あらすじ
ある日滝沢が自宅に連れ帰った赤ん坊と翼は滝沢の留守中を二人で過ごす事になった。
赤ん坊の名前は"マリ"。
赤ん坊の扱い方を知らない翼はすっかり困り果ててしまう。
そんな時にふとマリから漂ってきた懐かしい粉ミルクの匂いに誘われて
過去に蓋をした翔君との思い出が蘇ってしまう。
翔君が赤ん坊だった妹の面倒を見たことがあるというセリフを思い出し
思い切って翔君の携帯に電話をかける。
物語は物語はそこから始まります・・・
この話はラリ様のゲスト小説「Sweetest taboo」(完全なるギャグ話)の結末違いでございます。
明らかに話の流れを無視したつくりでございます。
このシリアスさ。あのギャグさ。ありえません。(笑)
本をご購入いただいていない方には少し分かりづらい点もあるかと思われます、
とても不親切は話を書いてしまいまして大変申し訳ございません。
(いずれ本編「Sweetest taboo」もアップされるかと思われます。お待たせしてしまい申し訳ございません。)
さらに、この物語は滝翼好きの方にはおいしく召し上がっていただけない代物です。
要するに、滝翼はこの話の中ではありえません。単純な翔翼でもございません。
微妙に痛いエピソードで滝沢さんが出てきますのでご注意が必要です。
大変申し訳ないのですがご自分で判断されてお読みくださいませ。
ネタバレになりましたが、コレを避けますと多くの方に被害が及ぶ可能性もございますのでご了承くださいませ。
しかし、しかし、人になんと言われようと碧はコレが書きたかったのよっ!!
お許しを・・・
それではどうぞ・・・・
Bittersweet Peccadillo
「特に翔君はな・・・」
うっかり呟いてしまった。
もう二度と一人で呟かないと誓ったはずの単語を。
その "翔" という忘却の彼方に忘れ去ったはずの文字が、
かつて何度となく繰り返したその愛しい単語が唇に乗りその音を蘇らせた。
それと同時に失くした記憶と想い出が鮮やかに蘇る。
色を失った世界が "翔" という音に色づけられる。
俺の唇にかすかに残ったその言葉の響きが、
何とも言えないほろ苦い想い出と熱を胸の中に呼び起こさせた。
あの赤ん坊の懐かしいミルクの匂いが俺を誘ったように、
その言葉が・・俺の過去を彼にもう一度強く近づけた。
"もう一度・・・"
その先にどんな言葉をつなげる・・?
・・・・・何を考えているんだろう?
呆れるくらい幸せなのに・・
でも、翔君との想い出は今の幸せとは比べられない。
今の幸せ過ぎる痛みとは引き換えられない。
一度失ってしまった大事なものは二度と手に入るわけがないと分かっていた。
それなのに本当に失ってしまうと、胸に残されたこの空虚感に耐え切れず、
もう一度埋めようと無くしたものを同じ形ではめ込もうとしてしまう。
それがどんなに意味のないことでも、空しいことでも、それをしないではいられないほど寂しかった。
そんな単純なことにあの頃は気づかなかった。
空いた風穴の大きさに気づいたのは後悔の後だった。
翔君は胸にぽっかり空いた穴をふさごうとはしなかった。
それは、俺自身が最初に望んだこと。
決めたのは自分。
選んだのも自分。
それが本当に手に入らないものだと気づいた後は代用品を探した。
代わりなんていくらでもいる。
形を歪めて、重ねてしまえば、満ち足りなくても通り抜ける寂しさは幾分軽くなる。
口は互いの唇で、耳には甘い囁きを、ただ一つ身体に空いた穴は身体を繋げば・・
溢れ出す虚しさをせき止めてしまえばいい。
滝沢の優しさも、温かさも、幸せを錯覚し、愛情を誤魔化し、
自分を騙す上手なウソをつくには十分過ぎるほどだった。
"俺にとって滝沢は翔君の代用品だったんだろうか?"
少しだけ後悔した。
考えた事も、それが事実だということにも・・
今はここにいない滝沢を静かに想って涙を流す。
歪む左胸に片手を当てて携帯のナンバーを一つ一つゆっくりと押す。
鳴り響く切ないコール音はいつまでたっても愛した過去の彼の心に響かないのではないかと思った。
5度目のコールで胸の高鳴りはピークに達し、8度目のコール音で一気に冷めた。
13度目のコールにため息が入り混じり、16度目のコールで耳元から電子音が消えた。
「もしもし?」
そう・・
この声。
電話を通して聞く彼の声が好きだった。
いつもはよく通る声が電話を通すと少しだけくぐもって耳に届くのがくすぐったくて、
何かあると連絡や報告と称して彼に電話をした。
そんな幸せな時間は遠い昔のこと。
電話の最後はいつも「またね」だった。
"さよなら"は翔君の口から一度も聞いた事がなかった。
一度だけ「なぜか」と尋ねた事がある。
その時苦しそうに「寂しいから・・・」と答えたあの声をいまでも忘れていない。
最後の「またね」はいつのことだったろう・・・
あれからずいぶん時間がたってしまった。
こんな風に"また"がやってくるなんて思わなかった。
「もしもし、翼だけど・・・仕事中?」
遠慮気味に話を始める。
遠い昔に別れを決めたはずの相手からの突然の電話に
言葉をなくしている翔君のその沈黙が俺を責めるように聞こえた。
静けさが痛いほど胸に突き刺さる。
「・・・あっ、今・・は〜、大学。ちょうど休講が出てて時間もてあましそうになってるところ。
久しぶりだね、どうしたの?翼君。」
彼の声で聞く、"翼君"に躊躇いと切なさが含まれていた。
滝沢の呼ぶ"つばさ"は愛おしさで満たされていて、呼ばれた俺が切なくなる。
翔君の呼ぶ"ツバサ"は確かな愛情に諦めが入り混じっていて呼んでいる翔君が辛そうだった。
どっちの"翼"も俺だった。
翔君の優しさは彼の中に留まったまま変わっていない。
言葉の節々に感じる小さな気遣い。
翔君らしい返事だった。
「うん・・・あのさ、もし良かったらなんだけど、さ。今から滝沢の家に来ない?」
無遠慮だと思った。
"滝沢の家"
こんなに失礼な言葉を自分は言葉として翔君に伝えられるのかと知って自己嫌悪に陥った。
2度目の沈黙は電話口から虚脱感が聞こえてきそうなほど長いものだった。
戸惑いとイラつきが渦を巻いて翔君の言葉に飲み込まれる。
「ん・・・あぁ。場所・・・は?」
「・・・二人でよく降りたあの駅。」
このセリフが二人をつなぐ電話の距離を一気に思い出で埋めた。
目の前に広がるのはあの寒い冬の夜。
最後に翔君に会うはずだったあの深夜の駅だった。
果たされなかった約束の言葉を一つ胸に抱き、翔君を待ったあの夜。
いつまでも・・永遠に待っても良かった。
待たせてくれるなら、それでも良かったんだ。
あの時、あの場所にこの心を置き去りに出来れば・・・
いつか翔君があの場所を訪れて消えない俺の想いに気づいてくれるように。
あの日、翔君が辿るはずだった俺への目印の星たちが、
頭上を越し視界から姿を消していく様子をいつまでも眺続けた。
地平線から消えてはまた昇りいつまでも夜が明けずに、
繰り返しあの星たちが巡り続ければいいと願いながら。
翔君への果てる事のない巡る想いと同じように・・・
翔君の最後の言葉の魔法が解けるように、目の前の空が次第に赤く染まっていく。
それと同じように赤く染まった俺の身体を抱きすくめたのは滝沢の温かい腕だった。
あまりにも簡単に答えを出しすぎた俺たちに、
まだ戻れる道を示すためにわざと苦い想い出を突きつけた。
自分にも翔君にも・・・
それは間違っていたかもしれない。
湧き上がる二人の感情が表面張力で自分の中に留まっていることに気づく。
もうあと一滴・・
ギリギリの想いが放つ次の言葉が、
そのバランスを崩れさせるものになるという事はお互いに分かっていた。
「ソコで待ってて」
そう言って翔君は電源を切った。
携帯を握り締めたまま、立っているのもやっとな身体をいすに落とした。
知らぬ間に瞳から流れ落ちた雫が静かにシャツにシミを作る。
一つ・・二つ・・
広がるシミに比例して想いは心に広がった。
俺に預けられたままになっていた翔君からの『最期の科白』を聞くのは二度目だった。
大学には正門から校舎まで長く続くケヤキ並木がある。
寸分狂いもなく並ぶその様子は嫌いではなかったけど、
時々堪らなく嫌な気持ちに襲われることがあった。
人と足並みを揃えて、きちんと整列して、歩いてゆく・・・
そんな人としての生き方を示唆しているようで。
そんな無意味な事を強要しないで欲しい。
その波から乱れても誰にも咎められないそんな世界に生きたい。
そう、強く思いながら今日のその坂道を周りの人よりゆっくりと一歩一歩登った。
その坂道を登りつめた場所にある大学の掲示板の前に到着した時、
携帯の振動が身体に伝わってきた。
この振動が心すらも揺るがすものだなんて気づくのにそれほど時間は必要なかった。
絶対にディスプレイに名前が表示されることがないだろうと
何度消去しようと思ったか分からないまま残していた彼の名前が携帯に映る。
はやる気持ちと躊躇いが通話ボタンを押させない。
"留守電にしていれば良かった・・"
止まらない携帯の振動は心までも震えさせてゆく。
小刻みに動く指が携帯の振動のせいなのか、
それとも自分の心が揺れさせているものなのか判断するのに16度のコールが必要だった。
通話ボタンを押して会話に集中しないように、
自分の心から眼をそらすように瞳に掲示板を映す。
準備していた心構えなんてふっ飛んで一気に過去にトリップする。
低く響く翼君の声が、眠らせていた過去を優しく揺り起こす。
起き上がる想い出に開いた唇から声が出る時間を奪われる。
沈黙は彼を責めるものではなく、
のどにつかえる想い出たちが彼を懐かしむために必要なものだった。
こんな時でも頭のどこかは冷静で、
"翼君に何かあっただろう"と、話をしやすい状況を作り出そうと言葉が出た。
久々に彼に直接呼びかけた名前は想い出の欠片の最後の一つだった。
ピースが揃ったパズルを解くのは簡単な事だ。
想い出が再び"想い"のカタチになって心に宿る。
しまい忘れた想い出は時が経つにつれ一層濃く色を放つ。
過去が今、目の前に鮮明に蘇る。
それとほぼ同時に彼の口から聞いた
"滝沢"という言葉の響きに次の沈黙は避けられなかった。
僕の名前と彼の名前。
どっちが多く呼ばれたんだろう?
どっちが言い慣れてるんだろう?
翼君はどっちが好きなんだろう・・・
耐え切れない切なさは僕を少しだけ狂わせた。
理性で感情が止められない・・・
どうして二人を強く結びつける場所にこんなに強く引かれたのだろう?
"滝沢君の家"
そこで流れる普通の二人の日常。
一般的に非日常な二人の行為。
彼らの中に存在しない異物な僕がそこにどうやってなじむことが出来るだろう。
あえてそんな分かりきっている事を確認して再び傷つかなくても、
自分はもう十分傷ついたはずだったのに。
僕が翼君から奪った幸せと安心は滝沢君が愛情で十分に埋めた。
滝沢君が埋めた翼君の寂しさは想いなのか身体なのか、
翼君の切なさはどこに消えたんだろう・・・?
滝沢君は僕より翼君に与えている幸福が多いのかもしれない。
滝沢君は決して何が大事か見逃さない。
だから彼は翼君を哀しませない。
俺にはそれが出来なかった・・・
後悔・・?
したよ。
さんざん。
でも、遅かった。
いや・・・滝沢君が早かったのかな・・?
そんなことに嫉妬して、翼君が牽制した言葉を無視して、
過去に置き去りにして守れなかった言葉をもう一度翼君に贈った。
「待ってて・・・」
この言葉がどれほど僕を悩ませただろう。
僕らを別かち合ったこの言葉をあれから誰にも使わなかった。
これは僕が翼君に最後に贈ったもの。
想い出をそのままにしておきたかった・・・
あれから一人で生きてきたわけじゃない。
でも・・・
そうして欲しかったのはこれまで翼君だけだった・・
ずっと・・待っていて欲しかっただけ・・・
"今度は絶対に見失わない・・"
そう強く思って・・・
果たせなかった過去の約束をもう一度翼君に提示した。
滝沢の家で翔君を待つ間、俺は過去に過ぎ去った時間と今を重ねていた。
また同じように・・
翔君がここに来なかったら、今度こそダメになってしまう。
だから翔君とはもう二度と約束をしないと決めていたのに。
めぐる想いはいつの間にか過去と同じものになり、
忘れたはずの想いがいつの間にか胸を焦がす熱い情熱と変わった。
重ねた時はいつの間にか過去を再現し、
あの冷たい肌を刺すような風がこの温かい滝沢の家で感じられた。
あの時と違うのは・・・
翔君を待つ自分の状況だけだ。
今は滝沢がいる。
それだけだ。
滝沢の家に静かにチャイムが響く。
同じ音に聞こえるはずなのに、
滝沢が押す時とは違う音色が胸に苦味を運んでくる。
ゆっくりと息を吸い込み、ドアノブに手をかけた。
ドアの向こうでもノブに手をかけている翔君のその手の感覚が金属を介して伝わってくる。
冷たいはずの金属が人の温みと、柔らかさを感じさせる。
翔君の想いまで伝わってきそうで、
自分の幸福が揺らぎそうで怖くなって手を離そうとした。
捨てたくなかった。
この滝沢との生活を。
捨てられないよ。
滝沢を。
あの日どれだけあの腕に癒されただろう。
どれだけあの腕の中が心地よいと感じただろう。
あの腕の中で翔君との全てを忘れて、
あの腕の中で滝沢との全てが始まったんだから。
あの腕の温かさを失う事をもう怖いと思うんだ。
滝沢を失うってことを怖いと思うんだ・・・
それって"愛"だろ?
離そうとした手はなぜだか握られたようにノブから離せなかった・・・
のぞき窓を覗くと俺をしっかりと見つめる翔君の姿があった。
ドア越しに互いを見つめあい手を握り合う二人にもう現在(いま)は関係なかった。
確かなのはこの手に伝わるお互いの熱だけ・・・・
これは裏切りでも、過ちでもない。
思い切って過去と現在をつなぐ扉を開いて翔君の胸の中に飛び込んだ。
お互いの間に流れた時の長さだけ想い募った感情が僕らを別ちがたくする。
互いの身体の間の空間さえ恨めしく思うほど僕らは側にいたいと思った。
この手が求めてやまなかった翼君の細い身体を受け止め
やっと「ただいま」とこの手に翼君を抱きながら言う事が出来た。
俺を包んでいた柔らかな温かい痛々しい幸せのビロードが
翔君のいる冷えた世界に広げられる。
その光の帯が僕ら二人を包みだす。
映し出される二つのシルエットがぴったりと重なり合う。
抱かれた強さだけ、抱き返す腕に力を込める。
身体を近づけても埋まらない過去を忘れるために。
きつく抱き合った翔君の胸からゆっくりと顔を上げた。
俺はこの扉から明日へ走り出す。
滝沢から与えてもらった幸せと温もりを捨てて。
翔君と幸せと温もりを与え合って生きていく。
寂しさも切なさも二人で埋めよう。
いつまでも・・・
開かれた扉の向こうに広げられていたビロードが
僕をつなぎとめる冷たい縄に変わる。
身体に巻きつく滝沢の優しさ。
軋む縄からすり抜けて、翔君の手のひらに手を伸ばす。
ガラス越しに見つめ合ったあの瞬間(とき)の約束を無言で確認する。
静かにうなずいて、滝沢より少しだけ小さな翔君の手をしっかりと握り締める。
この手はもう二度と離さない。
離したくないと思った・・・
静かに閉まろうとする滝沢との生活。
扉の向こうからマリの泣き声が聞こえてくる。
まるで滝沢が「行くな」と言っているように聞こえた。
でも今は、確かに伝わるこの翔君の想いが俺の耳に優しくふたをする。
その光の縄が次第に細く、小さく消え行く。
カタチを変えた細い一筋の金色の糸が手首に絡みつく。
いつまでも滝沢の想いが俺の身体に触れ続ける。
その最後の未練を翔君は口付けで解く。
最後の光の糸が消えて扉が閉まる。
もう何も聞こえてこない・・・
何もかもを捨ててこの滝沢の家から俺は出て行く。
本当の幸せを求めて。
言葉一つ残さず、思い出という切なさだけを残して・・・
あとがき
いかがでしたでしょうか?(恐る恐る)
HPでは久々ですね。一ヶ月ぶりです。
それがコレです。(痛くてすいません。)
読んでいただけて本当に嬉しいです。
これは本当に本当に哀しくも愛しいお話ですが碧はコレを愛して止みません。
久々に翼話を書いたのですが相手が滝でなければ大丈夫なのかもしれません(笑)
意味もなく相翼とか書いてしまいそうです(アリエン)
それにしても、翔君の知的さが翼君への愛によって崩壊する姿がとても好きです。
実はこの話の中で翔君は嵐なんですよ。
だから、このままアイドル二人行方をくらましたって終わりの続き(笑)なんですよ。
大学も家族も嵐も世間のしがらみも全て捨てて翼君とやり直す人生にかけた翔君に乾杯☆
そして何よりあの滝沢の愛から逃れた翼に幸アレ!!
これをあとがきに変えさせていただきます(笑)
では、またお会いする日まで・・・
碧 2002/3/14