クッキング・アスカ

 

                                                  present by ちひろ


 

「さぁ、3分間クッキング・美少女のお時間です」

「では、今日のお料理を作って下さる 惣・・・・・・えっ?これ読めって!?

ディレクターが早くしろッ!と殴り書きのメッセージボードを見せる。

慌てた司会者は、言われた通りのセリフをかなり強調して喋る。

「あっ、失礼いたしました。え〜では、純情で可憐で魅惑の超絶美少女 惣流 アスカさん 堂々の登場です」

いつもより、倍の量のスモークと照明で派手に演出された登場シーン。

スタジオ内、拍手の嵐。

そこに、一人の少女が、エプロン姿で登場する。

少しはにかみながら、かわゆく手を振る。

だが、もっと盛り上げろとアシスタントに指示するディレクター。

ギャラリー席にさらなる拍手喝さいを求めるアシたち。

まるで、フィナーレを飾るかのようだ。

司会者が、一通りの前置きが終わった所で、一呼吸置き、その超絶美少女たるアスカに質問する。

「さぁて、アスカちゃん、今日は何を作ってくれるのかな?」

くちびるに人差し指を当て、モジモジしながら、答える。

「んとねぇ〜、2000年をお祝いしてぇ〜・・・」

少しうつむき加減の上目使い気味で、頬をほんのり桃色に赤らめる。

ただいま、スタジオ内、純情美少女フェロモン浸透率、82.95%。

司会者は「うんうん」と頷いて聞いている。

「カップ・ぬうどるを作っちゃおうと思いま〜す!キャッ、言っちゃった。アスカはづかし〜〜〜〜!」

どう言う意味で照れてるんだか良く分からない司会者だったが、そこはプロらしく、すかさずフォローを入れる。

「うんうん、とってもはづかしがり屋さんなんだね、アスカちゃんは」

「うん、アスカ、すっごい引っ込み思案なのっ」

ギャラリー席の一角が崩れる。

「そうなんだ。でも、スタジオ内のギャラリー席には、クラスのお友達がたくさん応援に来てるそうなので、ガンバッていこうね」

「ハイ!一生懸命ガンバります」

学校では聞いたこともない様な素直な返事で、元気良く返すアスカ。

完全に、純情美少女役に成りきっている。

それを、

「なんちゅ〜〜〜〜〜女や!」

「100枚ぐらい、ネコ被ってるよなぁ〜〜」

「いつもこうだったら良いのに・・・・・・」

などと節々に呟くクラスメートたち。

それを知ってか知らずか、純情美少女である本人は、TVカメラごしに笑みを浮かべた目線を向けるのに余念がない。

「じゃあ、アスカちゃん。まず始めに、レシピ言ってみようか」

「では、メモのご用意を・・・・・・いいですか?」

TVカメラとギャラリーに向かって少し首を傾け、準備は良い?と切れ長の瞳をパチクリさせて問い掛ける。

もう、その仕草だけで、この番組を見ている全国の男どもの約半分はイチコロである。

無論、スタジオ内のオスはクラスメートを除いてほとんどが、既に、この少女の毒牙に掛かっている。

一通り、スタジオ内を見渡し、一呼吸置いてから、では、と口を開く。

「用意するものは〜、カップ・ぬうどると、そ・し・て、忘れちゃならないのが”お湯”で〜す」

明るく可愛ゆく、語尾を伸ばし気味に喋る。

「んなもん、忘れるかい!」

先ほどのギャラリー席からの声。

威勢の良い関西弁がスタジオにこだまする。

同時にちょっと鈴原!と言う少女の怒鳴り声も聞こえてくる。

その声を聞いたアスカは、その場にペタンとへたりこみ、急に泣き出す。

予想外の行動。

何だ何だとスタジオ内にざわめきが起こる。

少女のこのアクションに、司会者はあたふたしながら、しゃがみ込んでなぐさめる。

「アスカちゃん、急にどうしたのかな?」

手の甲で涙を拭い、偽りのか弱さを存分に演出しながら、

「クスンッ、一生懸命やってるのに、アタシにケチつける人がいるぅ〜〜〜」

と、ギャラリー席に座っている黒いジャージを来ている男を、ピッ!と指差す。

スタジオ内の視線とTVカメラのすべてが、そのジャージ男に降り注がれる。

僕らのアイドル、アスカちゃんを泣かすヤツはどこのどいつだ!とばかりに、スタジオ内のにわかアスカファンの視線が千本ほどの針となってジャージ男を突き刺す。

それを、なんやなんや!と、納得のいかないご様子だが、そうも言っていられない緊迫した状況が続く。

そして、まるで操り人形のごとく、わらわらとその男に近づいて行く。

「わっ、ちょっと待てお前ら!ダマされたらイカンで!この女の本性・・・・・・」

最後までセリフを言いきらない内に、怒涛のごとく押し寄せてくるアスカファンにスタジオから強制退場させられるジャージ男。

ジャージ男の姿が見えなくなるのを見届けた彼女は、スタジオのにわかファンに”ありがとう”とお礼を言い、ニッコリ微笑む。

ただいま、スタジオ内、純情美少女フェロモン浸透率、99.99999999999%。

アスカちゃ〜〜〜んなどと声援を送る輩もいる。

手を振って笑みを返す。

火に油を注いだ様に、ますます盛りあがるファンたち。

そんな彼らの動向を満足げに眺めながら、

「フッ、他愛もないわね」

と、鼻で笑う。

「何か言った?」

「いえ、な〜〜〜〜んにもっ!」

「じゃあ、アスカちゃん、そろそろ料理に取りかかってもらおうかな」

「ハイ、じゃあ、お湯を入れてくださいねっ。この時、やけどしない様に気をつけてくださいっ。アスカからのお・ね・が・いっ!」

平静さをとりもどし、料理?を終えるアスカ。

「司会者さん、3分間測ってくださいっ」

「はい、じゃあ、3分後に出来あがるこのぬうどるを誰に食べてもらうのかを、アスカちゃんからご指名してもらいましょうか」

スタジオ内騒然。

自薦で、我先にハイハイと手を上げたり、アスカの気を引こうと騒ぎ立てる輩も出る始末。

まるで、サル山のようにやかましい。

困った司会者は、アスカに、なるべくあたりさわりのない人を指名をしてもらうようたのむ。

アスカは、チラッと横目でクラスの方を見やる。

お目当てのシンジは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・綾波とイチャついていた。

「ブッ殺す!」

「へっ?」

さすがの司会者も、この少女のあまりの変わり映えに、言葉を失って口をパクパクさせている。

その司会者の脇を、いきなりトップスピードでダッシュする純情?美少女。

綾波との会話に気を取られていたシンジが、本能的に殺気を感じる。

「はっ!まずい!」

「碇くん?」

「ゴメン綾波!」

「アン、どこ行くの!」

「来ちゃダメだ!!」

付いて来ようとする綾波を手で制し、後ろの通用口から逃げ出すシンジ。

髪の毛を振り乱し、狂暴化した赤毛ザルが浮き足立っているファン十数名をフッ飛ばし、彼に迫り来る。

「待ちなさいシンジ!!!」

後方から、地をはう様に聞こえてくる戦慄の声。

さすがの彼も、このアスカの命令には従えるはずもない。

従えば、即刻抹殺される。

ともかく、一刻でも早く、この建物から脱出する事を考えていた。

「ハァハァハァ」

「待てっつってんだろ!」

「ひ〜〜〜〜!!!」

「おとなしくお縄をちょうだいしなさいッ!」

「イ、イヤだよ〜〜!」

必死に逃げるシンジ。

追いかけるアスカ。

「だって、ただ話してただけなのに、どうしてこうなるんだよ!」

「それがムカつくのよ!」

「どうして、ムカつくんだよ〜〜!」

「アタシの気持ちなんて知りもしないくせに!」

「えっ?」

「いつも、このアタシがどんな気持ちでいるのか考えた事あんの!?」

「ア、アスカ・・・・・・」

振り向くと、赤毛の少女は走るのをやめていた。

肩で息をしながら、目には涙を浮かべている。

「このアタシを怒らせて楽しんでるんでしょ。そうよ、そうに決まってるわ!」

「・・・・・・」

「そんなにアタシを怒らせるのが面白いの!?」

「・・・・・・」

「何とか言いなさいよ。大体、今日の料理だって、アタシなりに一生懸命ガンバッテつくったのよ。シンジに食べてもらって、美味しいよって一言言ってもらいたかったの。ただ、その一言だけが欲しかったの。それなのに、アンタはアタシのことそっちのけで、あんな女とイチャついて!もうたくさんよ!アンタなんか、顔も見たくないわ!!!」

深い青色の瞳から溢れ出す大粒の涙を、両手の平で拭いながら肩を震わせている。

長い廊下に少女の涙ぐむ声だけが響いている。

いつもの強気の少女の姿は、どこにもなかった。

そこに居るのは、どこにでも居る、ごく普通の少女であった、

シンジは、うつむいて泣いているその少女の姿に、自分がいかに無神経で愚かな人間であるかを悟りはじめていた。

思い立った彼は、一歩足を踏み出し、黙ってその小さな肩を抱き寄せる。

一瞬、ビクッとした少女であったが、そのまま、まだ大人になりかけの少年の体に自らを預けた。

少年は、少女が泣き止むまでずっとそうしていようと思った。

その間、償いをするかのような口調で少女にささやきかける。

「ゴメンとか悪かったとかではとても済まされない事を今まで平気でしてきたボクを、許して欲しいなんては言わないよ」

「クスン」

「ただ、綾波は家族みたいなものなんだ。姉弟みたいなもんだよ。だから、イチャついていたとかそういう気はなかったんだ。これは、ホントだよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・もしかしたら・・・・・・ボクは、そういうことをする事でアスカの気を引こうとしていたのかもしれない」

「・・・・・・」

「ホント、どうしようもない男だけど、でも、今、分かったんだ」

「・・・・・・何?」

「・・・・・・・・・・・・上手く言えないけど、ボクがホントに好きなのは・・・・・・」

うつむき加減だった顔を上げ、緊張の面持ちでシンジを見詰めるアスカ。

瞳を潤ませながら、彼の次の言葉を待っている。

当のシンジも、そんなアスカを真剣な眼差しで見詰め返して決意を固める。

「好きだよ、アスカ」

素直に言葉が出た。

シンジは、内心、これほど素直に言えた事に驚いた。

「やっと、言ってくれたね」

アスカは、涙顔でありながら、今までのどんな笑顔にも増して微笑んでいる。

今までのことをすべて洗い流すかのようなそのアスカの涙を、シンジは指先でそっと拭った。

アスカは言葉を続ける。

「アタシもシンジの事、好きよ、大好き」

シンジは、その言葉に体じゅうに電気が走ったように感じた。

自分の腕の中にあるアスカがとても愛おしくなり、自然と強く抱きしめていた。

あん、と言う声を微かに漏らしながら、アスカはシンジの腕の中にすべてを預けていた。

「ゴメンよ、今まで素直になれなくて」

「アタシの方こそ、シンジに暴力ばっかり振るってゴメンね」

ふたりは、これまでにないくらいの笑みでお互いを見詰め合っている。

「アスカの料理台無しにしちゃってごめんね」

「もう良いのよ。アタシはシンジがそばに居てくれるだけで幸せなの」

「じゃさ、ボク達がお互いの気持ちを打ち明けたこの日を記念して、これから家に帰って、ふたりで一緒に・・・・・・その・・・・・・作ろうか」

シンジのその言葉を聞いたアスカの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まる。

激しい胸の鼓動が、体伝いに伝わってくるのが分かる。

「や、やだ。そんないきなり。もうっ、シンジったら。ダメよ。アタシ達はまだ中学生なんだからぁ〜。そういう事はもう少し大人になってからじゃないと。で、でもでもぉ〜、シンジがどうしてもって言うのなら考えてやらないでも・・・・・・」

「イ、イヤ、あの料理の事なんだけど・・・」

「えっ?」

「ハハハ、アスカらしや」

「もう〜、何よそれ〜〜」

「ゴメンゴメン」

「フンだ」

「それじゃさ、お詫びにアスカが好きなものを作ろうっ」

「ホント?」

「ホントさ」

「ホントにホント?」

「うん、約束するよ」

「絶対よ。破ったりしたら、ただじゃ済まないからねっ!」

「大丈夫、ボクを信じて。さっ、なにがいい?言ってごらん」

「うんとねぇ〜じゃあ」

「うんうん」

「前菜はぁ〜」

「前菜は?」

「キンカンを全身に塗りたくったシンジの狂喜蒸し風呂責めがいいな」

「へっ?」

「それから〜」

「あ、あの〜アスカさん?」

「なぁに?アタシは育ち盛りなんだから、このくらいじゃないと満足しないのっ!」

「そ、そうだよね」

「で、メインディッシュはぁ〜」

「メインディッシュ?」

「シンジの絶叫回転逆さ縛りの悶絶電気ムチ添え百叩き風で決まりね」

「ハ、ハハ。も、もう、アスカったら、よ、欲張りなんだから」

「テヘッ」

 

 

終劇


書庫へ

トップページへ