<9> 水もしたたるイイ何か

ザバーーーッ。

「ひゃぁっ! ひっ・・・寒いよ・・・痛いよ・・・美和たん・・・。」

斯波が意識を取り戻すまで、バケツ3杯を要した。

「そんなグロテスクなものぶら下げて、可愛い声出さないでよ。気持ち悪い。」

美和は水道水より冷たかった。縛られたままの斯波が痛みの元を見ようと首を持ち上げ、
腫れ上がって巨大ガスタンクと化した元・黒テントに気付く。体の節々も痛い。

「あーっ、酷い事になってるーっ。もうお婿に行けないよう。」

「どうせまた、やましい事を考えてんでしょ。不潔よ!」

美和は聞く耳持たない。

「考えてないから! ボクたん今ひとカケラも美和たんに萌えてないから!! 恐怖と
 激痛に怯える哀れな子犬に過ぎないから!!! 腫れまくってるけど!!!!」

おまけに、いつのまにやらベッドの上に転がっている無数の空アンプルにも怯えている。
もはや、斯波には問いただす気力も起きない。

「汚らしいし、役に立たないなら今すぐ切って捨てれば?」

なげやりに言い捨てて、美和は鞄の中で、何やらアンプルを選んでいる。

「そんな、見もしないで汚らしいって酷い・・・。」

そういえば、体のあちこちに貼ってある消毒ガーゼがすーすーする。斯波は、ますます
考えたくない何かが進んでいる事を実感した。

「わかったわ。」

何やら選び出したアンプルを注射器に充填し、美和が向き直る。

「さあ、これで最後。でも、見て汚かったら、この場でちょん切るわ。」

既にベルトの外されたズボンを、グロテスクな物の全容が見えない程度にずらす美和。
斯波は、美和が汚物を扱うように二本指でちょいとつまみあげる格好なのに少々不満を
覚えるが、そういう事に構っていられる事態ではない。

「それボクたん確実に死ぬから! コロッと逝くから!! ドプッと赤いの出るし!!」

「なら、死なない方ならいいのね。」

躊躇無く、メスの替わりに根元付近に注射器を突き立てる美和。

「あぁっ!! はぁぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

アンプルの中身が注がれると、斯波は情けない声をあげ、不思議な脱力感とともに気を
失う。遠のく意識の中で、美和の声にエコーがかかり、全てが薄れていく。

「たぶん連休中に邪魔なものは腐り落ちて、可愛くなれるからねっ。」

・・・何が腐り落ちるんだろう・・・きっと、この悪夢のような、記憶だよね・・・。








 

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