<1> 一つの終わり
「なあ、美和よ・・・。」
平日の午後に似合う、気怠い声で言うのは、睦月だ。
「なあに? お姉様」
振り向いた美和は、キャミソール一枚の姿で紅茶にミルクを注いでいるところ。
いつの間にやら、テーブルの上にはティーセットとケーキが用意されている。
その美和から視線をそらし、やや赤面する睦月。
「私達も、春休みが終われば中学生になる。」
俯き気味で、ゆっくりとブラウスのボタンをとめていく。
「で、中学生にもなって、『お医者さんごっこ』も無いと思うのだが。」
睦月は弱まる語気で言い切って、おそるおそる美和の顔を見る。美和の悲しい顔、
寂しそうな顔が、睦月の一番の苦手だ。
しかし、予想に反して、美和は微笑みを返してくる。
「お姉様、紅茶が冷めるから、下は後にして。」
「あ、ああ・・・。」
睦月は、話をはぐらかされまいと、ブラウスにパンティという格好のまま躊躇無く
テーブルに付く。以前に美和の姉にその姿を見られ七十五日間冷やかされ続けたこと
など忘却の彼方だ。
「こ、こういうのはだな、今日で最後にしようというのだ!」
普段は相手の目を見て、なかば威圧しながら話をする睦月だが、今は何の罪もない
シフォンケーキを睨み付けて言い放つから弱々しい。そのままゆっくり視線を上げ、
キャミソールに透ける美和の両のふくらみを経て、ようやく美和の表情を確認する。
「ごめんね、今日はショートケーキが品切れだったから・・・。」
「そういう話ではないっ!!」
シフォンケーキを見据えて言う睦月が悪い・・・というわけでも無い。美和は睦月の
皿に生クリームを多めに添えると、事もなく言う。
「んー、中学生になったら『お医者さんごっこ』はお終いね。いいわ。」
すましたままミルクたっぷりの紅茶をひとすすり。これには、むしろ睦月の方が
ショックを受けた。
・・・もう少し寂しがってくれても・・・いや、そんな事ではないっ!・・・
混乱して、カップを手に固まったままの睦月。それを楽しく観察する美和。扉の
陰から楽しく覗き見る美和の姉の彩華。いつも通りの風景は、睦月にとって二人の
『お医者さんごっこ』最後の日として物足りないものに違いない。
「だって、中学は制服だから、お姉様のスカート姿が毎日見られるんですもの。」
美和は、ますます痛いところを突いたつもりだった。しかし、これが睦月を復活
させることになる。
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