなって息を吐いた瞬間に滝沢はズンと身体を付いてくる。

不意の動きに思わず身体を弓のようにしならせ叫び声を上げる。

 

全部入ると滝沢は臍から唇に向かって舌をゆっくり這わせて、静かに上下運動を始める。

身体にはいくつもの唇に繋がる道筋が出来、胸を通る時は必ず歯を立てた。

ゆるゆると身体に余裕が出来ると滝沢のスピードはゆっくりと上がり、

それに合わせて俺の声も甘く、高く、大きく変わっていく。

 

「あぁー・・・ん。あ、あっ・・んっ」

抱えられた脚を肩にかけたまま恥ずかしい格好で頭を振りわめき散らす。

滝沢は激しく身体の奥を探ろうと突き上げ、

早くそこを突き上げて欲しくて滝沢の腰の動きに合わせて一緒に腰を振る。

 

早く誰も知らない俺を見つけて・・

身体の奥に眠る翔君も滝沢も誰も知らない自分を・・

これ以上辛くないように・・

 

滝沢とぴったり一緒に動いて、突かれる度にしがみつく肩に爪で赤いラインを何本も引いた。

最後は滝沢の首に腕を回しぐっと引き寄せ「愛してる・・」と囁いて

一緒に真っ白に染まった。

 

 

 

その夜滝沢は1度しか俺を抱かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝目覚めるとベッドには1人きりだった。

シーツにまぎれるように一枚の白いメモ用紙が置かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。愛してた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一行だけ書かれていた。

 

「愛」の文字の上に涙が一粒こぼれて文字が滲んだ。

 

そしてその一枚のラブレターを握り締め2度目の“さよなら”をこの部屋の主に告げた。

 

想い出と切なさと・・

1度目に残せなかった“愛”を残して・・・・

 

 

 

 

 

 


 
あとがき
 
ついに完結なのかまだ続くのか?(笑)
一応未発表作品です。
結局翔翼だったにも関わらず滝翼なんだか翼のみの話なのか不明な形にしてしまい、
前回翔翼を好きだと言ってくださった方たちの期待を裏切ってしまったんではないかと不安なんですが・・
(いかがでしょうか・・・?)
 
実は本当は最初のコンセプトは翔様と滝様のタイマンのはずだったんですが、
彼らの直接タイマンは止めました。
精神的なところでお互いにけん制し、敗北を味わう方がイイと思ったんです。
だからすっとばした場面もあるのですが、そこは絶対に書きません。
 
この話で碧は愛について真剣に考えそれを精一杯文字にしました。
今出すせる答えの全てです。
「愛してる」「愛してた」のみしか互いに交わした本当の会話はありません。
ここがこの話の全てです。
解説してしまうとあまりにも興ざめなのでこの辺にしておきます。
 
とにかくこの話は思い入れが強くて・・
楽しんでいただけると嬉しいです。
(出来上がったのは7月末ですね)
 
 
                     2002/8/3     碧