<10> それぞれの帰路

「で、お姉様は何が気に入らないの?」

不機嫌な睦木。上機嫌な美和。それで、ますます不機嫌になる睦木だった。

「斯波を保健室に連れていったんだろう?」

口を尖らせて早足で歩く睦木。美和は小走りに付いていく。蒼い影も、ぶつかったり
離れたりと忙しい。

「そして、私は空腹に耐え、月明かりを浴びて帰路を急いでいる。」

「ふーーーーーん。」

こういう時、美和は話を聞いて、微笑むだけでいい。

「美和・・・何が言いたい?」

「お姉様、もしかして・・・。」

ただ、笑顔で問いかければいい。

「わ、私は独りで帰れたぞ! 美和を待っていたんだ。」

振り返った睦木の首筋に、美和が抱きつく。

・・・やっぱり独りで帰れなかったのね・・・。

「・・・ありがとっ、お姉様っ!」

それから首筋あたりを舐めておけば、面倒はお話はお終い・・・というのは、幼少期の
頃までの話。今の睦木に、家の中ならともかく外でそんな事をしたら、説教タイムに
ペーパーテストなど、多彩な返し技を受けることになってしまう。それでも、今日の
ところはこれでも充分のはずなのだが・・・。

「声が大きいぞ・・・それに・・・美和はずるい。」

睦木には、義妹のぬくもりを引き剥がしてまで、話題を変えるような事などできない。
二人とも、わかっていることだ。

「しかし、さすがにあれだけ時間がかかるというのは・・・。」

さすがに昼食焼きそばパン一個の睦木に4時間待ちは厳しかったのか、微妙な存在に
なりつつあった斯波との4時間が効いたのか・・・。

美和は、今日ばかりは、どちらでもいいから適当に誤魔化しておく事にする。どうせ
家に帰れば御飯を食べるし、連休が空ければ、斯波の問題もなくなるのだから。

「はいはい、埋め合わせはするから。連休だし、今夜はお姉様の家に泊まって一晩中
 可愛がってあげる。」

途端に耳まで真っ赤になる睦木。

「美和!! 聞かれたら誤解されるような事を言うな! あれは、その・・・何だ・・・。」

「美和ちゃんオリジナル美容マッサージ、あるいはエステ。」

「そう、美容のためにやっているのだろう? だから、恥ずかしいのに我慢して・・・。」

睦木の声が小さくなる。逃げるように足を早める。

「ふぅん、お姉様が嫌だったら、やらなくてもいいんだけど?」

小走りで睦木の前に回り、意地悪な表情で言う美和。返事など、わかっているのに。
睦木は目を背け、俯く。

「美和は・・・意地悪だ・・・。」

連休の前日、いつも通り睦木の部屋には、既に布団が二つ並べて敷いてあった。







斯波は、走っていた。


胸が痛い。全身に力が入らない。嫌な予感がする。
背はもともと低い。股間は感覚が無い。ますます嫌な予感がする。
こんな時に、小さい頃に痴漢に遭った事を思い出す。ひたすら嫌な予感がする。


斯波は、道を間違えたまま、走っていた。






 

シリーズ目次へ / 前へ / 次へ