第5話 期待
present by まさき
《ここからあそこに行くには・・・いや、ここに寄ってからだ》
・・・・・・天井はボクだけにわかる地図。それを目で追いながら、いつしか夢の中へと誘われる・・・と。
《子供の頃はこんなことをしていたんだろうか・・・》
ボクは先程の『息子』のことを思い出していた。
あの年頃は色んなパスポートを持っているんだ。
どんな世界にでも行くことができるパスポート・・・・・・。
大人になってからでは、それが現実だったのか空想だったのかということすら思い出すことができない。
寓話の世界のような、近くて見えない存在になってしまった。
空想で包みこんだ現実の、またはるか深遠に仕舞われてしまったかのようだ。
そういえば、いまのボクの現実は何時からなのだろう。
いや、まだ夢中をさ迷っているのかもしれない。
そうであるのならば、なんとも面倒臭い夢である。
夢ならではの「冒険」が待っているのであれば、不安どころか期待こそ抱いてしまう・・・・・・が、もし現実ならば、慎重にならなくてはいけないな。
後戻りはできない。
選択としてのどちらに後悔するより、より距離のあるものは深追いしないほうが賢明だろう。
・・・とは言うものの、ボクが動き出すためには時間を要求されてしまっいる。
ボクはただ「明日」を待てばいい。
気長に待つだけさ・・・・・・気長に待つ・・・。
「・・・・・・。」
寝ている場合ではないのだが・・・。
しかし、なんでこんなに冷静なんだ。
明日まで何も判らないんだぞ。
明日になるまで・・・・・・。
「さっきの電話・・・」
五里霧の中、虚ろな記憶と見えない未来に混乱するボクに、「明日」という、動機を与えてくれた。
「あの電話からだ。」
あの電話を受けるまでは、自分が置かれている情況は読めても、自身が形容すべき情景を観ることも感じることも一切なかった。
「女・・・・・・」
最初の女はボクの妻だった。
あの感じから察するに、新婚ほやほやだろう。
2度目の女も妻だった。
息子がいた。
そして、電話の女・・・・・・。
それぞれがボクを知っていて、ボクの記憶に語りかけ、ボクを混乱させるだけさせといて、ボクの前から姿を消す。
同一人物である可能性はかなり高い。
だが、それぞれが同一の時間にボクに接触してきたことは事実だ。
もし、彼女が案内人であるのなら、ボクが何かに引き寄せられているのは間違いない。
「やはり、いまは彼女に頼るしかないのか。」
どうしてもこの結論に達してしまう。
当然納得などできるはずもない。
「・・・いま何時なんだろう。」
時間が気になったボクは時計を探す。
体を起こしたと同時にそれは目に入った。
「へぇ、立派な置時計じゃないか。」
これには驚いた。
大きなノッポの古時計とはまさにこんなものではなかったのではと思う。
正面の大きな扉が開くと、どんなカラクリがどんな世界を見せてくれるのだろうか。
下部のガラス戸の奥には大きな振り子がじっくりと時を刻みつづけている。
ボクは時間を確認するために上部に目をやった。
「7時20分!?」
ボクは愕然とした。
ボクの記憶は今日の朝が全てであるのに、実際の今日の朝はまだ7時過ぎなのである。
「やっぱり夢だったんだろうか。」
でも、ボクにはそれ以外の記憶がない。
ボクはベッドから降りて窓に歩み寄り外を覗いた。
あまりのまぶしさに、手でその源を隠そうとしてしまう。
「3回目の朝・・・・・・ん?待てよ。」
ボクが振り返ると、置時計が最初に目に入る。
「この時計は・・・・・・いつからここにあったんだ?ドアはどこにいった?」
時計のある場所にはドアがあったはずだ。外からカギをかけられた・・・。
「・・・・いや、もう考えるのは止そう。」
切りがない。
「ふふふ、次にこの時計を見るのが楽しみだ。」
随分としたたかなものである。
昔のことはわからない。
けど、こんなワクワクは久しぶりだ。
ボクはベッドに横になった。
「明日は晴れるといいな。」