Irregular
−時は2025年−
どんどん技術が発達していく世界。
科学、物理学、生物学、工学、そして遺伝子学。
それと同時にさまざまな手口の犯罪も増えてきた。
日本警察は、ある科学者が独自に研究を進めていた、奇妙な遺伝子に目をつけた。
その不規則な配列は、中世ヨーロッパに存在し、全滅したと伝えられている『非人間』、魔術を駆使する『魔女』の遺伝子だったのだ。
警察はその魔女を使って凶悪な犯罪をとりしまるという計画を実行した。
この物語はその『ウィッチプロジェクト』に参加した、現代に生きる魔女たちの物語である。
暗闇につつまれた新東京第三地区。
古びた倉庫と冷たいビルが立ち並ぶ地区。
その中のビルの屋上に、警察官らしき女が一人立っている。
小型のトランシーバーとマイクをしている。
何かの特殊作戦なのか・・・
それにしては装備が少ない。
単独で行動しているのも気にかかる。
女はあるものを見つけた。
ニット帽をかぶった長い髪の女だ。
「ターゲット確認。指示を、オーバー」
トランシーバーから声が聞こえてくる。
「了解。」
ニット帽の女は必死に走る。
「シル!たった今射殺命令が出た!」
シルとよばれたその女は、持っていたハンドガンの銃口を、ニット帽の女に向けた。
ここらはとても離れている。
普通なら届くはずが無い。
「・・・かまわん・・・殺れ。」
「ヤー」
女はトリガーを引いた。
暗闇に、乾いた銃声が響いた。
撃ち込まれた銃弾は、ニット帽の女の頭を貫いていた。
―新東京都警察庁―
広い部屋に大勢の新米警官が並んでいる。
「・・・よってわれわれは国民の安全を守らねばならない!!」
熱っぽく教卓の上で話しているのは眼鏡に白髪まじりの髪をした男性警官だ。
長く話しているらしく、聞いている新米警官たちは夢うつつだった。
その中でしっかり耳を傾けている女性新米警官が一人。
目もしっかり開いている。
そして新任警察官入庁式は終わった。
それぞれの課へ移動しようとしている新米警官の中を、警官らしき髪の長い、スーツを着た女がなにかを探している。
「西沢さん!西沢双葉さん!!」
「はい!」
先ほど話しをしっかり聞いていた女が答えた。
双葉に走りよる女警官。
「やっと見つけた!
あなたが西沢双葉さんね。
私は流東清子、あなたの上司。
司令官よ。
あなたの所属する部署はこっちよ。」
流東は双葉を案内する。
しかし双葉のほかに、流東についていくものはいない。
「他に新しく入る人はいないんですか?」
双葉は不安になった。
自分だけ成績が悪く、さびれて今にも潰れそうな部署に入れられてしまうのではないだろうか?
それとも、働くことなく、そのままクビになってしまうのではないだろうか?
さまざまなことが頭をよぎった。
流東はにっこり笑って言う。
「心配しないで。
この部署は素質がないと入れないの。」
「え?」
双葉は首をひねった。
「今年の新任警官の中で、素質があったのはあなただけだったの。」
驚いた。
自分はそんなに優れた人間ではない。
「何かの間違いですよね?」
双葉にはそうとしか思えなかった。
「間違いじゃないわ。
遺伝情報は嘘をつかないもの。」
「遺伝情報?」
双葉はもっと驚いた。
自分は遺伝子という螺旋状のミクロの物体によって選ばれたと言うのだ。
遺伝子で人を区別する部署とは、いったいどんな所なのだろうか?
双葉はいろいろなことを考えながら、流東についていった。
やがてたどり着いたのは、地下にある薄暗い資料室だった。
ドアをくぐり、奥へ奥へ進んでいく。
いったい何処に行くつもりなのだろうか?
「あの〜、流東司令官。」
さすがに不安になってきたのか、おそるおそる聞いてみる双葉。
「なに?」
「何処まで行くんですか?
こんなところに部署があるんですか?」
にっこり微笑む流東。
「それがあるのよ、この奥に。
心配しないで。」
そう言うと、流東はどんどん奥に進んで行った。
そして一番奥の棚の前で立ち止まった。
そこには不気味なほどきれいに整頓された赤いファイルたちが並んでいた。
流東はその中の一冊を手に取り、一ページ目を開いた。
ファイルのラベルは『Irregular』と記されていた。
「パスワード入力。
ウィッチプロジェクト。」
流東が本に向かってそう言うと、本から電子音声が聞こえてきた。
「パスワード照合。
グリーン。
入署許可。」
本棚が右にずれた。
そこにはエレベーターが口をあけていた。
「え!?」
こんな地下の資料室にエレベーターがあったのだ。
流東は涼しい顔をしてエレベーターに乗った。
双葉は驚きを隠せなかった。
口をあんぐりと開けたままその場に立ちすくんでいた。
「何してるの?早く乗って」
流東は笑顔で双葉をエレベーターに招き入れた。
「あ、はい!」
何がなんだかさっぱり理解できなかったが、とりあえず流東の言うとおりにすることにした。
双葉が乗りこむと流東はエレベーターのボタンを操作した。
目の前のドアがしまり、ガラス越しに先ほどの棚が自動で元に戻る姿が見えた。
ここはいったいどうなっているのだろうか?
まるで隠し部屋があるかのようにエレベーターが隠れている。
「着いたわ」
そう流東が言うと、エレベーターのドアが開いた。
まず最初に目に飛び込んできたのはエメラルドグリーンの廊下。
奇麗にに掃除され、ほこり一つ見当たらない。
唖然と突っ立っている双葉を横目に流東は歩き出した。
「あ!」
双葉は小走りで流東に追いついた。
まるで都会にはじめて来た田舎者のようにきょろきょろ見まわす双葉。
廊下の所々にあるドアはすべてにIDカードの差込み口がある。
何かの研究所を思わせる白い壁が続いている。
流東があるドアの前で足を止めた。
胸のネームプレートからIDカードを取りだし、そのドアのIDカード差込み口にすべり込ませた。
ピーという電子音とグリーンランプと共にドアが開いた。
ドアの向こうは広い会議室になっていた。
「遅い!!」
一番奥のデスクの机に座っていたのは女だった。
「ごめんシル。探すのに手間取っちゃったのよ〜」
シルと呼ばれた女は静かに立ち上がった。
「双葉ちゃん、この人があなたのパートナー兼上司のシルヴァーナ・フラウディアよ」
流東がそう言うと、双葉は慌てて頭を下げた。
「初めまして!私、西沢双葉ですっ!!どうぞよろしくお願いします!!」
シルはしばらく黙っていたが、双葉の不安そうな顔を見て口を開いた。
「・・・シルヴァーナ・フラウディアだ。双葉とやら、お前の能力タイプは何だ?」
「能力・・・タイプ・・・?」
聞きなれない言葉だ。
何の能力なのだろうか。
双葉が首をかしげていると、シルが驚いた顔をしていた。
「お前!・・・まさかそんなことも知らずにここへ来たのか!?」
「はあ。そうですけど・・・」
双葉がそう答えると、シルは流東の方へ顔を向けた。
「これはどういうことだ!?」
「ま、まあシル、落ち着いて。」
「落ち着いていられるかっ!!この娘、自分の中に流れる魔女の血を知らんのだぞ!?」
今彼女は何と言ったか。
信じられないことを言ったのだ。
「え!?どういうことですか!?私の中に魔女の血が流れてるって・・・。
冗談ですよね?」
問い掛ける双葉に、真剣な面持ちで流東とシルが答える。
「つまり、お前の中にはヨーロッパでかつて生きていた夜の住人、魔女の血が流れている。」
「そして双葉ちゃん、あなたも魔女なのよ」
「えーっ!?」
双葉の声が部屋に轟く。
「うるさい!!」
さらにシルの怒りの声が加わる。
流東は混乱する双葉を見て、ゆっくりとした口調でしゃべり出す。
「双葉ちゃん?落ち着いて聞いてね。
あなたの先祖には魔女と呼ばれる人たちがいたの。
彼女たちはもともとヨーロッパに住んでいたのだけれど、魔女狩りがはじまってしまったからから、アジアの方に移り住んだの。
もちろん、魔女だということを隠して。」
シルは近くにあった長机の上に座ると、口を開いた。
「このごろ日本は凶悪な犯罪が多い。
そこで日本警察はある噂を耳にする。
『まだこの世に不思議な力を持つ魔女が存在している』と。
彼らは凶悪犯罪を魔女の力で解決しようと考えた。
そしてその案を『ウィッチプロジェクト』として実行したのだ。」
双葉はまだ状況が飲み込めていないらしく、きょとんとしていた。
シルはそれを見て、大きくため息をついた。
「つまり、お前は魔女の血をひいているから、このプロジェクトに参加することになったってことだ!」
「は、はあ・・・」
流東は双葉にやさしく言う。
「まだよくわからなくてもいいのよ、少しづつ理解していけば。
わからないことがあったらシルに聞いてね。
シルは本物の魔女だから。」
「え?本物?」
流東はにっこり微笑む。
「ええ、シルは魔女狩りを逃れて日本にやってきた本物の魔女よ。」
「えーーっ!?」
「うるさい!!」
再び双葉とシルの声が部屋中に響いた。
つづく