暗い部屋、コンピューターのディスプレイだけが光を放っている。

その前に佇んでいる人影

「これは興味深い現象だわ・・・」

ひとしきり思いにふけった後でこう結んだ。

「少々の誤差はあるだろうけども、それはあの子が未然に知ったからかもしれないし・・・」

そしてコンピューターをシャットダウンすると指令室に向かって歩き始めた。

 「反対する理由はない。好きにやりたまえ。」

十二分に予想できた答、しかしリツコの予想を上回る申し出はこの後すぐに提示された

 「老人達にも協力を要請して全面的にバックアップしよう。」

その問答から数日後、ゼーレからの協力としてMAGIシリーズの優先的使用を認める旨の文書が届けられた。

こうして世界各地のMAGIの5台までをも使った大掛かりな実験に発展していく。

「君の言っている事が正しく実証され、かつ、応用可能であればMAGIを集める程度の労力は何も惜しくないからな。」

ゲンドウは更にこう付け加えた

「ただ、老人達の最低限の条件としては実験過程から結果が出るまでを操作不可能なメディアに記録し、その全てを提 出する事が義務付けられている。そしてこれは失敗した時も同じく適用される。」

 リツコはフと疑問に思う

<操作不可能なメディアなんてあるのかしら・・・?>

「わからないかね?これから君がやろうとしてる事と根は同じなんだが。」

 リツコはその一言で全てを理解した。

「それではどうしましょう?誰が適当でしょうか?」

 あまりにもカオス的な事を平然と言ってのける。

「ちょうど良いのが一つだけあるだろう。」

 リツコは少しだけ眉を顰める、この人はホントに使えるものはなんでも使うのだな・・・ そんな感情と、いつかは自分もそうなるのではないか?と言う予感にも似た不安感。

「人格を与えるまでに時間が必要ですが・・・。」

言葉を終える前にゲンドウが回答する。

「人格などは必要ない。要は観る事が出来るかどうかだけだ。」

リツコはなるべく平静を装って了解の返答をする。

「それではすぐに準備に取り掛かりたまえ。良い結果を期待している。」

ゲンドウはそこまで言い放つとリツコに退室を促した。

ゲンドウは一人になってから呟く

「また、余計なものを見つけ出したものだ・・・。」

そう、リツコがこれから始める実験の被験者はゲンドウの息子、碇シンジだった・・・

 


 

収斂、そして拡散 〜前編〜

 

present by alf


 

学校帰りに僕はアスカに引き止められた。

「今日は一緒に帰らない?たまにはいいでしょ?」

「ん?今日は委員長と一緒じゃ無いの?」

僕は突然のアスカからの誘いにそんな言葉を返していた

「だって、ヒカリは誰かさんにお弁当作る!って言ってサッサと帰っちゃうんだもの。だから、ね?」

僕はドキリとする。

アスカは乱暴な言葉使いとがさつな所が無ければ飛びっきりの美少女なのだ、その美少女からの誘いとあらば誰でも二つ返事で了解するだろう。

「暇で暇でどうしようもないから、しかたなく独りで帰るシンジに愛の手を差し伸べてやった訳なのよ。嬉しいでしょ〜?」

僕は心の中で大きな溜め息を吐く。

いっつもこんなんだからなぁ、どうせ僕はアスカの暇つぶしの一つに過ぎないんだよな・・・

「それにね、シンジの事、この前の使徒との戦いの時に見直しちゃったからそのご褒美よ。」

なんだかアスカの口調が柔らかなものに変化しているような気がするけど一体どうしたんだろう?

「そ・・・それは自分でも良く分からないんだけど、どうしてもあの時は父さんに言わなきゃならないって思って・・・」

そう、先日の使徒との戦いでシンジは始めて作戦の内容に異議を唱えた。

確実に倒せる方法があるのなら、何を失おうともそれで行くべきだ。

そんな事を力説したんだった・・・

アスカに言ったようになぜ自分がそうしたのは分からない。

軌道衛星上で不気味に羽根を広げている使徒に一抹の不安を感じたのかもしれない。

その結果、ロンギヌスの槍を失う事でその使徒はアッサリ倒せた。

だから今となっては不安の理由が分からなくなってしまったけど。

ただ、槍を使わなければただ事じゃない結果になっていたと言う確信は何故かあったのだ・・・

焦燥感にも似た何かを失う恐怖が確かにあったのだ。

自分の理解を超えた確信が・・・

「どうしたの?ボケーっとしちゃって。」

アスカの問いかけに僕は一気に現実に引き戻された。

「ん・・・何でもないよ。どうしてあの時僕は父さんにまで逆らったのかな?と不思議に思ってただけだよ。」

「ま、考えても仕方ない事じゃない?私はシンジの事を見直したし、使徒はアッサリ倒せた。それでいいんじゃない?」

なんだか気楽に言い放ってくれる、でもそれは確かにそうかもしれない。

そもそも予感なんかに理由なんてないのかもしれないし。

「そうだね、考えても仕方ないよね。」

次の日、シンジは唐突にリツコからの呼び出しを受ける事になる。

実験の準備が整ったからだった。

MAGIが5台、不気味な唸り声を上げている。

その中央にはLCLの満たされた水槽、その周りを取り囲むかのようにコードの類が散乱している。

それらは重なり合い、調和している為に見るものに有機的な印象を与えた。

そこに佇む2つの影、リツコとマヤだった。

「何ですか?こんな所に呼び出したりして。」

シンジは周りの雰囲気に圧倒されながらリツコに尋ねる。

「そうね、いきなり呼び出したりしてゴメンなさいね。実はシンジ君にはこれから始める実験の被験者になってもらいたいの。」

リツコはすまなそうな言葉使いとは程遠い内容を言ってのけた。

マヤは既にリツコに内容を聞かせられているのか、なにも驚いた様子はない。

「実験って、何の実験なんですか?」

恐る恐るリツコに尋ねる

「そんなに身構えられちゃ良い結果は出せないだろうから教えておくわね。」

そう言うとリツコはマヤに目配せをする、マヤは手に持った書類をめくって説明を始めた。

「シンジ君にはこれからあの中央においてあるLCLの水槽の中に入ってもらいます。それから私達・・・もっぱら後ろに控えているMAGIからの質問を聞いてくれるだけでデータの収集は終わるわ。」

マヤは説明を終えたようで、リツコは続きを話すように補足説明を開始した。

「マヤちゃんの説明通りだけど多分<聞くだけ>って所に引っ掛かりを感じてるみたいだからその辺を説明するわね。」

ちょっと長くなるかもしれないけどガマンして聞いてね。

と前置きを置いてリツコは話し始めた。

「シンジ君は無意識って言葉を知ってるわよね?これは私達が普段自分で認識できる意識の更に深い自分ですらどうなっているのか自覚できないレベルの意識の事を指すのよ。で、ユングはそこから更に深い無意識領域として集合無意識と言われている無意識レベルが存在すると唱えているわ。まぁ、もっと詳しく言えば集合無意識の中に更に個人、家族、一族、国民、大きな集団、原始の先祖、動物としての先祖、にまで分類されているの。これから行う実験ではここまで深く掘り下げる必要は無いけど質問に対する答というものは認識できる意識レベルより無意識領域が出す答の方が真実である。と言いたい訳なのよ。」

ここまで言い終わるとリツコはシンジの方を向き直って言った。

「理解できた?乱暴に言っちゃえばシンジ君が答えにくい質問を受けたとするでしょ?その質問はなんで答えにくいのかしら?答は簡単、無意識領域は既に答を出しているのにシンジ君はそれをそのまま答えちゃったら相手に不快な思いをさせるとか自分の立場が不利になるって分かっている質問だからよ。だから躊躇する。」

「なるほど・・・って事はもしかして僕の心の中の事をみんなデータとして取っちゃうってことですか?」

シンジは困ったような顔をして質問する。

「あまりにもプライベートな事は質問として入って無いわよ。必要だった被験者はシンジ君じゃ無くて人間であれば良いのだから。」

「それじゃ、何で僕なんですか?他にももっと人は居そうですけど・・・?」

リツコは、マヤも知らない実験の本当の意味少しだけを覗かせてやる事にする。

「先に遭遇した使徒との戦闘で、シンジ君があれだけ強烈に作戦の変更を訴えたのは何故かと思ってシンジ君にしたんだけど。」

「あれは僕も何故か分かって無いんです。協力したら分かりますか?」

シンジはリツコに疑問を投げかける

「必ず分かると言う物では無いかもしれないけど、シンジ君一人で考えてるよりは確率は段違いで分かる筈よ。だから、協力してくれるわね?」

有無を言わさぬ迫力でリツコはシンジに迫る。

結果、シンジは実験への協力を承諾してしまう。

リツコは心の中でほくそえんでいた。

これで、母さんを超えられる・・・

心の奥底に仄暗い炎が燃えていた・・・  

つづく

 


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