ココロのスキマ








生田斗真はなんでもない空白の日

思い出も何もない日に涙をこぼし

山下に心ではなく身体を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

だから山下はそれが松本潤と過ごした日々の何か

2人だけの特別な日なのだと気付かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

松本潤とは生田斗真が3年前に別れた恋人の事で、

山下とは山下智久。

今現在の生田斗真の恋人の事である。

 

 

 

松本潤との別れは時間と距離が2人を別ち合ったという以外

他に2人の間に決定的な要因がない。

互いに互いを求め合い補い合い必要としていた事は本人たちが最も良く知っていた。

にも関わらず今のような形に至ったには、生田斗真の性格によるものである。

 

彼はひとえに物理的距離に弱い。

自分の手の届く範囲にいることが分かっていても、

それに手を触れる事なしに安堵する事が出来ない哀しい人である。

これには恐らくトラウマがあるのだろうと松本も山下もよく理解していた。

 

だから松本は斗真の手が触れやすい位置に必ず立ち、

その伸ばされる手から逃れるように見せて素直に従っていた。

松本のこうして屈折した愛情が彼にはとても合っていたのである。

そしてその事を良く知っている山下も斗真から伸ばされる手を甘んじて受け入れた。

斗真にとって松本以上に山下に触れていたいと感じてしまうのは、

伸ばしたその手に返す事の少なかった松本とは対照的に彼は自分の身体に

自らの手を愛しむようにかざしてくれるそのことを身体が覚えているからであった。

 

例え山下が松本以上に生田に何かを還元したとしても、

松本との間の限られた時間の中で距離さえ縮める事が出来れば、

生田は今でも松本の身体に手をかけているに違いなかった。

実際、彼と一定距離を保つ事が出来ていた高校での生活の1年間は

関係が完全に切れていたわけではなかった。

 

その断続的に松本と時間を共有する事する斗真の姿を

山下は眼の前でずっと物欲しそうに眺めていた。

自らの手に落ちてきそうでなかなか落ちて来ない

よく熟した甘い果実の匂いだけを木陰の下で嗅ぎながら。

 

 

 

 

 

山下は松本と生田と同じ高校に一番最後に入学した人である。

微妙な関係は、たった1年のことだったにも関わらず、

ずいぶん長い事であったかのように生田斗真は時々思い出すことがある。

山下にとってその1年は自分にとって最も大きな年だったと今でも胸に大事に刻みこんでいる。

自分にとって最も大切な“生田斗真”という人を手にすることが出来たからである。

 

そして、松本は。

その1年で失ったものの多さと得たものの多さに戸惑いを隠せずにいた。

それらの中に比較出来るものが存在せず、自分の価値観に従って言うのならば

失ったものの中の『生田斗真』が自分にとって最も大事だったのではないかと

未だに胸の最奥に引っかかり続けている。

どうして今の自分の生活の中に生田がいないのかその答えが帰ってくることがないと知りながらも

問いかける事を止める事がこの3年間出来ずにいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山下は入学した時すでに松本と行動を共にする生田の姿も知っていたし、

松本と距離が出来始めた頃の生田も知っていたし、

完全に松本と切れた生田も知っていた。

 

しかし、3年前に正確に何があったのか山下は未だ何も知らない。

知りたいと思うことも、知ろうとすることもない。

生田斗真に対して一見冷たいような熱の低い接し方が

あの頃の生田斗真にはとても心地よかった事を記憶している。

 

山下は自分の“知りたい”という欲求が生田斗真に対し

どのような効果をもたらすかよく知っていた。

だからこそあえて言葉にしない優しさをあの頃から持ち合わせていた。

しかしそれ以前に彼に泣かれる事や、『松本が忘れられない』と別れを告げられる事

それらに怯えてあえて生田斗真の意識に松本を蘇らせない様に細心の注意を払っていた結果でもあった。

 

そして例え3年前のことを自分が知ったとしても生田斗真の時間軸で

自分が存在しなかった時間に“今の自分は一体何が出来るというのだろう”

という軽い疑問も山下の中には存在していた。

だからこそ何も言わずにこうして生活を続けているのだった。

 

 

 

山下のこのような態度は大概言葉や態度に表されないものばかりで

誤解の多いものであるということは生田斗真が最も理解していた。

それを理解しつつ山下に注意を与えないでいたのは

自分だけが山下の行為の果てを安心して見届ける事が出来る唯一の人間である

という特権を手放すのが惜しいと思われていたからであり、

山下が起こす行為のほとんどが生田斗真に関することであり、

冷静に見える山下が周りを省みることなく露呈するその乱暴な愛情表現によって

自分がどれほど愛されているのかあえて言葉で尋ねることなく確認できる利点があったからである。

 

そして山下の傍若無人ぷりが非難されたとしても

生田自身が山下を理解していれば彼が起こす行動の理由は

生田自身の言葉によって周りの人間に正確に伝えられることが出来ると

知っていたからである。

自分の為に非難される山下の誤解を解いて回るという特別な地位も生田は気に入っていた。

プライドの高い山下がそれを許すのは自分しかいないということを生田斗真は知っていたからである。

だから事はそれで全てうまく行くのであった。

 

 

そしてその生田斗真にとって前出した松本潤とは未だに特別な存在であり続けている。

その理由はこれ以後述べるが生田斗真と松本潤の関係全てを山下は理解しているつもりである。

だからこそ山下は“生田斗真”に対して今一歩踏み込めないまま3年という時を彼との間に流してしまったのである。

 

 

松本潤は生田斗真が初めて本当の意味で人を愛した最初の人間であった。

恐らく“恋人として”と言うより“人として”。

 

 

松本潤は生田斗真を家族以外の人間で初めて真剣に人として愛してくれた

最初の人間でもあった。

つまり、生田斗真にとって松本潤とは最初に愛した男であり、

最初に愛された男であったのだ。

 

それも山下は当然のことながら知っている。

と言うより、気付いていると言った方がより正確である。

だからこそ永遠に松本潤という男は生田斗真にとって特別な存在であり、

どれほど山下がそのポジションを取って代わりたいと願った所で

絶対に奪い取る事の出来ない特別を生田斗真から与えられている松本という人間は

山下にとって全く手も足もでない存在なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山下と生田の出会いは山下が高校に入る2年ほど前の事である。

その頃の山下は今よりずっとふっくらとした白い頬と自信のない大きな瞳で

今のように生田の瞳を真っ直ぐ覗こうとはせず、

伺うようにチラチラと視線を合わせてきた最初の出会いを生田は未だに鮮明に覚えている。

あの時から山下とは何か深いところで繋がっているような

存在を否定しておく事が出来ない言い知れぬ何かがあるような感覚があったのである。

そんな脆くも危うい直感はその3年後に確信に変わるのである。

 

 

松本と距離が出来始めたのは松本自身に環境の変化があったからである。

今までのように生田斗真と同じグランドで同じ行為を繰り返すという事が極端に減ったからであった。

生田にとって“松本と同じ行為”をするということより

“松本と同じグランド”にいる事の方が遥かに重要であった。

それは先にも書いたとおりのことである。

松本の消えた場所を埋めるかのように現れたのが最初に出会った時に

自分が守らなくてはと思わせるほど幼げであった山下であった。

 

2度目に眼の前に表れた山下はあの頃の面影を残したままであった。

が、あの頃の自信のない視線はほんの少しだけ自分より高くなった瞳から

生田をしっかり捉え決して離すことがなかった。

そしてそれは一度も逸れることなく今でも生田だけを見つめ続けている。

 

守らなければと必死に思い続けた山下は生田の前に立つなり

今まで生田が山下に抱き続けてきた感情を口にした。

 

「守るから」

 

それは非力なものを守る保護の類ではなく、

幼い子どもを傷つける全てのことから無条件に身を挺して守るという親心のようなものであったと斗真は理解している。

自分は守られるだけではなく、恐らくそれと同時に山下を守っていくんだと。

山下の一言にはその深い意味と“やっと追いついた”という宣言が含まれていたと斗真は考えている。

思えば、最初に出会ったあの時と今の自分たちの間にある違いはそれほど多くはない。



時は山下に多くのものを与えすぎた。

あの時生田は山下を拒む理由が何一つなかった。

もし山下が最初に出会ったあの頃と変わらぬまま生田に「守る」と言ったなら

生田は幼い山下に向かって笑顔を浮かべて「ありがとう」と言えただろう。

しかし、今の山下はあまりにも対等すぎた。

生田とも松本とも。

そしてその「守る」の言葉が真実過ぎた。


山下の言葉を受け入れた生田であったが
それでもいつの間にか逆転した2人の関係に最初生田は戸惑ってばかりで、

いつかこうなるだろうと確信していた山下と松本はそんな生田とは対照的に振舞ったのである。

 

そうこうしているうちに松本は高校を卒業し、

生田斗真との間に物理的距離を作ってしまった。

それはもう埋めることが不可能なほどの距離。

『寂しい』と真夜中に泣かれても決して哀しみにくれた温かい涙を温かいうちに拭う事が出来ない距離。

癒されない気持ちを引きずり生活する斗真を献身的に慰めたのは他でもなく山下であった。

 

「守る」と斗真に示したその言葉の意味を山下はを実証した。

当然松本もそう望んでいたし、山下が生田の側にいると確信できたからこそ距離を作る事が出来た。

『寂しい』と口にするのはそれを自分に感じさせている本人の前だけにしようと決めていた斗真も

本人にその言葉を直接伝える事が難しくなるに従い、

次第に山下の前でも口にするようになっていった。

 

そう口にされれば山下は一晩中でも斗真を離す事はせず、

きつく抱いて肌の温みを身体に移してやった。

斗真はそんな夜はいつだって収まっている腕の持ち主にキスを落とされる事を望んでいたし、

実際山下はいつの夜もそうして彼の唇にキスを落としてやった。

 

松本とは決して重ならない唇は今日この夜は山下と重なることが出来る。

それが生田斗真が山下と一緒に夜を過ごす理由であり、

松本のいなくなった隣を山下に空け渡した理由である。

 

 

 

 

 

松本はいつかこうなる事を覚悟していたような気がしていた。

望んでいた部分もどこかに持ち合わせている気がしている。

山下が現れたときから今までずっと。

生田斗真とはそういう男である。

何より距離が大事なのだから。

彼より先に走りすぎても、遅れすぎてもいけないのである。

生田斗真は決して必要以上に追いかけることはしないし、

決して立ち止まっていつまでも追いかけてくる人を待ちはしない。


自分は生田をいつか置き去りにしてしまうことは早いうちから分かっていた。

それは年齢がさせることであり、この容姿が錯覚させてしまう事でもあった。

生田斗真はあまりに幼すぎた。

自分が最も愛したあどけない部分が自分たちを別つことになろうとするなどそこまでは考えが及ばなかった。

 

だから彼と共に生きたいのならばいつだって彼を中心に考えなくてはならない。

それが生田斗真を我侭だと思わせる理由の一つだと松本は考えている。

 

 

松本が生田が山下と自分と同じような付き合いをしていると知ったのは

卒業する間際だったように記憶している。

とにかくあの頃の記憶は薄い。

その中でも生田と山下がたまたま通りがかった密室で抱き合い

唇と唇を重ねあう姿を見つけた時の記憶はカラフルに保存されている。

 

もしかしたらという予感は大分前からあったにもかかわらず、

生田自身に問い詰める事もなく、ただ忙しいことを理由に置き去りにしていたが、

本当に置き去りにされていたのは自分であり、

もうすでに帰る場所がなくなっていたことに気付いたのもこのときだったと松本は思い出した。

 

それでも滅多にない休日を生田のために使ってやると

今までどおりに彼は自分の腕に絡みつき、

自分の唇をさらってと瞳で訴え、とても松本を困惑させた。

 

その上生田は自分自身のシャツに何食わぬ顔で手をかけ、

肌蹴た素肌を摺り寄せて松本の肩に身体を預けるのであった。

そこまでの過程を作っておきながら後は松本次第という生田のやり方は

山下との事を知りつつ彼をまだ心の底から愛し続けている松本にとってとても卑怯なやり方であった。

そしてますます松本を混乱させたのである。

しかし、松本は生田に何も問うことなく行為の果てを追及してしまうのである。

 

 

それは雨の日の2人の決め事でどこにも出かけられない日に2人で会う時の約束。

「身体を合わせるのは寒い雨の降る夜だけにしよう」と言い出したのはロマンティストな松本で、

それに背伸びをして合わせたのは生田の方だった。

本当はいつでも自分を求めて欲しいという気持ちを心の奥にしまいこみ、

松本の言う寒い雨の夜の逢瀬を心待ちにした。

 

 

 

 

だから最初に生田斗真が涙した空白の日とは『寒い雨の降る夜』。

山下は未だこの法則を知らない。

そして今この夜に生田が涙している事を松本は知る由もない。

 

涙に暮れる斗真を慰めようと今日も山下は斗真の唇にキスを落とす。

そしてあの頃の松本と同じように『寒い雨の降る夜』に山下は斗真を抱く。

だから斗真は余計に切なくなり涙が止まらなくなる。

 

 

 

 

 

 

不器用な年下の恋人との精一杯の恋愛と

狡猾だったロマンティストとの背伸びの恋愛が

自分の胸を締め付けいつまでも離してはくれないだろうと生田斗真は思って瞳を閉じた。

















あとがき

やっと新しくなって新作書きました。
宣言していた色々とは全く別のお話(笑)
すいません、いつもこんなで。
コレは、眠ろうと思ったら凄い勢いで話が浮かんできて
凄い眠い中真っ暗闇の中でペンを走らせたもので
眠さのあまり字が汚く最初の3行しか読めなくて他は全部新しく作ったものです(涙)
ナレーション方式を前々からやってみたくて仕方なかったのですが、
意図的に「斗真」と「生田」を使い分けているので、
決して間違いじゃないから指摘しちゃいやんvv
潤斗って前は全然おいしくなかったのですが、
最近とても好きなCPです(苦笑)
勘のいい山下さんも書きたかったし、熱く月夜様と語っている山斗論も混ぜたかったし、
で色々やりたかったことごっちゃ混ぜにしたのでどうもまとまりない感じもしないでもないですが、
いかがでしたでしょうか???

それでは次回作でお会いしましょう♪


                              2002/08/25      碧