眠り姫
最近忙しくて翼が家に来ることもなかった。
久々に彼を迎える事が出来る喜びに胸が躍る。
翼の大好きな料理を食卓に一つ一つ揃えつつ、
"翼はぬるめのお風呂が好きだから、今から沸かしておけばちょうど良いかな?"
なんて考えてウキウキする自分が
"恋しちゃってるんだな"と感じさせる。
翼にべた惚れな自分がちょっと悔しいな・・と思いつつ
"それでもいっか!"と思わせる翼は本当に大物だよ。
「もうちょっと翼が真剣にオレのことを想ってくれると嬉しいんだけどなー・・」
ついつい本音が口からこぼれる。
ここにはいない君を想う時間はとんでもなく速く過ぎるんだよ。
夕食の準備を始めたのは夕方の5時だったのに、
今はとっくに8時を過ぎている。
「つばさ遅いなぁー・・・仕事押してるのかな?」
なんて考えてるところに玄関のチャイムが鳴り響いた。
扉をガンガン叩いて
「あけろー!!たきざぁー!」なんて叫んでる愛しい君の声がする。
"ピンポンの意味はなんだったんだ?"
と、苦笑しつつ君が待つ扉を開く。
「ばぁ〜〜!!」
と、さっきまでドアをガンガン叩いて叫んでいたとは思えないほどご機嫌な翼が
扉を開いた俺に向かって翼は飛びかかってきた。
突然のことに驚いたけど、こんなに軽い翼に突然寄りかかられようと特に問題はない。
そのまま翼を両腕で受け止めてよしよしと頭を撫でる。
きゃっ♪きゃっ♪と纏わり付く翼は子犬のようでかわいらしい。
ひとしきりスキンシップが済むと翼はオレの手をするりとすり抜けて
スタスタと廊下を歩いていってしまった。
"オイオイ、そりゃぁないだろう?"
と、あっけにとられる。
ま、オレの姫君はいつもああなんだけどね。
翼の靴を揃えて、だいぶ遅れて翼の後を追いかけていった。
翼はすでにソファーにでんっと腰掛けてふんふん♪鼻歌でリズムを取って
近くにおいてあったファッション雑誌のページを捲っていた。
やっとその姿を確認できる位置まで来たオレに気づくと、
雑誌をパタンと音を立て閉じてオレを見上げて
「おそいっ!!今日のご飯は??おなかペコペコなんだからっ、もうっ!」
と、ぶぅ〜とほっぺを膨らまし言った。
"オッ、かわいいねぇ〜"
なんて心の中で思いつつ
「食卓に準備が済んでおります、翼姫♪」
と、おどけて答えると翼はにっこり笑って
「うむ、じいやは姫のことを良く分かっている、褒美をやろう」
と言って、つかつか俺に向かって歩いてきて肩に軽く両手を置き
頬にチュっとキスをした。
「さっ、ご飯!ご飯!!」と言って何事もなかったように翼は長い足を投げ出し、
食卓テーブルについた。
そして、料理の皿を覗き込み
「おっ、これうまそー」なんて一人でしゃべってる。
こんな翼の突然の行為に時々ドキドキさせられる。
ドキドキがこのまま収まらないんじゃないかって心配になった。
でも、じいやってなー・・・
王子には昇格しないのかな?
なんてくだらないことを考えていたら姫から声がかかった。
「ご飯をよそってくださいな」
すっかり翼姫はその気らしい。
笑いを堪えつつご飯を差し出すと
「何笑ってんのぉ〜?何かやだ。」
翼の神経に触ったようだ。
ここで拗ねるとせっかくの姫との甘い甘いヒトトキが
苦くて大変な数時間に変わってしまう。
すぐにフォローを入れる。
「いや、姫は食欲旺盛だなぁと思いまして。他にご所望されるものがあるのでは?」
と、意味ありげに笑ってみた。
「じいやったら食事時に何を言ってるんだか・・それは自分でしょ?」
と、呆れたように返してきた。
その後、二人の視線がちょうど重なってくすっ・・と微笑みあった。
ご飯をたいらげる・・とまではいかなくとも翼にしてはたくさん食べてくれた。
食べ終わったお皿をそのままに、
「ふぅ〜・・・満腹、満腹。満足だぞ、じいや。ごちそうさま。」
と、言って再びソファーに向かった。
そして、今度は横になってテレビを見出した。
"ごちそうさまは言えるのにあーゆー所はだらしないんだよな・・"と思い一人で笑った。
「姫様、お風呂も沸いていますので、一休みしたらお先にどうぞ」
と、声をかける。
「は〜い・・」
とテレビに夢中になり気の抜けた返事が返ってきた。
しばらく、翼はテレビのクイズ番組の回答者と競って答えを叫んだり、
バラエティーのお笑いに爆笑しつつ一人でいても騒がしかった。
"この人は子供番組でも一緒に踊りだしたり、歌いだしたりするんじゃないか?"
と、心配しつつ台所で洗い物を済ませていた。
すっかり片付けが終わって翼の寝転ぶソファーに行くと
翼はすっかり寝入っていた。
「風呂はいれよー」と声をかけてみる。
「おぉー・・・」と気のない返事が聞こえる。
「まったく・・・そんなところじゃ風邪引くぞ。」と、翼の腕を自分の肩に回し
寝室まで連れてゆく。
ベッドにそっと翼の身体を埋める。
ゆっくり翼から離れようとした時、突然翼がパッチリ眼を開けオレの腕を掴んで引き寄せた。
今度のは完全に不意打ちだった。
バランスを失って翼の横たわるベッドに倒れこむ。
"翼にのしかかっちゃいけないっ"とこんな時にも思うもので、
翼を避けて倒れこんだオレはすごい。
「わーい!騙されたぁ〜」
と、翼は起き上がって手を叩いて喜んだ。
あっけにとられるオレを眺めて、
きゃっ♪きゃっ♪と喜び跳ねて喜ぶ翼が憎らしくなり
「こいつっ!」と、後ろからガッと抱きしめて身動きを取れないようにしてやった。
「うわっ!離せよぉ〜。」と言って翼は足をばたばたさせる。
「うるさいっ!もー本当にお痛の過ぎる姫ですね。今日のじいやは許しませんよ!」
と、言ってベッドに後ろから抱きかかえたまま連れてゆく。
「いやぁ〜!!やだってば!怖いって。マジごめんってば。たきざぁー、お願いだから離してよ。」翼は往生際悪くまだバタバタと足で攻撃してくる。
今度はベッドに投げつけて、両腕の手首をガッチリを掴んで腰の辺りに乗りかかって身動きが取れないようにする。
「さぁ、姫。どんなお仕置きがよろしいですか?」
「お仕置きはやだっ!!大反対っ!!」
「困りましたね。じゃぁ、どうして欲しいですか?」
「離して欲しい!!」
「それはダメです。今からじいやじゃなくて、王子になりますから♪」
「えぇー!!!何それ??」
「もう、姫の世話焼きはしないってこと。」
「王子なら姫に優しくするでしょ?」
「滝沢王子はお伽話の王子じゃないもん♪翼姫がこの城にやってくるのを心待ちにしていたんだから。おいしいものを食べさせて、お風呂に入らせて、そして・・・」
「なんだよっ!今までの全部滝沢の思い通りじゃんっ!つまんないの。」
「つまんなくないでしょ?これから楽しいことするのに♪」
完全に姫様を手中にいれ、かわいらしく反抗するのも、一生懸命もがいている姿も
何もかもがいじらしくてメチャメチャにしたい衝動に駆られる。
ニヤニヤしつつ、"どうしよ〜かなぁ〜?"なんて考えていたら、
翼は突然もがくのをやめ、おとなしくなった。
ふと視線を落とすと、まぶたを伏せキスを待つ眠り姫になっていた。
またも突然の翼の行動にドギマギしていると、
翼はうっすら眼を開けていたらしく、
堪えきれずに笑い出した。
「なっ、なんだよぉー!!」
と、動揺を隠せずにいると。
「困ってる。たきざー、おもしろい。」
と、くくく・・と笑った。
「何して欲しかったんだよ!?」
と、恥ずかしさを紛らわすために翼につっかかる。
「『王子様の優しいキスで美しい眠り姫は悪い魔女の魔法が解けました』ってのをやろうかなぁーなんて。」と翼はおどけて赤い舌をぺろっと出した。
「はい、はい!再挑戦!!どうぞっ!!滝沢王子様♪」
と言って再び眼を閉じ静かに王子様のキスを待つ美しい眠り姫になった。
「・・・」
静かに、優しく、長めのキスを終えると姫様はその美しい瞳でオレを見つめた。
そして、一言こう言った。
「うむ、素敵なキスでしたぞ。じいや。」
オイオイ!今までの甘い時間はなんだったんだよ?つばさぁ。
でも、そんな所が好きなんだけどね♪
その日の姫は"眠り姫"なんて言葉が不釣合いなほど夜遅くまで
じゃれて、甘えて、夜更かししだったね。
眠らない姫もの方が断然嬉しいけどね・・・
Fin...
◇眠り姫あとがき
お久しぶりです、碧です。
お待たせいたしました。
初イチャラブです・・・
こんなことしてないでショックチケ獲りしろよっ!と自分に渇を入れつつ頑張りました(涙)
いかがでしたでしょうか??
これでもういちゃラブを書かないっ!!なんて心に決めてよろしいでしょうか??(むずいー)
どうも翼のいたずらっ子ぷりと、気まぐれっぷりが思いっきり表に出てしまうんですよね。
だから"滝を攻める翼"と皆様考えてしまわれると思いますが、
ただ単に翼がいたずら好き、気まぐれ猫ちゃんなだけです。
本人攻めてるつもりもまったくないし、
滝も攻められてるつもりは全くないんですね。(言い訳ですけど・・)
こんな翼に毎晩いたずらされたいです(ホクホク)
それでは・・・