「ヤキモチ」

 

 

久しぶりに斗真と仕事が重なった。

今日はスタジオに1時間早めに入る。

いつもスタジオに早めに入る斗真の癖を知ってるから。

たまには斗真と話がしたかったから。

そう、他愛も無い事。

舞台はどうだったとか、サッカー見てたかとか。

そんなこと。

 

俺がスタッフさんに挨拶を済ませて、

楽屋でくつろぎ始めた頃斗真はいつも通り騒がしくやってきた。

スタッフさんにからかわれているんだろう、

声は近いのにいつまで経っても楽屋のドアが開く様子は無い。

楽しそうに笑う声と時々大きな声で突っ込む斗真の声が扉一枚隔てて聞こえてくる。

それをゆったりとしたソファーに腰を下ろして

片手に無意味に雑誌を開いて、

その声だけで斗真のくるくる変わる表情や

ジェスチャーを想像して目じりを下げて笑う。

 

笑いながら近づく声がやっとドアを開き、斗真が姿を見せた。

「くっくっくっ・・元気だなー、斗真。おはよう。」

堪え切れなくて笑いを噛み殺しながら、

左手で腹を押さえて右手を口元に置いて、

肩を揺らして笑いながら声をかけた。

 

「あれぇ〜!?どうしてー?どうして翼君がいるの??」

“喜び驚き”っていう感情があるのならきっと斗真が世界一上手だと思った。

そして嬉しいくらい斗真は素直に喜びを表してくれた。

だから斗真は可愛くて仕方ない。

俺は感情をおおっぴらにするのが苦手だから。

見ていて凄く気持ちが良い。

斗真は喜びも悲しみも全部顔に出るから、だから安心して斗真に接せる。

 

「斗真に会いたくて」

なんて言ったらすっごく喜んで

「わ〜い」なんて小躍りしてはしゃいだ。

またそれが可愛くってクスクス笑ったら、

「もうっ!翼君笑いすぎ」

なんて唇突き出してプリプリ怒って、

「ごめん」って言うはずがまた笑いに襲われた。

「あーあ、すっげー失礼。そんなに可笑しいかなー?」

と今度は不思議そうに首をかしげて腕組しながら近づいてきた。

 

すぐ隣の陣地を占領するとすぐに斗真はあれやこれやと

最近周りで起こった出来事を面白おかしく話し出して、

久々に腹がよじれるかと思うくらい大笑いして、

なんかもう、色んなことがどうでも良くなった。

 

そこに「オハヨウゴザイマース」と山下がやってきた。

スタジオまで斗真の小話は響いていて、

俺の笑い声も全部大分前から山下は聞きながらここまで来たみたいで

だい〜ぶご機嫌斜めの状態で山下と斗真の楽屋に入ってきた。

ゲラゲラ笑いながらその笑いの切れ間に

「おう!」と言った俺にあまり注意も払わず

挨拶すらもろくにしないで背を向けるように

鏡に向かって置かれたパイプイスに腰を下ろした。

 

分かりやすいほど山下は機嫌が悪くて、

それも理由までこっちが分かるくらい俺に対して非好意的で逆に

「可愛いよな・・」なんて思った。

こんなに素直に(?)態度に出すならいっそ

「斗真とそんな楽しそうにしないで下さいよっ!」

って怒鳴ってくれた方が良いくらいだった。

 

それでも痩せ我慢して、態度に出せないくらい山下は斗真が好きで、

でもそれを言葉や態度に出すことは恥ずかしい事で

それを人に見られたり、斗真に知られたりする事はプライドが許さないんだろうな。

と、思って山下見ながら苦笑いしたら斗真が不思議そうに

「翼君?山下見て何で笑ってんの?」なんて余計な一言口にした。

 

山下はただでさえ気が立ってるのに、

斗真のその一言聞くや否やキッと睨みを利かせて

「楽しいですね〜、遠慮もなしに人の楽屋で話してるんですもんね。

そ〜んな楽しそうな翼君オレあんま見たことないなー・・・」

って嫌味たっぷりに言ってきた。

それもまた子どもっぽいんだけど、それが今の山下の精一杯の強がりなんだろうな。

って思って折れてやろうと思ったけど、

素直じゃない山下は可愛くないからいじめてやろうと、そう思った。

 

「楽しいよなー?斗真。いつもどっかの誰かさんの機嫌取るのは大変だよなー?」

「つ、つばさくん!!!」

斗真はあわてて俺の口をふさごうと手を伸ばす。

その手を逆に押さえ込んで、引き寄せて山下の好きであろう斗真の腰に

手を回して、横目で山下の反応を見つつ、斗真の耳元に口を寄せてしゃべり続ける。

 

「そうだ!今日は一緒に斗真の好きなもの食べに行こう。車で送ってやるし、

レイトショー見に行ってもいいな・・・それとも腹ごなしに海かな・・・」

「お寿司!!あ、でも焼肉も捨てがたいなー・・。

でも、食後は海!!!絶対海!!花火買ってやろうよー、翼君!」

すっかり俺の甘い誘惑に斗真は山下が視界に入らなくなってしまったようで、

予想していたよりずいぶんといい反応をしている斗真を見て悪乗りして

 

「斗真、今日家に止まってけよ・・」

と、まるでキスする直前の距離で話し続ける俺たちの姿に

とうとう山下はたまらなくなったようで

 

「あーもー!!!斗真!!!離れろってばっ!」

山下は“やってらんねー”って時のあの顔をしながら

髪の毛ぐしゃぐしゃさせて、そっぽ向きながら斗真の手を取る。

“ぐい”と引かれて俺の元から離れて行く斗真の華奢な手首を

あっさり離してやって山下に譲り渡してやった。

まだどっかあっちの方見ながら片手を頭に乗せている山下の前に斗真は立たされて

バツが悪そうな山下の顔を覗き込んで

「ねぇ?山下、何?」

不服そうな斗真の言葉を遮るように話し出した。

 

「寿司食いたいなら俺が連れて行く。回るところだけど。

焼肉でも、中華でも、何でも俺が連れて行ってやるから。

金あんま無いから腹いっぱい食わせてやれないけど。

それじゃ、意味無いかもしれないけど・・。

車も無いけど・・だから海には夜は行けない・・

でも、花火は公園でだっていいだろ?

海は今度連れてってやるから。

大体俺だって海行きたいっていつも言ってんだろっ!?」

 

最後は何だか半ギレだった。

山下らしい愛情表現だ。

でも、まぁ、分かりにくいっちゃー分かりにくい。

 

「何キレてんだよ?」

斗真は全然訳分からないようで、

だいぶむくれて山下に抗議する。

 

「いいよ。山下、ムリしなくて。忙しいんだし。

ってか、お前おごってくれるわけ?めっずらしー。

でも、翼君が連れて行ってくれるような店じゃ ぜってームリ。

俺、今寿司食いたいの。翼君が連れて行ってくれるいつもの店で。

回る所なんてイヤですー。だから山下とは行きませんー。」

斗真はだいぶイラついているようで山下に食ってかかる。

 

「それに公園で花火なんて雰囲気ないじゃん。

海に行くまでのドライブとか、ハイウェイで聞く音楽とか、

そーゆー気分を盛り上げる前の準備が大事なの。

海のあの波の音聞きながらする花火がやりたいの。

分かる?山下。

もう疲れたから電車で帰るのも面倒だし。

翼君、お前みたいに訳分かんないこと言わないし、

優しいから今日は一緒に遊ぶの。

お前の訳わかんない説明じゃ、納得出来ないですー」

 

小憎らしい態度で斗真は山下に“イーッ”と

顔を突き出すと「翼君〜」と甘えて寄ってくる。

 

“やべっ・・”とやりすぎた事を反省する間もなく、

山下は俺にしっついていた斗真を自分の胸に抱き、

俺の眼の前でだいぶ激しいキスを見せてくれた。

 

「んー!!!ん、んっ!!」

 

斗真の抗議は山下のキスに飲み込まれ、

目の前で繰り広げられる行為に俺はなすすべも無くただ黙って見守っていた。

 

 

「ん、はっ!!!」

やっと唇を山下から離してもらえた斗真は開口一番

「何すんだよっ!!!山下っ!!!」

と、えらい勢いで怒鳴りだした。

山下はさっきまでの激しさはどこへやらスカした顔して

斗真の文句を聞き流していく。

 

しばらく斗真がしゃべると突然山下は斗真を見つめ返し、

 

「うっせーよ。お前が悪い。」

 

たった一言残してまた斗真の口を封じてしまった。

 

 

 

眼の前で何度も人のキスシーン見せられるこっちの身にもなって欲しい・・・

ま、俺が仕掛けたんだから軽いバツなんだろうけど。

 

 

今度は斗真も抵抗せずに素直に山下の嫉妬のキスを受け入れていた。

ひとしきり満足のキスを終えた二人はどうもこれで丸く収まったようだった。

うやむやにするのは滝沢以上に山下はうまい。

キス一つで山下はこんなにも斗真を納得させられるのかと感心していたら

斗真は俺に「ごめんね、翼君。今日は山下と一緒に帰るよ。また誘ってね。」

と、一言言い残して山下の下に帰って行った。

 

 

 

「今日やっぱり海見たい。一緒に行ってくれる?」

と、遠慮がちにたずねる斗真の声に

「帰るのが面倒なら砂浜に寝転んで俺の腕の中で一晩過ごせばいいじゃん。」

って、答えた山下。

 

 

その会話を最後に俺は2人の楽屋を後にした。

 

 

その晩無性に滝沢に会いたくなって、家を突然訪ねて行った。

玄関で俺を出迎えた滝沢の首根っこに思いっきり抱きついて

一晩中甘えたのはここだけの秘密。

 

 





 
あとがき
 
これもぼやきで発表してしまったものですが、
一応アップさせてもらおうかなー??と(笑)
だって、ぼやきだと消えちゃうじゃないですかっ!!
という訳で、あの時タイトル無かったんですが、
今回つけたらかなり適当なタイトルでどうしよもなくすわりが悪いのですが、
その辺はもう勘弁してやってくださいまし。
この続編みたいとおっしゃってくださった方がいらっしゃいましたが、
一応翼が秘密と言っているので秘密って事で・・・
(単に書くのが面倒なんでしょ?)
そんなこんなでこれは6月25日の作品だったようです。
 
                        2002/8/3    碧