<4> 夜のはじまり
ただ永く恐ろしくも心地よく、不可思議な夢の時間を切り裂いて現れたのは、仄かに
蒼く、暗い天井。まだ霞む目をこすろうとするが、腕が何かに引っ張られる。手首に
何かが食い込む。痛みが意識の混濁を何処かへ追いやる。
腰のあたりで蠢くものがある。人影。カチャカチャと音を立てているのは、ベルトの
金具だ。何が起こっているのか、わからない。両の腕と同じくだらしなく開いていた
足を動かそうにも、何かに繋がれている。両手両足を拘束されている!!
「・・・ぁ・・・ぅ・・・ぃゃ・・・ぅぁぁっ!」
或るのはただ、恐怖。声が出ない。叫びもかすれて音にならない。戒めから逃れよう
と体を揺すり、何が起こっているのか、どうしてこうなっているのか、震えながらも
必死に考える。すると、人影がすっと離れ、傍らに降り立つ。高さからすると、自分
はベッドの上に居るらしい。固めのベッドに、薬の入った戸棚・・・夜の保健室!?
「お目覚めのようですわね、斯波さん。」
透き通った、聞き覚えのある声。月明かりがその人影・・・少女の顔を明らかにする。
それは、いつも見ていた顔・・・睦木に常に付き従っていた、美和という少女のもの。
「み・・・美和、さん?」
あくまで可憐に、悪戯っぽい微笑みを返す美和。たびたび睦木に絡んでは放置をされて
いた斯波の日常では暖かな癒しとなっていたこの微笑みだが、絶対的な恐怖に掻き混ぜ
られ混乱した斯波の意識にとって、それは冷徹な刃となって襲いかかる凶器でしかない。
「大声を出しても、無駄。うちの保健室は、完全防音なんだから。」
その微笑みの斜め下、美和の右手にある細い輝きを見て、斯波の顔から急速に血の気が
引いていった。そこにあったのは、そっと自分に向けられた、鋭く輝くメス・・・。