| "花火ってキレイだけど・・なんだか寂しい”
花火 大きな二尺玉が夜空を明るく照らし、 赤や緑のカラフルな一瞬の星たちが夜空に散る。 その晩だけは星たちもいつもの輝きを少しだけ鈍らせて 真夏の空を彩る火の粉たちに主役を譲る。 きらきらと輝く花火を見上げてため息と一緒にもらした言葉。 一瞬の輝きがあまりに切なくて悲しくなって恐くなった。 自分たちの輝きもこの一瞬の花火と同じなのではないかと・・・ 今、隣に当たり前に立っている彼は3年前に 以前同じようにココに立っていた彼の代わりにやってきた。 その彼も今はもう別の人の隣に立っている。 8年の間にここに立つ人が何人かいて、 その花火のような一瞬を共有した一人一人と たとえ短くとも深く付き合ってきた。 それでもいずれいなくなってしまうことを考える事など 花火を一緒に見ているときは考えた事はなかった・・・ もしかしたら今、この隣にいる彼もいつか・・・ そう最後まで考え付く前に隣にいた滝沢から伸ばされた手が 自分の手をそっとさらって握り締めてくれた。 まるでその先の答えを許さないように。 だからその手の温もりだけに未来を託して、 消え行く花火の残像に2人を閉じ込めようと強く手を握り返した。 今まで隣に並んでは花火のように空に散ったまま 夜空にまぎれて消えてゆかないように。 夜空高く消えた花火の余韻を1人で楽しみたくて コンビニで小さな花火セットを買って近所公園に入っていった。 壊れたおもちゃの小さなバケツに水を入れてブランコに腰掛けて 小さな細いロウソクに火をつけた。 まだ花火の打ちあがる爆音が耳から離れずにいて、 ぼんやり聞こえる自分を呼ぶ声が聞き覚えのあるものだけど なかなか誰の声なのか思い出せないでいたら 浴衣の袖と一緒に手首を捕まれて振り返って目に映した彼の姿は 3年前に隣からいなくなった翔君だった。 滝沢と一緒に見上げた花火の大輪を 翔君は別の誰かと一緒に眺めていたらしかった。 どうしてココにいるのか尋ねたら 『花火したくなって・・』と同じ花火セットをチラつかせた。 笑って翔君に『どーぞ』と隣のブランコを勧めて ロウソクから花火に火を移した。 小さな炎がシューシューと音を立てて色を変えてゆく。 小さくなって消えてゆく花火の先端を見つめては 小さなバケツに花火の燃えカスを刺していく。 ただ無言で花火に次々火をつけては捨ててゆく。 ぱちぱちと音を立てて、華のように火の粉を振り撒く 線香花火によく似たオレンジ色の花火が気に入って 最後に残していたら翔君も同じ花火を最後に残していて 「これ、好きなんだよねー・・」なんて口にして 初めて口を開いた。 「オレも・・・」と短く返すと翔君と同時に火をつけた。 2人の花火が公園の小さな空間をぽっと明るくして オレンジの明かりが2人の顔を温かい色で染める。 昔、中学生の頃、子どもだけで花火をするのを禁止されていたにも関わらず 親に内緒でこの公園で翔君と2人、花火をしていたのを思い出した。 あの時、中学生に見えなかったオレたちは近くを通りかかった 巡回中の駐在所のおまわりさんにこっぴどく叱られて、 おまけに親にまで連絡されて翔君と2人で酷く怒られた。 それから2人で花火を禁止されたオレたちは 花火といえば今日の花火大会に足を運ぶことだった。 それで高校生になった年に花火大会の帰りに 今日みたいにコンビニに寄って小さな花火セットを買って 2度目の2人だけの花火をして線香花火の最中にキスをした。 すーっと消えていった明かりをまた闇と静寂が包みこむ。 不意に翔君が「こっちさ、線香花火まだ余ってんだよね」と声を出して、 「やる?」と3本線香花火を差し出された。 黙って受け取ると翔君は何事もなかったように自分の花火に火をつけて ブランコから降りて膝を抱えて座り、 静かに玉が丸まって火花が散るのを待っていた。 自分の花火にも火をつけて翔君と同じようにブランコから降りて 静かに小さな花が手元を散るのをじっと見つめていた。 2本目に火をつけた時に翔君が線香花火を見つめたまま 「本当はさ、ここに翼君いるような気がしたんだよね」 と、口にした。 「で、いた。」 花火はただぱちぱちと小さな音を立てて燃えている。 「で、ここに翼君いたらさー・・」 と、言いかけた所で翔君の線香花火から玉が砂地に落っこちて明るさが半減した。 なんだか翔君のその先の言葉が自分の心をドキドキさせて落ち着かせない気分にさせる。 翔君は燃え尽きてしまったロウソクから火を得ることなく 自分で持っていたライターからそっと最後の線香花火に火を移して もう一度じっと花火を見つめて続ける。 「で、ここに翼君いたら・・・そんで花火一緒に出来たら・・」 小さく丸まって勢いよくぱちぱちと散る線香花火から 翔君は一瞬顔を上げてキスをした。 触れるか触れないかの微妙な振動だったのに、 線香花火の玉が地面に落ちて翔君の眼を見つめるしかなかった。 翔君はすぐに自分の線香花火に視線を移し、 遠い所を見るように近くの線香花火を見つめ続けた。 そっと触れられた唇に手を当てると 自分の手が驚くくらい震えていたことに気付いて 線香花火が落ちてしまったワケがやっと分かった。 「もう終わった・・ってちゃんと分かってるよ。 でもさー・・なんかこー理解出来ないていうか、 消化出来ないことって人間あるよね? オレにとってそれが翼君なの。」 線香花火が最後まで燃え尽きて辺りが暗くなって翔君が言った。 「翼君はちゃんとオレ消化できてる?」 尋ねられても答えなんてなかった。 震える自分の手が何もかもを知っている。 このまま自分の手を翔君に差し出せば気付いてもらえる・・・ 暗闇の中そっと翔君に手を伸ばしかけた手を 突然恐くなって自分で引き戻した。 「線香花火・・」 「なに?」 「線香花火。もう落っこっちゃった。」 翔君は『あぁ・・』と言って苦笑いした。 もうそれ以上翔君は何も言わなかった。 1人でちっちゃなおもちゃのバケツを持ってゴミ箱に燃えカスを捨てて、 “落っこちないで燃え続ける花火になりたかったんだ・・・” って、聞こえない声で言って帰っていった。 もう涙は出なかったけど、 “落っこちないいつまでも燃え続ける花火”なら こんなに切ないと思わないじゃない・・そう心の中で呟いた。 |