第3話 迷わされた夢

                                                      

                                                      present by まさき


 

「海・・・」

子供の頃から海を見るのが好きだった。

深い理由はない。

海を見て「吐き気がする」なんて人はいないだろうから。

でも・・・・・・ここは、ボクの海じゃない。

海っていうのは、もっともっと広いはずだ。

それに、なんだか暗い感じがする。

「どうしたの?」

背後からの突然の声に、ボクはハッとして振り返る。

《あれっ?》

ここはボクの部屋じゃない。

ボクの部屋にはこんなに大きなテーブルはなかった。

それに・・・こんなに広い部屋じゃない。

《ボクの・・・部屋・・・さっきの・・・って・・・》

バラバラの記憶を何とか紡ごうとしたが、再度ボクは現実に戻された。

「ねぇ、大丈夫?」

声のする方を確認できたボクは、その方へと視線をゆっくり落とす。

子供だ。

この子がボクに声をかけていたんだ。

小さな顎がボクを見上げている。

ボクを心配しているのだろうか。

じっと見つめたまま、ひどく不安な顔をしている。

かける言葉を探すが、なかなか見つからない。

子供は苦手だ。

何を考えているのか、何をするのか、何を期待しているのかが読めない。

「えっと・・・キミは?」

ようやく捻り出した言葉がこれでは、どうもうまくない。

しかし、まずは名前からというのが人付き合いの鉄則であるからにして、つまりその・・・。

そして、その小さな口が何かを答えようとしたときだった。

「ごはんですよ〜」

《ごはん!?》

すぐにボクが入ってきたであろうドアが開き、若い女性が入ってきた。

「わ〜い、ごはんだ!」

子供の顔が急にくしゃくしゃになる。

さっきまでの顔は何だったんだ。

「ほら、早く!」

大きな眼でボクを見つめ、小さな手でボクの手を引っ張る。

「二人とも手洗ったわね。」

「もちろんだよ、ねぇ、パパ!」

「え?・・・あぁ、うん。」

《ボクは・・・パパか》

「アナタ、ホントでしょうね?」

《なるほど、ボクはご主人様か》

「おぉ、ぴっかぴかだ。」

何に迷うことなく、ボクも席についた。

「じゃあ、朝ごはんにしましょう。」

「いっただきま〜す!」

「いただきます。」

何か大事なことを忘れているような気がする。

でも・・・悪い気分じゃない。

「昨日ね・・・・・・」

子供の話が始まった。

昨日の体育の授業でどうだったとかを一所懸命に話している。

最初は女の子かと思っていたが、そんな話の内容を聞いていると、どうやら男の子のようだ。

なかなか元気そうで、親としてはなかなかうれしいものである。

ボクたちは、息子の話の流れに身を任せていた。

「ねぇ、今日も遅くなるの?」

突然、妻が言った。

「え?・・・ええと・・・」

すぐに答えようとしたが、パパでない自分がそれを躊躇させた。

《今日の・・・帰りは・・・昨日・・・は・・・》

「昨日遅かったでしょ。大丈夫?」

《昨日?・・・・・・そうだ、帰ってきて、疲れてて、すぐ寝ちゃって、目が覚めて・・・、起こされて・・・!?》

「あ〜ぉ、思い出したぞ!」

『家族』は驚いてボクを見る。

「キミは誰だ!ボクはキミを知らないぞ!そうだ!キミはさっきの女だな。ここはボクの部屋だぞ!それに子供なんか連れてくるな!」

「ちょっと何言ってんのよ。どうしちゃったの?」

茶碗を持ちながら、子供と目を合わせる。

「パパはお寝坊さんでちゅねぇ。」

「はぐらかすな!勝手に他人の部屋に入って、勝手に子持ちにしやがって。」

「ちょっと、どういうこと?ここは二人で選んだトコでしょ。子供が喜ぶようにって。何を言ってるのかしら、ねぇ?」

茶碗を置きながら、子供に目を向ける。

「何を言う。ここはボクが頭を下げて借りた部屋だ。」

ボクはそう言って振り返り、窓を指差した。

《あれれ?・・・ここは・・・》

「この海の近くでアナタは生まれたのよね。」

《えっ?》

ボクは『妻』を見る。

「どうしてもここに住むんだって、東京から越してきたんじゃない。それに・・・」

「ちょっと待った!」

ボクは彼女の言葉をかき消した。

「ボクが海の近くで・・・・・・東京から?」

「そうよ、アナタが私に話してくれたのよ。」

《ボクの生まれた場所・・・ボクの故郷・・・妻と・・・子供・・・ボクは・・・》

「ボクは・・・・・・誰だ・・・」

もう一度振り返って、窓の奥にある海を眺める。

《あれっ?》

さっきとは別の海が見える。

「この海は・・・確か・・・」

見覚えのある暗い海にボクは見入った。

 

 

つづく

 


もどる

書庫へ

トップページへ