<5> 夜の御菓子
「女の子は、御菓子で出来ているのよ。」
思索にふけっていた睦木は、ふと幼き日々の美和の言葉を思い出す。
あれは、私が買ってきた美和の分のケーキを彩華姉が食べてしまった時の事だったか。
美和は食べ物の事で泣くような子では無かったのだが、その時は珍しく私の方を向き
涙を見せた。そして必死に慰めていた時、「じっとしてて・・・」と言うと、私の頬に、
首筋に、しっとりとした小さな舌を這わせてきたのだ。くすぐりが苦手な私も、その
時だけはじっと耐えていた。それがうなじに至った時、そのふわふわとした不思議な
感覚が怖くなって、今度は私の方が泣き出して・・・。
「御菓子、か・・・。」
睦木は、おそるおそる舌を自分の腕に近づける。勇気を振り絞り、舌先でちろちろと
舐めてみる。濡れた粘膜から脳に伝わる感覚に、甘さは無い。あるのは、ただ僅かな
塩辛さのみ。ただ、冷房の止められた室内で、じっとりと染み出していたものの味。
だが、今はそれが心地よかった。
「好きな匂い・・・朝の匂い・・・これが、私の味・・・。」
そのまま腕に唇を添えたところで、窓の外の睦木と目が合った。夕闇の中に、溶けて
しまいそうな姿。睦木は我に返って、ゆっくりと唇を離す。自分がとろけて、消えて
しまいそうだから。
睦木は、美和を待っていた。
そして、少しだけ飢えていた。