ガラガラガラッ
「マヤ先生・・・」
天井からぶら下がった一本のロープ。
それに手をかけ、今、まさに首を吊ろうとしているマヤ。
「う、うわぁぁぁ〜〜何やってるんですか!!」
「あら、シンジくん。どうしたの?」
何事もなかった様に振り向くマヤ。
「いや、ちょっと、寒気がして・・・・・・じゃなくて、何してるんですか!」
「あぁ〜これのこと?」
「これのことって・・・」
「別に、シンジ君が私との約束を破ってせっかく作ったお料理が冷めちゃってひと晩中待ち惚け食らわされちゃった事、とかじゃないから」
「うっ」
何も切り返せないシンジ。
構わず、言葉を続ける。
「ただ・・・・・・」
「?」
「どうしても苦手なものがあって、それがどうしても上手くいかなくって・・・・・・」
「だ、だからって・・・・・・」
「いいのよ、もう」
「何が苦手なんです?」
「・・・・・・」
「マヤ先生?」
「お注射」
続・マヤ先生とシンジ君の関係
present by ちひろ
「・・・・・・ボ、ボクなんか急に気分が良くなってきたみたいだなぁ〜」
そう言って、出口(非常口)の方へ歩み出すシンジ。
「待ちなさいっ、シンジ君」
間髪入れずに、シンジの手を掴み取る。
「えっ!?」
その少年の手を、グイッと自分の胸元へ引き寄せる。
思わず、赤面するシンジ。
「一人じゃ寂しいの。今の時間だけでいいから、そばに居てっ」
「うっ!」
上目づかいのうるうる眼でシンジを見詰めている。
彼の一番”くる”仕草を見せられて、自我は崩壊寸前である。
シンジのウィークポイントは既に調査済みである。
この辺り、赤城先生と太いパイプを持つ彼女にとっては造作もない事である。
「そこに座ってっ」
目の前のイスを差し、ここと指示する。
「は、はい」
魔法にかけられたかのように、成すがままのシンジ。
「じゃあ、お注射しましょうね」
背後の戸棚から、カチャカチャと音を立て、玩具のような小さい注射器をシンジの目の前に取り出す。
そして、フフッと可愛く微笑む。
その笑みが、かえって彼の恐怖心をあおる。
「マヤ先生?」
「さぁ、シンジ君、腕出してぇ〜」
スッと注射器を持っていない方の手を差し伸べるマヤ。
「ちょっ、ちょっと、待ってください。」
「いいから、出すのぉ〜」
駄々をこねる。
「シンジ君、は・や・く!」
「マヤ先生って、医師免許持ってるんですか??」
「ないわよ」
笑顔で答えるマヤ。
目が点になるシンジ。
「注射って、お医者さん以外、打っちゃダメなんじゃないですか?」
「心配しないでシンジ君。私、医師の仮免許を持ってるの」
「仮免許???」
「そう、だから、3年以上の経験を持つ医者が立会えば、問題はないわ」
「そうなんですか???」
「そうなのよ」
「でも、その立会人がいないんじゃあ・・・・・・」
「大丈夫よ、この保健室と理科準備室はネットで繋がってるのよ。だから、赤木先生がモニターしてるってわけ」
「そんなんで、いいんですか??」
「いいのよっ」
なにも心配する事ないわよと、ズズズッ詰め寄るマヤ。
その瞳は、獲物をいたぶる時の猫の目の様であった。
一方その頃、教室では・・・・・・
「ミサト、シンジは?」
「シンちゃん?」
「帰ってこないのよ」
「あー、シンちゃんなら保健室で休んでるわ」
「保健室?」
「ちょっと熱があるんですって。だから休ませますって伊吹センセイが・・・・・・」
ピクッ
突然、頭を抑えわざとらしくその場にへたりこむアスカ。
教室中の誰もが演技だとわかるが、それを誰一人として言う者はいない。
言って得する事など何一つないからだ。
「ミサトセンセイ、ちょっとめまいが・・・」
ミサトも分かってはいたが、とりあえず、
「大丈夫?」
と言ってみる。
「えぇ、昨日徹夜でシンジの事しばき倒し・・・・・・じゃなくて勉強を教えてたもので・・・・・・」
あぶなくボロを出す所を今考えたいい訳で包み隠してミサトに告げ、あぁ〜アタシもう立てそうにない、これはもう保健室で休むしか他に手はないわねと更なる迫真の演技を見せつける。
ミサトも折れたのか、やれやれ仕方ないわねと言った面持ちで、レイにアスカを保健室まで連れてくようにと頼む。
が、
「イヤ」
一瞬にして凍りつく教室内。
アスカのこめかみの辺りがピクピクと動く。
かまわず、綾波は続ける。
「葛城先生」
「なに?」
「アタシ、碇くんの看病に行ってきます。」
即座に席を立つ綾波。
「じゃ」
「あ〜コラコラ、レイ何処行くのよ待ちなさい」
そんなミサトの制止もかまわず、レイはツカツカと教室を出ようとする。
アスカが思わず怒鳴る。
「ちょっとアンタ!」
レイは、無表情に振りかえり一言こうつぶやく。
「ダメ、碇くんが呼んでる・・・」
「呼んでねーって!」
そのツッコミはアスカであったが、クラス一同そう思ったに違いない。
プスッ
「イタッ!!」
さらに深く、ズブッ
「ギャン!!!」
「大丈夫??」
「大丈夫じゃありません!!」
「ヒッ!シンジ君が怒った」
「あ、当たり前じゃないですか。真剣にやってるんですか!?」
タカが外れたように、怒りをあらわにする。
「もう、教室に戻ります」
「シンジ君・・・・・・」
消え入りそうな声で、出口のドアに手を掛けるシンジに言う。
「アナタなら、私の練習に付き合ってもらえると思ったのに・・・」
「ホントに戻りますよ」
心を鬼にして、ドアに手を掛ける。
「アナタだけが頼りだったのに・・・・・・」
マヤの涙ぐむ声。
ピクッとドアを開けようとする手が止まる。
「小さい頃からの夢だったの、お医者さんになるのが・・・・・・」
目尻に溢れた涙を拭い、語り始める。
「そう・・・・・・あれは、私がまだ小学校に入って間もない頃・・・・・・」
回想シーンが始まってしまったようだ。
それを、よせばいいのに、律義に聞いてしまうシンジ。
「休み時間に、クラスの男の子となかよくお医者さんゴッコをしていたの。そこで、私が医者になってその男の子を診察していたの」
遠い目をして語り続ける。
「でも、それが悲劇の始まりだったの」
胸の前で手と手を握り合せ、目を閉じる。
「私が診察した結果、”死に至る病”と呼ばれる妄想病にかかっていた事が判明した事にしたの」
えっ?とシンジがマヤの方へ振り向く。
「それって・・・・・・」
「そうよ、やがて体が溶けて液体になってしまう奇病難病なのよ。第二のエイズとまでは言われてないわ」
ズレた会話が続く。
「それで、その男の子はどうなったんですか??」
「・・・・・・」
思わしげにうつむくマヤ。
無言の彼女を見て、シンジは悟った。
その男の子の身に起こった悲劇を。
聞くべきではなかったのではないかと深く深く後悔した。
「ごめんなさい。ボクはどうすれば・・・・・・」
「いいのよ、シンジ君。分かってくれれば」
「ボクに出来る事があったら、何でも言ってください」
ピクリと体が反応するマヤ。
だが、シンジはそれにまったく気づいていない。
「マヤ先生のためだったら、ボク、何でもしますからっ!」
「・・・・・・ホント?」
うつむいたまま、ポソリと呟く。
「信じてください」
「信じていいの?」
うるうる眼で、シンジを見詰めるマヤ。
「約束します」
なぜか、赤面しているシンジ。
それを見て、マヤがシンジの小指を取って、自分の小指と絡ませる。
「じゃあ〜、私と指きりしよっか」
「あっ、はい」
少々、あっけに取られながらも、笑顔でそれに答えるシンジ。
「ゆ〜びき〜りげ・・・」
ガラガラガラッ
「はっ!」
身の危険を感じ、振り向くシンジ。
しかし、
「碇くん、死んじゃイヤ〜〜〜〜〜!!」
それよりも速い、綾波の、斜め後方からの強烈な弾丸タックル。
シンジの体が、腰の辺りから妙な方向に曲がって、そのまま傍らのベットに押し倒される。
これが、堅い床だったなら、タダでは済まなかったであろう。
「碇くん碇くんっ!!」
綾波に体を激しく揺すられて、ぷら〜んと頭をうな垂れている。
「碇くんってば!」
さらに、激しく揺さぶりをかける綾波。
だが、白目をむいたまま一向に意識が戻らない。
「そんな・・・・・・」
愕然とするレイ。
そのレイの背後から話しかける。
「レイ、よく聞いて」
「碇くんってば!」
今のレイにはそれどころではない。
「聴きなさいレイ、シンジ君はもうダメなの。死に至る病という妄想病に掛かってしまったのよ」
「ウ、ウソ・・・」
「ウソじゃないわ」
「わ、わたしどうすれば・・・・・・」
「方法が無いわけじゃないわ」
「わたし、碇くんが助かるのなら、なんでもします!」
すがるような瞳のレイ。
保険医としての優越感を存分に味わい、徐々にそれが快感に変わってきつつあるマヤ。
「その方法はね」
「・・・・・・」
「このコスチュームをシンジ君に着せるのよ」
「コスチューム・・・・・・」
「そうなの、これなんだけど・・・・・・」
差し出されたコスチュームをギュッと胸に抱いて、
「わたし、着せます。このコスチュームを」
と、シンジの服を脱がせ始める。
無論、マヤもそこに加わっている。
「パンツはどうしよう・・・」
「脱がせなきゃダメよ」
スルスルッ
「キャッ!」
「すご〜い」
禁断の着せ替えが始まろうとしていた。
ガラガラガラッ
「ミサト先生、遅くなりました」
「!?」
「ミサト先生??」
「あらぁ、アナタ見ない顔ね。何処のクラスの子?一年生?」
「何言ってるんですか?ボクですよ、ボク!」
「おいっ、ケンスケ、誰や?あのメッチャ可愛い女子は」
「わ、分からない。お、おかしいぞ。この相田 ケンスケともあろう者がチェックをし忘れるなんて」
ざわめく教室内。
男子の話題を独占する謎の美少女。
面白くない女子の面々。
「ちょぉと、アンタ!一体誰よ!」
先ほど、仮病を使おうとしたアスカがイライラ気味に発言する。
イインチョこと、洞木が、そんなクラスをなだめながら、ヒソヒソとアスカに話しかける。
「なんか、誰かに似てない?」
「誰って・・・・・・」
眉をひそめながら、その子を敵意剥き出しで凝視するアスカ。
「あの髪、地毛かしら?何か、カツラっぽくない?」
イインチョのその疑問に、アスカはひとつ、その美少女にカマを賭けてみる。
「ねぇアンタ、その見事におっ立てた後ろ髪、ひょっとして寝起き?」
えっ?と自分を指差す美少女。
後頭部をいじってみる。
ズルルッ
「・・・・・・!?」
その少女の頭部からずれ落ちる、セミショートのカツラ。
そこまできて、彼女、もとい、シンジは自分の体の異変に気づく。
「あれっ・・・・・・って言うか、な、何でボク、女子の制服着てるんだよ!」
「あぁ〜!!アンタ何やってんのよその格好!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!シンジ君可愛い〜〜!!」
「碇〜!俺に撮らせてくれ〜〜〜!」
「シンジ・・・・・・いい」
目の色を変えて自分に近寄ってくるクラス一同。
なぜ、こうなったのか訳が分からないシンジ。
これが、まさかマヤとレイの仕業とは、今は知る由もない。
その頃、保健室では・・・・・・
「シンジ君、逃げたわね」
機材庫まで取りに行った撮影機材を片手に、悔しがるマヤ。
「可愛かったのに・・・・・・」
照明係のレイも、指をくわえて、えらく残念そうだ。
「今度は、縛っておかなきゃ」
そう、心に誓うマヤなのであった。
終劇