<2> 綾麻呂
スカートと聞いて不敵な笑みを浮かべる睦月。美和の期待した反応は、そこには
無かった。
「ふふふ・・・スカートは、履かないぞ。」
睦月はテーブルの端にあったメモ帳とペンを取り、さらさらと自分の名を書き、
少し余分に書き加えた。怪訝そうにメモ帳を覗き込む美和。
「睦月・・・綾麻呂?」
「これが、中学での私の名だ。」
睦月は得意げに、育ち盛りの胸を張る。日々、十のうち八、九は美和のペースに
引っ張られている中で、こういう時が一番嬉しいのだ。
「そうだ、私は、男になる。健全な男子中学生となって、中学という腐海にたむろ
する『やんきい』どもに鉄槌を下すのだ!」
いつのまにやら拳を握りしめ、立ち上がっていた睦月。呆気に取られ口も閉まら
ない美和を置き去りに、さらに続ける。
「この名前だけでなく、詰め襟の学生服までも彩華師姉が用意してくれた。腐海に
旅立つ私には、これ以上無い・・・。」
ダダダダダダッ! バタム!! タタタタタ・・・。
睦月の言葉の途中で、けたたましい足音が廊下に響く。勢い良くドアが閉まり、
全速で駆けていく音だ。美和は、その音で現実に引き戻される。
(・・・逃げられた・・・せっかくの姉様のスカート姿を・・・!!)
美和は、ナイフとフォークを手にとって彩華を追いたくなる衝動を必死に抑え、
平静を装う。
「噂をすれば、師姉か。おやつでも切れたのだろうか、あんなに急いで。」
覗かれていた事も、彩華がダッシュで逃げた理由も知らずに、睦月は上機嫌で
椅子にかける。
「おやつなら、ここにあるのにな。」
そして、いつもの二人のティータイム。美和が無口だった他は、いつも通りの
日常がそこにあった。