月の光
"永遠なんてないよ・・ 滝沢・・"
あの夜、滝沢に手を引かれて落ちて行った深緑の森林。
行き着いた湖におぼろげな月が映っていた。
ゆらゆら揺れるその幻想的な姿に惑わされ
頭の中にいつもあった、考えてはいけない事が目の前を過ぎった。
目の前の湖の先の暗闇に目を向けた。
もう、戻れない、引き返せない。
思考を止める事が出来ない。
とめどなく溢れる苦い想いが僕を悩ませる。
前を見つめること。
暗闇の先を見ようとすること。
滝沢とのこれからを考えること・・・
緑の空気を胸いっぱい吸って心を落ちつける。
このまま思考を進めたら自暴自棄になりそうだ。
未来への苦い想いと滝沢への甘い想いに苛まれ、
自分自身のコントロールが効かなくなりそうだ。
身体の中に月光の聖なる空気を吸い込んだ。
不思議な感覚が芽生え、こう思い直した。
道が続く限り、滝沢と一緒に歩いていこう。
この道は行き止まりだけれども、他にもきっと道はある。
回り道でも、茨道でもそれでもきっと他に道はある。
目の前の湖を越えなくても、僕らが一緒に先に進める道がある。
それに気づいたんだ。
来た道を引き返すことは出来ないけれど、
これから二人で行く道を探すことは出来るだろう?
道は自分で作ることも出来るだろう?
二人でこれから・・
"そこに道があるから人が通るのではない。
人が通るから道になるんだ。"
僕らの作る新しい道が同じ境遇の人たちに歩みやすく、優しい道になればいい・・・
月明かりに照らされて、薄暗くてもしっかり歩める道になればいい・・・
『この手を君が引いてくれればそれでいい・・・』
そう思った。
何が正しいかなんて分からない。
何が幸せかなんて自分が決める。
滝沢が側にいる事が幸せなんだ。
滝沢に護られていると感じるだけで安心する。
滝沢に愛されていると身体中に感じていたい。
そしてそのまま永遠に・・
もう一度湖の先に広がる暗闇に目線を投げる。
夜風が頬を優しく撫で、僕の好奇心を制止する。
先を見てはいけない・・
でも、知りたい!!
これからの未来を。
未来の僕らを。
これから先に待ち受ける未来を。
僕らの幸せの形を。
夜風はあんなに静かに、優しく忠告してくれたのに、それを僕は無視した。
小さな反抗に対する小さな仕打ちは、僕にはあまりにも大きすぎる仕打ちだった。
先を見つめる僕に待っていたのは"闇"。
月夜に広がる雲が僕にもたらしたのは"漆黒"。
その先に広がるのは"暗黒"。
ひどい絶望感に打ちひしがれる。
これが僕らを待ち受けるもの・・?
僕らにはもう月の光も与えられない。
何も無い闇。
『いつまでも続くなんて考えちゃいけないんだな・・』
滝沢に向かってポツリと呟いた。
自分の声が深い森の中に吸い込まれてゆく。
滝沢に手を引かれ続く道は、
いつまでも、どこまでも、続いてゆくものだと思っていた。
月の揺らぐこの湖は何の罪悪感も無いように目の前に広がっている。
この湖に遮られた僕らの未来。
失望感が身体を襲う。
湖の先に広がる暗闇が僕ら二人を拒絶する。
あの暗闇の先に僕らの目指す光など無い。
何も見えない・・・
これからの僕ら二人の未来なんて。
見えない・・
僕ら二人の幸せなど・・・・
月の光も届かないこの先には絶望と排他が待っている。
僕ら二人を待ち受ける暗闇。
それは残酷であまりにも過酷なんだ。
暗いよ。
真っ暗なんだ・・・
何も見えない。
気持ちよい深緑の空気や
肌に優しい夜風や、
心地よい月光はここだけのものなんだ。
肌に感じる滝沢の温みもここだけのもの。
いとおしく感じるその白い滑らかな肌も、たくましい腕も、
僕を導く優しい手も、優しい瞳も、柔らかい髪もこの月光の下でだけ・・
月光の名の下、僕らに許される小さな自由。
二人で過ごす短い猶予。
これは過ちなんだ・・
だから僕らは太陽の下には出れない。
月光の下にだけ許された僕らの今は限定的なんだ。
月は太陽がないと輝けない。
僕らは月がないと二人で生きられない。
太陽は気づき始めている。
僕ら二人に・・・
過ちを犯し続ける僕たちに。
この森に逃げ込んだ僕らに。
どんなに月光の淡い光が僕らを護っても、
この深い森が僕らの身を隠しても、
太陽の光は包み隠さず何もかもを露わにする。
湖に映る月は月の裏側。
僕らを諫める月の裏の心。
夜空に輝く月は僕らをやさしく包み込む表。
湖に映る月は僕らを惑わす月の裏。
そして今、僕らは罪を償わなくてはならない。
僕ら二人が犯した罪。
もう共には生きてゆけない。
すぐ後ろには闇が迫ってきている。
湖の先に広がる夜の中二人で闇に飲まれれば、すぐにお互いが見えなくなる。
肌の温みは感じられなくなり、言葉はそのまま闇に溶け込んでしまう。
そしてそのまま僕らは闇になるんだ。
これが罪を償う唯一の方法。
これは最も重い罰。
さよならの意味を込めて涙を一滴こぼす。
忘れないで・・・
この涙を。
君が触れたこの身体を。
君が好きだと言ったこの髪を。
君が最初に口付けをしたこの唇を。
君が贈ってくれた香水のこの香りを。
君が握り締めたこの手を・・
そして、愛し、愛されたこの僕を。
どうかこのまま忘れないで・・・
闇の中で滝沢に語りかける
「・・・・」
闇は僕の言葉すらもう滝沢に伝えない。
僕はすっかり闇に包まれた・・・
"滝沢・・・これで僕らは永遠だ"
Fin...
■あとがき■
ラリ様の熱烈リクエスト&碧自身が全てをクリアにしたくて、
翼サイドを書いたのに自分自身でもかなり納得がいかない展開です(><)
ラストの翼が滝に話しかけた言葉もあまりにも良いものが見つからなく、
皆様のご想像に・・なんて事をしてしまいました(へたれ・・)
その上、テーマが"永遠は無い"だったのに、最後に"これで永遠だ"なんて言わせてしまう強引っぷり・・
"闇は永遠"って事を翼が闇になるまで気づかずにいただけの話なんですが・・
分かりにくいと思ったのでネタバレしてしまいました。(分かるように書けっ!)
でも、あくまでも相手を感じられない、独りきりの"闇"なので、
結果的には深い部分での心のつながりが"永遠"になったということで・・・
こんなに説明しないと分からないブツを書いてしまったへたれ碧でした・・・