チクチクと体が痛む。

いや、痛むというよりはムズ痒い。

何とか、この状態を回避しようと思うのだが、体が鉛のように重く、ボクの命令を聞いてくれそうもない。

意識の遠くの方で、せせら笑う声が聞こえる。

声、声、さまざまな声。

体中が、ジワッと汗ばんでくるのがわかる。

気持ちが悪い。

不快だ。

”はやく起きなきゃ!”

だが、肢体が呪縛にかかったかのように、ピクリとも動かない。

コツコツと、笑い声に混じって次第に近づいてくる足音。

軽めの靴・・・ハイヒールの音。

ボクの前でピタリと止まる。

突然、これまでとは比べ物にならない痛みが全身を襲う。

まるで、それが解放の合図のように、ふいに体が軽くなる。

ここぞとばかりに、ボクは上体を起こす。

「やっと、おめざめのようね。」

最初にボクの目に飛び込んだのは、目元をひくつかせた、キツイ顔つきの女性だった・・・・・・。

 


 

第6話 都市伝説(前編)

                                                   

                                                    present by ちひろ


 

「でさぁ、その子の彼氏が、男のクセにぬいぐるみ集めんのが趣味でさぁ・・・」

「そうそう、ガタイはいいくせに、そうゆう事に興味もって、おっかしいよねぇ〜。」

「ねぇねぇ、今日の帰りにさァ、”村モチ”寄ってこうよ。」

「あんた、ハマリ入ってるわよ。昨日、行ったばっかじゃん。」

「だって、あそこのクルミの味が忘れられないのよ。」

「まったく、うらやましいわ。食べても太らない体質ってのはさぁ。」

「いいじゃん、行こうよぅ。」

「しょうがないわねぇ。じゃあ、放課後、部室の前でまってて。」

「了解!」

授業中、教師に悟られないように、小声で器用に話す彼女ら。

いくら席が前後とはいえ、その会話術は見事だった。

交渉成立といった面持ちで、ボクのすぐ後ろの子が、クルッと髪をなびかせ振りかえる。

ボクに目で合図するかのように、ニヒヒと笑みを浮かべる。

「2人前でチャラにしてあげるっ。」

主導権が自分にあるかのように振舞ってくる彼女の名は、”かえで”(漢字では、”楓”と書くが、ボクの頭の中ではかえでだ)。

ふっくらとした顔つきで、頬が少し赤みがかっている。

ボクよりも、背は小さめで、ちょうど目線のあたりといった感じか。

メガネを愛用しているため、才女といった感じだが、成績はボクとどっこいどっこいだ。

どちらも、学年では中の上ぐらいで、悪いとは言えないが、良いとも言えない。

現在、ボクと付き合っているらしい。

らしいというのは、まだ、お互い、はっきりとした意志表示をしていない事による。

仲間内で遊ぶようになって、なんとなくといった感じだ。

同じマンションに同じクラス、席も前後という環境で、傍から見るとうらやましいように思えるが、実際はそうではない。

これが、ふたりの感情の大いな妨げになっている。

いっしょにいる事が、日常的になりすぎて、相手の存在が、空気のように当たり前になっているのだ。

クラスが一緒なため、授業中に”かえで、今ごろどうしてるのかなァ〜”などど物思いにふける必要もなかった。

振り向けば、彼女がいた。

後ろで、ボクが居眠りをした後のイタズラでも考えているのだろう。

ノートの隅に、授業とは関係のないことが、そこかしこに書かれていた。

ボクの似顔絵らしきものを発見するが、デフォルメしすぎて、笑うに笑えなかった。

そんなこんなで、授業中の大半を彼女なりに有意義に過ごしていた。

まともに勉強すれば、結構頭いいんじゃないかって思えてくる。

ボクも人の事は言えないが。

 この時間は、物理の時間だった。

ボクの苦手な科目のひとつだ。

文字と数式の組み合わされた文章を見ると、一気に睡魔が襲ってくるのはボクの特異体質だろうか。

はっきり言って、それは、クロロホルム並みの即効性があった。

先ほどの居眠りもこれが原因と思われる。

後ろのかえでに起こされなかったら、今ごろどうなっていたことか。

たぶん、その日は眠れないだろう。

なんといっても、物理の問題百選を罰として与えられるからだ。

佐川という、この教科担当の女教師は手厳しいことで有名だ。

授業中は、シンと張り詰めた空気が肌にひしひしと感じられて、生徒はみな生きた心地がしない。

テストの問題も難しく、おまけに採点は減点方式なため、再試験にならないやつは、みな国立を狙っているヤツらばかりだ。

28歳、今だ独身がそうさせているのかは定かではないが、さわらぬ神になんとやら。

あまり、関わり合いたくはない教師のひとりであることは確かだ。

こんな雰囲気の中でも、ボクの後ろの約2名はいつもの通りだった。

授業中、大して当てられることもなく、のうのうと過ごしている。

世の中、要領のいいヤツは何処にでもいるようで、そのバランスを保つためにボクという存在があるような気がしてならない。

彼女らを見ていると、そうも思えてくる。

だから、終鈴の合図と共に、特にかえでにこう言ってやるのだ。

”シャーペンで背中突つくの、やめろよ”と。

 

 

つづく


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