収斂、そして拡散 〜後編〜

present by alf


 

「今日は、みなさんに転校生の紹介をします」

朝はこんな始まりだった

「こんな危ない所に転校してくるなんて」 「どんな子が来るのかな?」 などの声で教室の中は一時騒々しくなったが、教師が転校生を教室に招き入れた事によって、その騒々しさは波のように消えていく。

「さて、自己紹介でもしてもらおうかな?」 と教師が転校生に促す。

それを受けてその転校生は皆を見渡してから多少間を置いて自己紹介を始めた。

「渚カヲルです。みんなよろしく。」

少し、ほんの少しだけ影のある声はクラスの女子の黄色い声に半ば掻き消されていた・・・

その中でカヲルを観察するような瞳がある

そしてカヲルと目が合った。

それからの一日は表面上は日常となんの変化も無く過ぎていく。

授業の合間の休み時間にカヲルが女子に囲まれて質問攻めにあっている光景だけが日常と唯一の差だった。

昼休み、レイは例によって質問攻めにあっているカヲルを無理矢理に屋上まで連れ出した。

女子のひがみ、恨み言を背に受けながらもレイはドンドン先に進んで行く。

カヲルは教室を出る直前に、まだ恨み言を言っている女子に向かって言い放った。

「謂れ無い誹謗中傷は軽蔑に値するよ。」

女子を黙らせるにはこれで十分だったらしく、皆静かになっていった。

「さて、何を詰問されるやら・・・」

ちょっとおどけた調子で独り言を言いながらカヲルはレイの後を追っていった。

そして屋上。

その詰問は唐突に始まった。

「貴方はまだ早い。」

なお続く

「貴方はどっちなの?」

どちらの質問も何かを知っていなければまるで意味の通らない質問、レイは意図していたのかどうかは分からないが一番最適な言葉を紡いでいた

「知らない振りをするのは反則かい?」

その言葉はレイの質問への肯定以外のなんでも無い。

「僕はこの茶番を今度こそ終わらせる為に出てきたんだよ、僕が彼に過度の接触を図ろうとしたから今みたいなややこしい状況になったんだろう思う。」

カヲルの言葉が終わるか終わらないかの内にレイは言い返す

「茶番じゃ無いわ。碇君は必死なだけ、壊したく無いし壊れたくも無い、傷つける事を怖がるし傷つくのも恐がっているの。」

「そう、彼の理想としているものはあまりにも普通の事なんだ。僕みたいな<普通じゃ無いもの>が接触すれば何かが狂うと分からなかった僕が悪かったんだ。」

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る、2人は無言になって屋上から教室へと戻る。

「貴方はこれからどうするの?」

ぼそっとレイが言う。

「僕は学校が終わったらネルフへ行こうと思う、シンジ君がリツコ博士の実験に利用されているらしいからね。」

また補足するように話す

「マドゥルックから話が言ってる筈だし、それにMAGIは今その実験の為に完全にふさがってる筈だからいきなりばれるって事も無いからね。」

「5th?」

「そう」

会話はそれだけだった。

リツコは微笑んでた。

艶笑と言っても差し支えないとても恍惚とした笑みだった。

それを眺めながらマヤは自分にもあんなふうに微笑んで欲しいな等と思っていた。

心の底から湧きあがってくる感情は嫉妬。

シンジに向かって微笑んでいるからだろう、リツコはマヤの事を潔癖症だと捉えている。

そう指摘された事もあった。

しかし自分では気が付いているのだ。

マイノリティである事を・・・

非生産的な欲求、それに身を焦がした事も幾度もある。

潔癖症などでは無いのだ、自分の心のそこにある物を見つけられたく無いが為に、表面上は常に身も心も奇麗に保っているのだ。

それが幻想だと解っていながら・・・

マイノリティである事を楽しんでいる人も、おおっぴらにしている人も沢山居る、しかし自分には出来ない、そんな勇気は無いし受け入れられるとも思っていない。

結局は全てがメッキ、装飾なのだ・・・

「先輩、一つ質問しても良いですか?」

気を取り直してマヤはリツコに声を掛けた。

「何?質問って?」

リツコはこちらを向く先ほどの表情とは打って変わった研究者の顔になっていた。

少し落胆するが質問をしてみる事にした。

「単刀直入に聞きますが、この研究は前に私に説明してくれた物とは全く違いますよね?」

リツコは何故そんなこと聞くの?といった顔でマヤを見返す。

「だって、不自然すぎます、多分前の説明の通りの実験だったらMAGIを5台も使って仮想ニューロネットワークなんて作る必要が無いと思いますから。」

仮想ニューロネットワーク5台のMAGIを全て連結させて人体内部のどんな微弱な電流もリアルタイムに処理、その中でも脳は持てる技術全てをつぎ込んでほぼ完全にMAGIの中に人体を形成するプログラム、それが仮想ニューロネットワークだった。

「これじゃシンジ君のクローンでも作るのと同じ事です。それに外部からの刺激に対して思い出す事だって限りなく個人的なものになる筈です。人であれば良いなんて言ってましたがシンジ君じゃなきゃ駄目な理由があるような気がして・・・」

ここまで一息で言いきると、様子を伺うようにリツコの方を見る

「参ったわねぇ、まさかマヤがここまで鋭いなんて」

少し小馬鹿にしたような言い方でリツコは前の説明が嘘だったと肯定した。

「それじゃ、何故シンジ君だったんですか?以前の使徒戦と何か関わりでもあるんですか?」

マヤはそう切り出した

「そうね、マヤの言う通りよ。シンジ君は先の使徒戦の時に作戦に真っ向から反発したわよね?それ以前にも少し変だと感じる所があったから少しだけシンジ君の記憶を調べてみたの。そうしたらシンジ君は今迄、ネルフに来る直前からだと思うけどそのあたりの記憶が最低2つはあるのよ。意味解るかしら?」

話は一つの事実に収束しつつあった。

「それって、シンジ君は時間、それか歴史を2度体験してるってことですか?」

「そう言う事になるわね。シンジ君は全く知らないみたいだけど記憶の奥底、脳内ネットワークからほぼ完全に切り離された所に仕舞われてたみたいで、今回私はそれを引っ張り出して補完計画の一部に組みこむ為にこの実験を立ち上げたの。」

マヤにとっては衝撃だった。

人が時間をそう簡単に飛べるものかと思うとぞっとする。

「お話は分かりました。それじゃ、何故MAGIが5台も必要なんですか?」

「それはね、記憶には2種類あるの、1つは頭で覚えてる物、もう一つは体で覚えてるものよ私が以前シンジ君の記憶を探った時は確かにMAGIの一部を使ったけれど、それじゃアマリにも役不足だったの、存在をおぼろげながら確認した。程度だったのよ。」

その時、突然内線が入った。

その内容は5thチルドレンを名乗る渚カヲルという少年が挨拶に向かっている。

ロックを外して待機しててくれといった内容だった。

了解の意志を伝え内線を切るとその瞬間にドアが開く音がした。

「5thチルドレン渚カヲルです。」

逆行になっていて良く顔が分からない。

だんだん影が近付いてくる。

ロックを外した覚えはないし外部からロックは外せない筈である。

そして完全に顔を確認で切る位置までカヲルは迫ってきた

「貴方がリツコ博士、そちらが伊吹マヤさんですね、おや?後ろに居るのはシンジ君」

白々しいセリフ、リツコとマヤは恐怖を感じていた

「貴方は誰?どうやって入って来たの?」

震える声を隠す努力を放棄したマヤが聞く。

「だから5thですって、名前は渚カヲル」

マヤが恐がっているせいで逆に冷静になったリツコは問う

「貴方は使徒ね?それもシンジ君と同じ所から来た・・・」

「理解が早くて良いですね、そうですよ僕は使徒でシンジ君にくっついてここに来た者です、危害を加えるつもりは全く無いので安心してて下さい。」

あくまで丁寧な態度を崩さない。

「僕はこの茶番を終わらせに来ただけだから・・・」

声のトーンが落ちる

「それに、人の深層を覗くのは神に唾するのと同義だから今後馬鹿な考えはよした方が良い。」

「神なんて、この科学の時代に存在する場所なんて無いわよ!あったとしても学問の場くらいにしか存在しない物を誰が恐がるって言うの?」

マヤは半分自棄になっている。

しかし声は多少の落ち着きを取り戻しているようだ。

「神は人だよ、厳密に言えば心理学で言う所の<シャドウ・アニマ・アニムス・グレートマザー・老賢人・セルフ>がそれに当たるね、今はそれらは集合無意識の元型と言われているけどね。それを物語化したものが神話になっているだけさ」

そう言い放つとシンジに向かって大声で呼びかけ始める

「シンジ君!聞こえてるだろう?馬鹿な実験に付き合う必要はもう無くなったんだよ。目を覚まそう!」

MAGIの作動音が多少不規則なものになる

「起きるわ、ここまで来て実験を終わらせなきゃいけないなんて・・・」

本心から悔しそうにリツコは歯噛みしている。

「実験は中止なんですか?」

マヤは事体を理解していないようにリツコに問う。

「あのまま進めてても多分失敗してたでしょうね、そこに居るカヲル君が教えてくれたわ。」

「良く御分かりで、あのままシンジ君の深層心理を無理矢理覗いていたら暴走してただろうね。」

そしてシンジはLCLの中で目を覚ました目の前にはリツコ、マヤ、そしてどこか懐かしい少年が居る。

その少年、カヲルはシンジに声を掛ける。

「さぁ、もう君を縛り付ける者は何一つとしてないんだよ。君を傷付ける人もね。」

シンジはその声に安心しつつまた意識を失った・・・

 

 

 

そして・・・

 

 

 

「お〜〜っすシンジオハヨウさん。今日も夫婦揃って登校でっか〜。」

トウジのからかう声が朝の静かな時間をかき乱している。

「私に挨拶無いとは良い度胸ね〜ほら、挨拶しなさいよ〜。あんたは一人寂しく登校なの?ヒカリは一緒じゃないの?」

もうアスカは夫婦とか呼ばれるのを訂正しようとはしていない。

すでに慣れてしまっているようだ。

「イ、イインチョなんか関係ないやんか。」

思わぬ反撃にトウジは怯む。

「あら?私がどうかしたの??」

後ろから当のヒカリ本人の声が聞こえてくる。

「ハイ、鈴原お弁当、今日も作り過ぎちゃったみたいだから残飯整理お願いね。」

「今日<も>ね〜〜〜。ふ〜〜ん、ヒカリって自分の食べる者と全然違う物も朝に作るの?」

とたんに真っ赤になるヒカリだった。

多分これが面白くてアスカはからかってるんだと思うが・・・

「あら?アスカにはこの間お弁当の作り方教えたよね?あれはまだ作ってあげてないの?」

「む〜〜〜〜・・・」

アスカは困った顔をして赤くなっている。

突然トウジが話題をシンジに振る。

この手の話題に付いていけなくなったのだろう。

シンジも既に発言できるような状態ではなかったから渡りに船だった

「そうそう、この前のEVA観た?おもろかったな〜。もう今から来週が待ち遠しいんや」

この一連の会話を聞いている2人の影、カヲルとレイだった

「そうか、誰でも知っていれば自分が知っていても何の不都合も無いか。」

カヲルは一人ごちる

「単純な事だったね。」

そう、結果を見れば大体の事が簡単な物なのだ。

只考えるから難しくなる

道は自分の歩いている道だけではない。

振りかえればほんの数歩の所に分かれ道があるのだ。

時間の道はその瞬間瞬間が枝分かれしている。

自分の道を信じ、振りかえれば幾筋もの道があるのだ。

でも、戻る事はない。

只真っ直ぐ歩いている気がしているだけ。

それで良い・・・

「さて僕たちもそろそろ自分の辿る場所に戻ろうか・・・。」

少しだけ寂しそうに言う

「僕ら人でない物は居てはいけないみたいだから・・・。」

数瞬の間の後レイは肯いた

そして、2人の居た後には少し大き目の水溜まりが出来ていた。

目を凝らせば中に胎児のような物が見えている。

その水溜まりは夏の強い日差しの中、少しずつ世界から拡散して霧散して消えていった・・・

 

<了>


>ごめんなさい、マジで遅くなりました^^;

>しかも書き始める時間が時間だった物でかなり省いた部分が出て来てしまったけど・・・

>まぁ許して下さい(;;)

>なんだか良く分からない物になったような気がしないでもないけど、俺が気にしないから気にしないで下さい(爆)

>シリアス系は間違いなくこれが最後になります。

>って言うか投稿自体が終わってしまうかも。

>周りの環境が一気に変わるもんでね^^;

>んじゃ、この辺で^^/~~~

今までの投稿、マジでありがとう!

alfさんの今後のご活躍を祈って   see you again!

 


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