最終話 RECOLLECT MY BOY−HOOD DAYS(前編)

 

                                                           present by まさき


 

(ここは・・・)

気を失ったと同時に、ぼくは不思議な世界にいた。

辺りは黒い霧が立ち込めている。

それ以外は何もない。

ボクはおもむろに下に目をやった。

「足がない」

足だけじゃない。

何もない。

自分の体を見回したが、見えるのは黒い霧だけだった。

ボクは不安になった。

怖くなった。

「ハ・・・ハ・・ハハ・・・」

誰かが笑っている。

そのとき、周りの霧の動きが急に激しくなりだした。

ぼくを中心に渦を巻くように、だんだん速く・・・。

「ハハ・・ハハハ・・・ハハ」

誰かが笑っている。

ブォォォォォォーッ

霧の一粒一粒が線に見える。

強烈な霧の風のなか、ボクは黒い霧の向こうの小さな光を見つけた。

光がゆっくり大きくなってくる。

近づいてくるんだ。

近づいてくる・・・というより、ボクが近づいているみたいだ。

体が軽い。

心も軽くなった気がする。

「ハハハ・ハ・ハハハ・ハハ」

笑い声が大きくなってくる。

一人・・・じゃない。

複数の声だ。

子供の声だろうか。

ボクの関心が光の奥に向いたそのときだった。

野球ボールぐらいの大きさだった光が一気に弾けた。

ボクは光に包まれ黒い霧はどこかへ吹き飛んだ。

光が薄れていくにつれ、だんだんと風景が見えてきた。

 

 

ここは・・・海・・・砂浜だ。

だが、海より先に声の主がぼくの目に入る。

周りに比べ少し高くなっているところ。

子供たちが騒いでいる。

「なんか言ってみろよ」

「はははは、ば〜か」

「おまえなんて死んじゃえ」

(・・・・・これは?)

子供たちの輪の中心に・・・赤い服の女の子がいる。

赤い服・・・赤いワンピース・・・ボクは彼女を知っている。

ずっと、ずっと前から・・・ボクが子供の頃から。

 

 

ここはボクが子供の頃によく遊びにきた砂浜だ。

子供たちのいる、あの小高いところが遊ぶポイントだった。

ここは波打ち際から少し離れたところで、潮が満ちるとすっかり海の下に入ってしまう。

前に大きな海が広がり、後ろに取り残された海水と生き物たちが住む、子供にとっては最高の場所だった。

 

 

「こんなとこで何してんだよ」

「ここはオレたちの場所だぞ」

 

 

あの日、ボクは彼女に言ったんだ。

ここにお城をつくろうよって。

そして、ボクは一人で家にスコップを取りに戻ったんだ、新品の赤いやつを取りに。

彼女はニコニコ笑いながらボクを見送ってた。

それが彼女の最後の笑顔だった。

 

 

「むかつくんだよ、このやろう」

「家帰ってクソして寝ろ」

 

 

家までは10分とかからないが、スコップを探すのに少し手間取ってしまい、ボクがスコップを持って、この場所に戻ってくるのに30分はかかったと思う。

そして、そこに彼女の姿はなかった。

代わりに高学年の男子が数人いた。

彼女はすぐに見つかった。

彼女の姿は周りを囲む彼らに隠れていた。

彼女はいじめられていたんだ。

 

 

子供たちの隙間から彼女がちらちら見える。

泣いている・・・けど、声が出ていない。

 

 

彼女は5歳のときに交通事故に遭った。

声が出なくなり、わずかにだが脳にも後遺症が残ってしまった。

小学校に入るとすぐに・・・だった。

入学以来、高学年の男子から度々いじめられていた。

 

 

(ひどい・・・)

子供とはこんなにも残酷なのか。

彼女は手加減無しで蹴られたり引っ叩かれている。

彼女は耳を押さえながら泣いている。

聞きたくないんだろう、せめて。

 

 

・・・・・・彼女がボクに気づいた。

「た・す・け・て」

訴えているのがわかる。

ボクに助けを求めているんだ。

 

 

助けなきゃ、絶対に助けなきゃだめなんだ!

あの時みたいなのはもうイヤだ!

 

 

あの日、ボクは逃げた。

 

つづく


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