オモイチガイ





「どうして翼はこんな風にしか言わないんだよっ!!
俺は翼と一緒の"決意"をしたかったの!!
なのに何これ?!
誰も『ギター壊したのオレ』なんてぶっちゃけ話が聞きたかった訳じゃないわけ!!
どうしてこんなことしか言えないんだよ?
翼はさ、俺と一緒の決意とか、これからの二人の決意とかって無いわけ?」

久々の喧嘩だった。
雑誌の取材内容にあまりの翼との熱の違いにヤキモキして
悪くも無いのに翼に当り散らした。

「・・・無くも無いけど・・」
「じゃぁ、どうしてソレを言わないわけ?
せっかく雑誌の取材でみんなに分かってもらうきっかけにもなるんだし。
自分の意思表示にもなるんだよ?
一緒にいたいならソレをちゃんと言わなきゃダメだとか思わないの?
それでなくても俺たちの今の状況って決定事項じゃないんだからさ。
それどころか厳しいって分かってる?
これから一緒にずっと仕事出来るかどうか大事な人生の岐路なんだよ?!
俺ばっかり言ってたってみんな納得してくれないだろ?!
それにこーゆー時じゃないと翼はちゃんと言ってくれないじゃん。」

翼がこーゆー時に何も言えなくなる事を分かってて確信犯的に責めたてた。
翼は黙って聞いている。
言いたい事が無いわけでもない。
こんな俺の理不尽な怒りに反論があることも分かってる。
きつく咬んでいる下唇を見れば一目瞭然だった。
それでも止まらなかった。
翼を責めたてても何の解決にもならないと分かっていても、
翼を責めるのはお門違いって事も・・・

それでも何かを言わずには要られなかった。





不安だった。





常に言葉にしていないと。
自分の想いを形にしていないと。
忘れられてしまいそうで。
待ち望んでいる言葉を正式に告げられるまでは。

あれほど強く欲しいと思っていた言葉が今、
目の前に差し出されようとしているこの状況は喜ばしいものではない。
なぜなら翼が確約ではないから。
同じ言葉をもらうにしても翼がいるといないとでは全く意味が違う。

夢が叶おうとしている瞬間が近づくにつれて
俺の期待や達成感は不安で掻き消されていた。
だから翼に当り散らす事で紛らわしてた。
そんな自分の弱さを。


本当は一人はイヤなんだよ。
翼と一緒が良いんだ。


そんな子供みたいな我侭が通用する世界ではない事も分かっている。
人間関係とかそんな何も生み出さないものより
利害関係と利潤が優先されるビジネスだって事も分かってる。
大人の世界に自分の人生を投げた事もとうの昔に気づいてた。

子供の時に子供らしいこともしないで、
大人の私利と欲望で汚されて、
大人の都合でコマのように動かされた。
そこに意志なんて無かった。

分かりすぎてるから何もいえない。
物分りのいい子供でどれくらい過ごしてきただろう。
もう我侭と自己主張を取り違えてごねられる年齢でもない。

だからこんな事でしか大人に物言えない。
やっと世間に認められる大人になってもそれはただの称号でしかない。
雑誌の中でファンを喜ばせるための言葉でしか自分の意思表示ができない。
どれほど有名になっても、どれだけ大人にチヤホヤされても、
自分がやりたい仕事を選べても、実際自分は何も守れないし、何も決められない。
何が正しいか、何をしたいか、何が大事か、誰といるのが幸せか。
そんな大事な事、大人と称された子供扱いの俺は間違わない。

でも俺はだたの商品だった。
売られる店も、陳列される場所も、買われる人も選べない。
当然隣に並べられる商品すらも・・・



本当は一人じゃ不安なんだよ。
だから翼、お願いだよ・・
お前も一緒に言ってくれ。



"滝沢と一緒に"



その一言で俺の心は救われるんだから。


黙っていた翼から出てきた言葉はそんな俺の心とは裏腹な気持ちだった。
一気にまくし立てて息の上がった俺の会話のスキをついて
今度は翼がまくし立てる番だった。

「媚びてるみたいでイヤなんだよ!!」

少しだけ躊躇いのある苦い言葉を吐き出すと、
後は栓をひねった蛇口のように一気に言葉が溢れてきた。

「どうしたってお前の方が知名度もあるし、期待もされてるし、
 昔っからいつも真ん中でスポットライトを浴びてきて、
 次のデビューだってお前は中心で・・・
 世間だって決定だってそう思ってるだろ?
 "次世代アイドル"とか"今世紀最初のアイドル"とか
 大きな見出しで飾られて、一人で大っきなどんどん仕事をこなして
 いつだって滝沢は一番なんだよっ!!
 お前の代わりなんていないんだよっ。
 俺はいつだってお前の引き立て役か誰かの補欠だったんだから。
 それなりに仕事はもらってたし、大きな仕事もあったけど、
 それでもやっぱり俺と滝沢とでは扱いが違うんだよ!?
 お前だって分かってるだろ?
 だからイヤなんだよ!
滝沢が"一緒に"って言うたびに胸が締め付けられるんだよ。
お前がそうやって俺と『一緒に、一緒に』って言うたびに
みんなが俺を上手く滝沢に取り入って・・って思ってるような気がして。
俺たち冷戦状態長かったから・・
オレだって滝沢の付け足しじゃなくて"今井翼"として見られたいんだよ。
オレだって滝沢と同じ・・・ように。
こーゆー仕事してるなら当たり前だろ?
決意なんてあんなところで言えっかよっ!!
俺はぶっちゃけ笑い話で誤魔化すことくらいしか出来ねーよ!!
真剣に語ったって余計虚しくなるんだよ・・」

最後の語尾は聞き取れないほど小さかった。
言い切った後に翼は気まずそうに顔を背けた。
いつも流す涙は今日は翼の眼からは流れなかった。

ずっと二人して心の中にしまっていた
"言ってはいけない過去"を今日初めて吐露した。
なんとなくお互いに何を心に持っているか知っていた。
だからこそ触れたくなかった。
あまりにも痛みを伴う過去だから。

だから本当は先にこれを片付けなくてはいけなかったのに、
不安定な二人でいる楽しさと心地よさに忘れた振りをしていた。
時期を逃した俺たちはもう過去を捨てたまま生活を共にするしかなかった。
今更幸せを揺るがす必要なんてないと思ったから。
でも、空の上に気づいた楽園はやっぱり永遠なんかじゃない。
俺たちは地上に新しい楽園を創り上げなくてはいけない時期にさしかかったんだ。

ずっと前から翼は心の中に毒をためていた。
毒はどこからも流れ出す事はなかった。
二人の生活が満ちるにつれてその毒が甘い蜜に変わることもなかった。
それどころか一層その毒は異臭を放っていったんだ。
でもこれは当然の事で、翼が7年も俺の隣で同じように
扱われてきたわけでもないし、一度だって俺より優遇された事はない。
正直翼が隣にいる事がうるさったかった時期もあった。
それでも静かに翼は俺の隣にいた。

俺と築く幸せが過去の翼には屈辱的で、
現在(いま)の翼には至福だったから翼はこんな風に思うんだろう。
そう思いたい。
今は俺といることが翼の幸せだって思いたい。
だから翼に聞いてみた。



「翼、今幸せ?」



翼は肩を小さく動かした。
静寂に飲み込まれて不安が胸の中で渦巻いた。
それでも黙っていた。
何か言葉を発したら俺が翼に言ってはいけない事を言ってしまいそうだったから。


しばらく続いた静寂を破ったのは翼だった。
弱いながらもしっかりとした口調で言い切った。




「幸せだよ・・だからこんな風に思うんだ」




俺にはこれ以上何も聞けなかった。
これで十分だった。

本当は何も聞けなかったのは翼の心中を
受け止める事が出来なかっただけだった。
翼の言っている事はみんな正しかった。

一番を歩く俺には一番を追い続けている
二番目の翼の気持ちは分からない。
いつも真ん中に座ってチヤホヤされる俺に
一歩下がった隣に並ぶ翼の気持ちは分からない。

だから精一杯翼に優しくした。
過去の罪滅ぼしのつもりだった。
意識はしてなくてもきっと後ろめたかったんだ。
それが翼には余計に卑屈に思えたんだ。

俺の不安は翼のこの一言で消え去った。
結局俺はズルイのかもしれない。
これまで翼にしてきた行為が翼に嫌悪だけではなく
それ以上の幸せを与えていた事を知ることが出来たから。
それで少しだけ救われた。

でも翼は嫌悪と幸福のせめぎあいの中で自分の身を投じている。
好きな人から与えられる嫌悪感と幸せ。
葛藤と矛盾が翼を更に苦しめる。

顔をそらしたままの翼に触れずにまた俺は翼に優しい言葉を投げかける。



「俺は"今井翼"じゃないとダメなんだ。俺には翼が一番なんだ。」



翼は少しだけ顔を上げた。
黙ったまま翼を優しく見つめる。
この言葉も翼の胸にどんな風に響くか分からない。
でもこの言葉には愛以外の意味は何もなかった。



静かに頬を流れる涙が翼の心の毒を運んで排出する。
振り返った翼は俺の胸の中にゆっくり倒れこみ、
小さく"ごめん・・"と口にした。


「俺も滝沢じゃないとホントはダメなんだ・・」


翼の小さな頭を抱いて、柔らかな艶のある髪にキスをする。
囁く言葉に心を痛めるのは今度は翼ではなく俺のほうだった・・・



















あとがき


♪Happy Birthday 秀ちゃん♪
って事で存分に祝った結果がコレです(笑)
確か翼君の誕生日にも「虜」を謙譲し、
脳味噌おかしいのを露呈したのですが、
どうしてこんなにダークなんでしょう?誕生日なのに・・
某M誌の阿呆なほど熱い男滝様と流氷のごとき冷淡さの翼君の決意ネタです。
「裏にこんな事情があったとは!!」みたいな感じで読んでください(笑)
今日の夜中に出発なのにコレを書いていて全くしたくしていません。
今から出発準備&お風呂&食事です。
あぁ・・どうしてこんなにギリギリでやってしまったんだろう?
そして台湾・・どうなるの?>事務所

では、20歳の大人仲間入りおめでとう♪滝様     
  
                                 碧    2002/3/28