<6> ・・・逝っちゃうよボク・・・


非現実的な蒼い空間にあって、可憐な笑みの傍らに迫るのは、細い銀色のリアルな死。
斯波は動揺を抑え、睦木と出会うまでは秀才だった錆びかけの脳をフル回転させる。
癒しの微笑みが死の微笑みに変わるきっかけ、昨日と今日の違い、美和の行動の理由、
美和と斯波の接点・・・睦木。死を感じ半ば本能的に走馬燈のように巡る記憶の流れを
必死に食い止め、睦木と美和に絞り込む。まず考える時間、とにかく時間を稼がねば
ならない。

「睦木さんの事・・・なら・・・心配は要りませんよ。」

斯波は、出任せに睦木の名を出してから、気付いた。痛恨の極みだ。昨日との違い、
それは睦木の秘密を知った事以外に無い。自分だけの秘密だと仕舞い込んでいい気に
なっていたが、美和は自分の何倍も睦木と一緒に居る。これでは自分が秘密を知って
いると明かしたようなもの。思考終了。人生終了。短くも、それなりに恵まれてない
人生を歩んできた斯波だ、本気で人を刺す気で居る人間の目くらい、判別できている。
理由など関係ないのだ。友人の妹が文房具持ってウギギとなったらお終いなのと同じ。
メス持って微笑んでる今の美和は、性質は全く違うが、くすくす笑いながら躊躇なく
殺れる目をしている事だけは間違いない。斯波は綺麗な瞳に一瞬怯えの色を浮かべ、
すぐにぐっと目を閉じる。

「・・・逝っちゃうよボク・・・。」心で泣いた。しかし、「睦木たんをむにむにする前に
逝くなんて・・・。」とか愚痴らなかった。余計痛くされるの嫌だから。






しかし、美和は手を止め、興味深げに斯波の顔を覗き込む。賢明に目を瞑りながらも
僅かに震えるその姿を見て、一晩で壊してしまうのが惜しくなった。さらに、惹かれ
あい義姉妹の関係となった睦木に対するものとは別の、不思議な感覚さえ感じ始めて
いた。

「斯波君、心配は要らないって、どういう事?」

無意識に、呼び方さえ変わっていた。今の斯波は、同級生では無く、美和の掌の中の
可愛い天使でしかない。斯波の細い首筋を、メスの背で優しく撫でながら問いかける。






斯波は、一度死んだ。恐怖に限界がある事を知った。完全に振り切った。ゆっくりと
瞳を開くと、そこには知的な輝きが戻っていた。

・・・クソゲーハンターたるもの、如何に不条理なバッドエンドも恐れてはいけない・・・。

考えている事は、あまり知的では無かった。








 

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