オレンジ


僕らが初めて顔を合わせたのはいつだっただろう・・・
君は本当に細くて小さかったね。
でも君はその身体に似合わない強い眼をしていたよ。
僕はその強い瞳に魅かれたんだ。
強くて、魅力的なその瞳は強く人を寄せ付けるくせに、
君自身は周りにあるもの全てを寄せ付けないような人だったね。
そう、たとえ僕でさえ・・・

あの時の僕らはどんな未来を思い描いていたのだろう?
あの時の君はきっと、今のような未来を拒絶しただろうね。
その強い眼が僕を強く拒んだに違いない・・・
僕はその眼にたじろぐんだ。
無理やり僕を受け入れてもらいたいなんて思わない。
欲しいのは心・・・

いつからこうやって出会った時のことを思い返すようになったのだろう?
僕らが年を重ねた証拠だね。
君と過ごした7年間を大切にしたいから、
二人の時間を忘れたくないから何度も、何度でも思い出すんだ。
僕が忘れられないように、
二人の瞬間(とき)を忘れたくないから、
君を忘れないように。
たとえこれからどんな事が待ち受けていようと
君がいなくても大丈夫なように・・
君が側にいなくても良いように・・
君が僕を忘れても辛くないように・・


「二人で一緒にいられない」

君はそんなことを考えたことがあったのかな?
側に、隣に当たり前のようにいるようになってから
こんな日が来るなんて・・
僕は一度だって考えたことがない。
考えればきっと現実になるかもしれないと思えて怖かったんだ。
でもこうして現実は僕の目の前に突きつけられた。

どうしたら良い?
珍しく大人な気持ちで割り切れないんだ。
きっとこういう時の君の方が冷静なんだろうな。
『仕方ないよ・・』って言って諦めるんだろうな。
そして、すぐに自分で歩進まなくてはいけない道を見据えて
独りで進む準備を始めるんだろうね。
その強い瞳で・・
しっかり先を見つめて・・
いつの間にか君は僕が守らなくても
しっかり歩んでいけるようになってしまったんだね。

「どうして簡単に諦めちゃうんだよっ。」
「そんなに簡単に諦められる存在でしかなかったのかな・・」
そんな言葉を呟いてはっとする。
「違うよな・・・」
君は"簡単に諦める"人じゃない。
僕は"簡単に諦められる存在"なんかじゃない。
君は強いんだ。
本当の強さを持っているんだ。

二人でいる甘えから卒業するための別れなんだ。
一人でいる恐さから逃げないための始まりなんだ。

これは終わりじゃない・・・


翼・・
これは終わりじゃない。
ここから始まるんだよね?
翼・・
君は僕が隣にいなくても本当に大丈夫なんだろうか?
・・・
強がってもしょうがないよな。
正直に言うよ。
僕がダメかもしれないんだ。
君がいないと、僕がダメかもしれないんだ。

翼・・
君に甘えていたのは僕の方だったんだね。
翼・・
君を感じられないと淋しく感じるんだ。
翼・・
君の温かみが感じられない距離は嫌なんだ。
翼・・
側にいたい・・

何度頭の中で考えても「ソロ」は現実。
覆せない事実。
飲み込めない真実。
認めたくない未来。
僕は「こんなに無力だったのか」と痛感させられる。
好きな人と一緒にいることを選択出来ないほど・・

『大人になる』って事は"自分より他人を優先させる"って事だったんだ。
もう自分を優先させることなど出来るわけが無い。
僕らはもう"大人"なんだ。

誰も知らない。
僕らのことは。
知られてしまったら状況は変わるだろうか?

馬鹿だな・・
今まで一度だってこんな事なんて考えたことも無かったのに。
翼、君はすごいよ。
僕にこんな事を考えさせるなんて。

考えながら僕の頬は涙に濡れた。
場所なんて関係ない。
周りの目なんて関係ない。
スタジオの隅でしゃがみこんで僕は涙を流した。
正直に、正直に生きたいだけなんだ。
翼と一緒に歩めない現実が僕を泣かせた。

翼・・
どうしたら一緒に生きてゆける?
どうしたらこの現実を受け入れずに済む?
どうしたら!!

しゃがみこんだ僕の耳元でよく聴き慣れた
低くて甘い心地よい声がした。
『大丈夫だって・・』
落ち着いているが、舌っ足らずの子供っぽい言葉が僕にかけられた。

"翼"

何が大丈夫だって言うのだろう?
離れ離れの現実を君はどうやって受け入れているんだ?
悲しくて泣いていたはずなのに
君のその一言で僕の怒りが込み上げて来た。
絶対に変わるはずの無い現実が僕に余計な思いを抱かせた。

『何が大丈夫なんだよっ!?』
『どうしていつもそんなに簡単に・・!!』

言葉が涙で詰まった。
さっき納得したはずなのに
子供みたいに自分の想いを翼にぶつけてしまった。
翼はふっと笑って僕の頭を2度ポンポンとたたいた。
その手の暖かさに落ち着いて自分を少し取り戻した。

『大丈夫なのは今まで二人で過ごしてきた時間があるから。』
翼は静かに、ゆっくりと言った。

『それが何の糧になるんだよっ!
離れたらきっと終わりだ。
側にいないって事がどんなに大きな事か分かってんのか?』

これからも同じように年を重ねたいのに。
これからもずっと一緒に過ごしたいのに。

そんな想いが僕の口調をきつくさせた。
『今まで過ごしてきた時間は確かなものだから。信じられる。』
翼はしっかりとした口調で続けた。
『離れていても変わらないよ。
いつも逆に海外とかに行ったときに滝沢のこと強く感じてたから。』
そう言って満足そうに笑った。
自分の思っている事が全部言えたときにする例のあの顔だ。
翼にはかなわない・・
僕は翼をギュっと抱きしめたい衝動を必死に押さえて
翼のさらさらの髪を思いっきりぐしゃぐしゃにしてやった。

『うわっ!何すんだよー』
と、口を尖らせた翼があまりにもかわいらしくて
スタジオにもかかわらずドサクサ紛れにキスをした。
翼はさっきよりずっと満足そうな顔をして笑った。

その日の帰り道いつものように翼を助手席に乗せて家路を急いだ。
ラジオから「オレンジ」が流れてきた。

♪『さよなら。』僕を今日まで支え続けてくれたひと
 『さよなら。』今でも誰よりたいせつだと思えるひと

そして
何より二人がここで共に過ごしたこの日々を
となりに居てくれたことを僕は忘れはしないだろう

『さようなら。』
消えないように・・・
ずっと色褪せぬように・・・
『ありがとう。』♪

僕らの『さよなら。』は終わりじゃない。
でも、『さよなら。』なんだ。
だけど僕らは変わらない。

助手席でオレンジ色の夕日を受けて
すやすやと眠る君がいる。
僕は『ありがとう。』と言って君にキスをした・・・
オレンジ色の君はいつまでもずっとそのままで僕の横にいてくれるのだろう。
今夜の僕はいつもより穏やかに眠れそうだ・・
君の肌の温もりを感じて。
君の言葉を胸に抱いて。





                      Fin...




■コメント■
完読ありがとうございました。
ラリ様の掲示板にいらっしゃる"吏音"様から
「小説を書いたら見せて下さい」というメールを頂き、
何も分からず、勢いで書いた処女作です。
翼にどんな言葉を話させるかにとても苦労いたしました。
その結果滝サイドからの視点が多くなってしまいました。
碧は"いつもは強いのに時々堪らなく弱い滝"が好きなようです。
どうかお許しを・・・
オレンジをバックに流しつつ、切ない想いでいっぱいでした。
この曲を耳にすると彼ら二人をどうしても思い出してしまいます。
処女作ですのでどうかお心を広く・・・お願いいたします。