たとえば翼の音を奪ったら・・
翼はどうやってこの俺の鼓動を聞くだろう・・
たとえば翼の声を奪ったら・・
翼はどうやって僕に想いの全てを伝えるだろう・・
Bad Communication
夢の中に広がる闇。
小さな星が見えてその星に向かって歩いていった。
近づいていくとその光は大きくなって
僕を包み込んでそのまぶしさに耐えられなくて瞳を閉じた。
うっすらと瞼を押し上げると滝沢の顔が見えた。
まだきっと夢の中だ・・
だって、滝沢の唇が懸命に僕の名前を呼んでいるけど何も聞こえない。
「・・・(つばさ)・・・(つばさ)」
滝沢の瞳から一粒の涙が僕の唇に零れ落ちて気づいた。
これは現実だ・・
その後のことは覚えていない。
滝沢の僕を呼ぶ声が
最後に滝沢の腕に倒れこんだ時から止まっている。
ねぇ?滝沢。
どうして僕の耳は君の声を運んでくれないんだろう?
そう何度口にしようと思っただろう?
溢れる言葉をこの唇に乗せて、
何度滝沢に届けようと思っただろう?
でも、僕の声はこの唇からは零れ落ちない。
時々痛いくらいに頭を襲う静寂が
僕の静かな生活を脅かす。
耳を塞いで、拒絶して、もがいて苦しみ、耐え抜いて、
それでも僕の耳には聞こえない音が運ばれてくる。
欲しいのは滝沢の甘く響く優しい声だけなのに・・
その声で僕を安心させて・・
その滝沢の音で・・
長い眠りから覚めた後の滝沢は
あからさまに僕の取り扱いに困っているようだった。
昔のように触れてくれない。
何に戸惑っているのか分からなくて、
不安になって、どうしたよいのか分からなくて、
怖くなって、小さな子どものように泣こうと思っても、
声もなく泣くことしか出来なくて、
もどかしくて、
イラついて、
結局暴れてまた滝沢を困らせる。
そして、それがまた滝沢を遠ざける・・
それが僕らの日常になった。
不安なんだ・・
滝沢の声が聞きたい・・
何でもいいから僕に話しかけて欲しい。
でも、それを伝える術もない。
そして、時間だけが流れてゆく・・・
僕らに残されたものは何もない。
ここは静寂の世界。
音のない闇。
そうして僕らの心の隙間は少しずつ少しずつその距離を広げていく。
そしてそれが埋められないほどになった時、
僕らの関係もともに終わるだろう。
この静寂の闇とともに
この気持ちも色あせて、失われていくに違いない。
言葉がなければ・・
翼が熱を出した。
高熱にうなされること5日間。
目覚めた時にはどんなに安堵したことか言うまでもない。
でもそれが、僕らの新しい静寂と闇の生活の始まりだった・・
目覚めた時、翼は呼びかける俺の口元をじっと見つめていた。
まるで生まれたばかりの子どものように・・
不思議なものを見るかのように・・
嬉しさで込み上げてきた涙の雫が翼の唇に落ちたとき翼は突然暴れだした。
声もなく、ただ激しく・・
翼の初めての姿に戸惑った。
翼に対してどう接していいのか分からなくなったのは初めてだった。
それが今まで持っていた翼への自信の全て奪って行った。
高熱が翼の耳から音を奪って行った。
翼の無事と引き換えに。
もう俺の声も翼の耳には届かない。
何度呼びかけても反応することのない翼。
落ち着いても放心したまま何日も窓の外を眺めて、
時々音もなく激しく暴れた。
目が放せない状態が何日も続いて、
食事すらも受け付けないでまるで翼の周りだけ時が止まっているようだった・・
音のない闇に突き落とされた翼の生活は僕の想像を絶するものだった。
『音がないことほど音を感じる生活はない』
と医者に言われたけど、最初は何のことかさっぱり分からなかった。
"音がない音"というものが存在するようで、
時々翼は聞こえるはずのない自分の耳に両手を当てて
ベッドの上でもがき苦しんだ。
もがき苦しむ翼に何度呼びかけても俺の声は届かない。
どうして良いか分からない俺は今までの翼との生活を全て捨てて、
音のない翼との新しい生活を模索しなくてはならなくなった。
音を失った翼は声も同時に失った。
長い間高熱にうなされたことで声の出し方を忘れてしまった上に
自分の耳が聞こえなくなってしまった事が余計に拍車をかけた。
僕らは生活を共にはしていたけれど、
以前のようには生活できなかった。
言葉が、音がない生活が
これほど僕らに様々な事をもたらしていたのかと
まざまざと思い知らされた。
たかが言葉一つがどれほど僕らの心を結び付けていたのか。
たかが言葉でこれほど俺は安心するのか。
たかが言葉でこれほど俺は不安になるのか。
目に見えない心が大事だなんて言っていたけれど、
実際は言葉のように"音"という形になるものがなければ
僕らの心の距離は保っていられないことに気づかされた。
それは僕らのような不安定な関係にはなおさら必要なものだったに違いない。
それは残酷なことだった。
これに気づいた俺たちは辛すぎる現実だった。
もう二度は戻っては来ないものを僕らは失ってしまったのだから。
そして翼は1ヵ月後、この僕らの、俺の家から姿を消した。
言葉がなければ・・
それはこの世の果て・・
■あとがき
やっとこさ無理やり終わらせてしまいました。
すいません>あおいあかね様
キリリク何番でしたっけ?(最悪です・・)
何だかこれで良いのだろうか??
意味不明作品をあげてしまいましたが、
これでキリリク最後にしようかと思っています。
だって、余りにもかけないんですもの・・
って事で許してください。
2001/11/24 碧