アンはしょっちゅう失敗をしでかします。
でも、そのほとんどを彼女なりの方法で、うまく切り抜けていきます。
(なかには、そうもいかないこともあるけど・・・)
アンのかわいいドジぶりをみてみましょう。
マリラの大事にしている紫水晶のプローチがなくなった。
実はマリラのレースの肩かけにひっかかっていたのだが
マリラはアンが取ったと思いこんでしまった。
マリラは本当の事を白状するまで、アンをピクニックに行かせないと言った。
どんなにやっていないと言っても信じてくれないマリラ。アンはどうしてもピクニックに
行きたかったので、ウソをついた。
「あたし、紫水晶のプローチをとりました。あんまり美しく見えたもんだから
どうすることもできない誘惑に負けてしまったの。おぱさんがお帰りにならないうちに
もどしておこうと思って、「輝く湖水」のところで、もう一度よく見ようとして
ブローチをはずしたの。日の光があたってキラキラ光ってなんてきれいだったでしょう。
そして、橋へかかったとき、するっとブローチは手からすべり落ちて・・・
永久に「輝く湖水」の底に沈んでしまったの」
告白すればピクニックへ行けると思ったアンが考え抜いたウソだった。
でも、これを聞いたマリラは罰として、ピクニックへ行かせなかった。
そして、その日の午後マリラは、ブローチをみつける・・・。
マリラは自分の非をみとめた。よく考えれば、アンがいままでウソをついたことは
一度もなかった。ウソの告白をしたのは、よくないことだが、そうさせたのは
自分自身だったのだからと、お互い許しあうことにした。
そして、いそいでピクニックへ行く準備をさせた。
これは、どちらかというと、アンのミスではない。
でも、グリーンゲーブルスでの初めての大きな事件といえるだろう。
マリラがまだアンという少女を理解しきっていないことからおきた事件だった。
その晩、みちたりたようすで帰ってきたアンをみて、マリラは
この子はきっといい子になっていくだろうと思った。
ギルバート・ブライスはクラスで一番勉強ができ、女の子なら誰でもが
彼にふりむいた。でも、アンは違った。ギルバートは意地になって自分の方を
向かせようと思い、アンの赤い髪をひっぱって言った。「にんじん、にんじん」
アンは怒りにもえた目でギルバートをにらみつけ、「ひきょうな、いやなやつ。
よくもそんなまねをしたわね」と言って、自分の石盤をギルバートの頭にうちおろし
石盤を真っ二つにしてしまった。
フィリップス先生は「ぼくがわるかったんです」というギルバートの言葉には
耳をかそうとせず、「わたしの生徒がこんなかんしゃくと短期な性格をしめしたことを
残念に思います」と言ってアンを黒板の前に立たせた。授業がおわって、ギルバートが
「ぼく、ほんとうにわるかったよ、アン」とあやまっても、アンは耳もかさなかった。
次の日、授業に遅れたアンをフィリップス先生は罰として、ギルバートのとなりに
座らせた。遅れたのは、彼女だけでなく、男の子たちもだった。しかし、先生は
一同の身代わり罪人として、彼女だけを罰したのだった。
ギルバートのとなりに座らせることは、アンにとって、これ以上ない屈辱だった。
そして、その日以降、アンは学校へ行くのをやめることにした。
マリラやリンド夫人も話を聞いて、アンの思うようにさせることにした。
今回のことは、フィリップス先生のほうが悪いとみてとった。
無理にいかせても、アンがまた騒ぎをおこすかもしれなかった。
永遠のパートナーとなるギルバートとの出会いは最悪だった。
しかし、これによって、ふたりがライバル意識をもやし、
お互い切磋琢磨していったこともまた事実である。
マリラが用事で遅くなるので、ダイアナを招いてお茶をあげてもいいよ、と
提案した。さくらんぼの砂糖づけも、果物入りのケーキもクッキーも食べていいと言った。
居間の戸棚の二段目にあるいちご水も飲んでいいと言ってくれた。
アンが喜んだのはいうまでもない。ふたりは、とっておきの服と、おしゃれな会話で
午後のティーパーティーを楽しんだ。アンはとっておきのいちご水を
ダイアナにすすめた。こんなおいしいものだとは思わなかったといいつつ
ダイアナは3杯も飲んだ。そして、気分がわるくなった。
アンがすすめたのは、いちご水ではなく、ぶどう酒だったのだ。
マリラはいちご水は地下室に置いてあったことを思い出した。アンは戸棚の二段目にびんが
なかったので、探したところいちばん上の棚にびんがあったので、それを出したのだった。
ダイアナのお母さんはアンを許さなかった。アンがわざと、飲ませたと思いこんでいた。
だから、もう二度とダイアナとは遊ばせないと言った。
マリラは、なんであれコップに3杯も飲む食いしんぼのダイアナにも問題があると思った。
事情を話せばわかってもらえると思っていた。
ところが、バーリー夫人(ダイアナのお母さん)は、先入観と偏見の強い女で、アンが前もって
たくらんでダイアナを酔っ払わせたと思いこんでいた。
「ああ、おばさん、どうぞ許してくださいな。あたしダイアナを酔わせる気はちっとも
なかったんです。もし、おばさんが、哀れな孤児で世界じゅうにたった一人の
腹心の友があると考えてごらんなさい。その友だちをわざわざ酔わせようなんて
思うでしょうか?ああ、どうか、もうダイアナと遊ばせないなんて言わないでください。
そうなれば、おばさんは、あたしの生涯を嘆きの黒雲でおおってしまうでしょう」
人のよいリンド夫人ならまたたくまに気持ちをやわらげてしまうと思われる
アンのこの言葉もバーリー夫人にはなんの効果もなかった。
アンのおおぎょうな文句や芝居がかった身ぶりに信用がおけないとにらんだ夫人は
このこどもが自分をからかっているのだと考えたのだった。
今回のこの失敗は、アンをもってしても、とりもどすことができなかった。
しかし、別の機会にダイアナとつきあうことを許してもらえることになる。
アンとマシュウが楽しい会話をしているとき、真っ青な顔をしたダイアナが
とびこんできた。妹のミニー・メイが喉頭炎にかかってしまったらしいが
両親が留守なので、どうすればよいかわからず、困っているのだった。
ふたごを三組も世話したアンは喉頭炎のとき、どうすればいいかよく知っていた。
ダイアナを勇気づけると、手早く準備した。マシュウはだまって、お医者さんを
迎えに出た
三歳になるミニー・メイは重体だった。熱っぽく全身をしきりに動かしながら
台所の長椅子に横たわり、ぜいぜいいう息づかいは家じゅうに響いた。
アンはてきぱきとなれた態度で仕事にかかった。
「熱いお湯がたくさんほしいんだけれど。あたしが、ミニー・メイの着物をぬがせて
ベットにいれるから、やわらかいフランネルの布をさがしてきて。
何よりさきに、お薬を一服飲ませるわ。」
夜どおし、苦しがるミニー・メイを看護したおかげで、マシュウがお医者さんを
連れてきたときには、さしせまった手当ての必要はもうなかった。
お医者さんにすべてを聞いたバーリー夫人は、ぶどう酒の件での無礼をわびた。
どうか水に流してもう一度ダイアナと仲良くしてもらいたいと言った。
そして、ほんとうのお客様みたいに、いちばんいいお茶道具を出してくれた。
アンのまごころがバリー夫人に届いたのである。
ダイアナの誕生日、バーリー夫人のまねきでアンは音楽会へ一緒に連れて行ってもらい、
そのあとバーリー家へ泊めてもらうことになった。
アンが提案した。「走って行ってどっちが早くベッドに着くか競争しましょうよ」
二人は、長い部屋をかけぬけ、客用寝室の戸口から二人同時にベッドにポンとはねあがった。
するとそのとき、何かが二人の下で動いて「ギャッ」と叫んだ。
シャーロットタウンからきたジョセフィン伯母さんだったのだ。
猛烈に怒ったジョセフィン叔母さんは、ひと月滞在するつもりだったのに、明日には帰ると
言い出した。ダイアナの音楽の月謝を払ってやる約束だったのも、もうやらないと言い出した。
ダイアナはジョセフィン伯母さんにひどく叱られたが、
それがアンの一言ではじまったということは、決して言わなかった。
アンにとって、それはつらいことだった。だから、告白する決心をかためた。
「ゆうべ、あなたのベッドにとびのったのは全部、あたしのせいです。
あたしが言い出したんです。ダイアナなら、そんなこと思いもつかなかったに
違いありません。とてもしとやかな人ですもの。ですから、ダイアナにおこるのは
まちがっているってことを、わかってくださらなくてはいけません。」
「あたしたち、ただ、ふざけてやっただけなんです」
「とにかくダイアナを許して、音楽の勉強をやらせてあげてくださいな。
ダイアナはやりたくて夢中になっているんですもの。
もし、だれかをおこらなくてはならないのなら、あたしをおこってくださいな。
小さいときから、おこられることにはなれきっているもんで、ダイアナより
ずっと楽にがまんできるんです。」
アンの人情に訴えた言い分をジョセフィン伯母さんは受け入れてくれた。
「あの子は、わたしを愉快にしてくれるし、わたしぐらいの年になると
なかなか愉快な人間にはでっくわさないものだからね。あのアンという子と
もっとよく近づきななりたいと思ったのさ」
結局彼女はひと月以上も滞在し、いつもより気持ちよくお客になっていた。
アンのおかげで、上機嫌になっていたからである。
アンは家のまわりがありふれてつまらないからと、
おもしろ半分に近くの森にお化けが出ると想像してみた。
白い着物の女の人がいて、夜になると小川に沿って歩きながら泣き叫ぶ。
殺された小さなこどもの幽霊が森のすみにさまよっていて、人のうしろに
そっと忍びよってきて、冷たい手でしがみつく。
首のない男の人がこみちを行ったり来たりしているし、木の間からは骸骨がにらみつける・・・。
そんなお化けたちがでそうな時間に、マリラはバーリーさんのところへ行けという。
アンは精いっぱい頼んだり泣いたりした。想像力が先走り、森をしんから恐ろしいと思った。
「もし、白いものがあたしをさらっていってしまったら、どうするの?」
マリラは無情しごくだった。「わたしがこう言ったからには、どこまでも本気なんだからね。
あんたの幽霊を想像するくせをなおしてあげるのさ。さぁ、とっとと行きなさい。」
アンの描き出した妖魔が、森のそこここにひそんでいて、骨だらけの手をさしのべて
幽霊どもの生みの親であるこの小さな恐れおののく女の子につかみみみろうとした。
命からがらバーリー家からもどってきたアンは、ふるえながらマリラに言った。
「これからは、あ、あ、ありふれた場所で、ま、ま、満足して、むやみやたらに
変わったことは考えないわ」
アンが初めて自分の想像力を悔いたできごとだった。
アヴォンリーに新しい牧師夫妻がやってきた。グリーンゲーブルスでも
ふたりをお茶におまねきすることになった。
アンもレヤー・ケーキを作っておもてなしすることにした。
なごやかにお茶会がすすみ、いよいよアンの作ったケーキが出された。
牧師夫人は一瞬妙な表情をし、一言も言わずに食べつづけた。
それを見たマリラはいそいで、自分も食べてみた。それはひどい味だった。
アンはヴァニラのかわりに、痛み止めのぬり薬をいれてしまったのだった。
マリラが薬びんをこわしてしまったので、ヴァニラのあきびんに移しておいたのだった。
ひどいかぜをひいていたアンは、匂いがわからなかったのだ。
アンはベッドに身を投げ出して泣いた。
「あたし、永久に恥を残してしまったわ。けっして、とりかえしつかないわ・・・」
牧師夫人はベッドのそばに立ってにこにこしながらアンを見おろしていた。
「いい子だから、そんなに泣いちゃいけないことよ。だれでもやるような
こっけいなまちがいじゃありませんか、珍しくはありませんよ」
「いいえ、あたしでなけりゃ、やらないばかなまちがいです」
アンはしょんぼり答えた。
「あのお菓子がうまいぐあいにいこうといくまいと、あたしはあなたの親切と
心やりをありがたいと思っているのよ。さあ、もう泣かないで」
牧師夫人はこころのひろい人だった。
女の子たちのお茶会で「命令遊び」をすることになった。
まけずぎらいのアンは、つい、屋根の棟の上を歩けると言ってしまった。
アンは、自分の名誉にかかわることなので、たとえ落ちて死んだとしても
それをしなくてはいけないと思った。
アンがのぼったほうの側にころがり落ちたのでなく、地面に近い反対側に落ちたので
かるくてすんだ。しかし、アンは立ちあがることができなかった。
バーリー氏に抱えられたアンをみたとき、マリラは心臓をぐさりとつきさされたような
恐怖におそわれた。
「だいじょうぶよ、マリラ。かかとをくじいたらしいけど、でもね、あたし
首の骨を折るところだったのよ。ものごとをあかるいほうに考えましょうよ。」
アンはそういうと、気を失った。
医者が診察した結果、アンのかかとはつぶれてしまっていた。
直るまでの7週間、アンは自分の想像力のおかげで、あきあきすることなくすごせるのを
どんなにありがたいと思ったかしれなかった。
見舞い客も毎日あって、こどもの世界のできごとをすっかり話してくれた。
「寝たっきりなのは、あまり愉快じゃないけど、それでもいいこともあるわ。
どのくらい友だちをもっているかが、わかるんですもの。」
マリラがアンを探していると、身をかくすようにして、ベッドにうずまっていた。
「あたしをみないでちょうだい。あたしは、絶望のどんぞこにいるの。」
マリラは一体何があったか、知りたがった。
「あたしの髪を見てごらんなさい、マリラ。」アンは小さな声で言った。
アンの髪はつやのない青銅がかった緑色で、ひと筋、ふた筋、もとの赤いものがまじって
いっそう気味わるい効果をあげていた。
「赤い毛くらい、いやなものはないと思っていたけれど、いまとなってみれば緑色の髪のほうが
十倍もいやなことがわかったわ。ああ、マリラ。どんなにあたしがみじめだか
わかってもらえないと思うわ。」
行商人の「かならず黒髪にかえる」という言葉を信じたアンは、染め粉を買って
髪を染めたのだった。緑色になってしまった髪は、洗ってもおちなかった。
アンは一週間どこへも行かず、毎日髪を洗っていたが、結局、髪を切るしかなかった。
短くなったアンの髪は学校でセンセーションを起こした。しかし、アンは黙ってがまんした。
「なぜって、それも罰の一部だから、しんぼうしなければならないと思ったの。
もう、二度と美しくなろうなんて思わないわ。よい人になることのほうがいいわ。」
池のまわりで遊んでいたアンたちは、白ゆり姫の劇をすることにした。
アンは小船に横たわって流されていく、白ゆり姫になった。
ロマンチックにただよっているアンに大変な事件がもちあがった。
小船が漏りだしたのだ。このぶんでは、下の岬につかないうちに、小船は沈んでしまうに
違いない。アンはひたすら祈った。「どうか、神様、この小船を杭のところに着けてください。」
願いはかない、小船が杭のズシンとぶつかり、アンは切り株によじのぼることができた。
小船はみるみるうちに沈んでしまった。
ダイアナたちは、アンが小船といっしょに沈んでしまったと思い、悲鳴をあげながら
森をつきぬけて駆け出していった。
アンがこれ以上、腕と手首の痛みをがまんできないと思ったとき、ギルバート・ブライスが
小船をこいできた。「アン・シャーリー、いったいどうしてそんなところにいるの?」
彼は、船をそばにこぎよせて、手をさしのべた。しかたがない。アンはギルバートの手に
しがみついて小船にはいりこんだ。
船着場に着くと、アンは見向きもせずに岸にとびあがった。
「どうもありがとうございました。」と、言って立ち去ろうとするアンをギルバートは
ひきとめた。「ねぇ、僕たち仲良しになれないかしら?あのとき、髪のことを
からかったりして、ほんとうにわるかったと思っているんだ。」
一瞬、アンはためらった。いままでにない妙な気持ちを覚えた。
しかし、彼女の口から出た言葉は「いいえ、あたし、あなたとはお友だちに
なりたくありません。」だった。言ったあとで、あんな返事をしなければよかったと思った。
アンはもうとっくに、ギルバートを許していたのである。