雲一つない夜空だった。
   空気は透き通るようだった。
   月は西の空で小さく輝いていた。
   その月の周りを、包み込むように、数え切れない星たちが輝いていた。
   その輝きは真っ暗な地上を照らしてくれそうにまぶしかった。

   その満天の星の下に、一つの大きな森があった。
   煌びやかな上空とはうってかわって、
   地上は生い茂る木の葉によってどこかどんよりとした空気が漂っていた。

   そんななか。

   真っ暗な森の中から、一筋の灰色の煙が立ち上っていた。
   その筋は、風が無いため、力無く、ただただ上へ昇っていた。
   ゆっくりと。ゆったりと。時たま、ゆれながら。


   「寒くない?」
   木々の間から、声がした。
   「・・・・・・」
   「そう。・・・お腹は? すいてない?」
   「・・・・・・」
   さっきから、一方の問いかけに返事は無い。
   けれど、聞かれた方はうなずいているのか、
   どうやら会話は成り立っているらしい。

   パチパチと、たき火から音がする。
   2つの人影が、その火を挟んで面と向かって座っていた。
   2人とも、まだ子供のようだった。
   夜の森に、たき火の炎と2人の顔が、やけに明るい。
   炎が揺れると、2人の表情も歪んで見える。

   「ねえサクラ? これから私たち、どうしようか?
   私は特に決まった行き先はないし、あなたのことならなおさら・・・。
   ・・・あなたさえ良ければ、明日、レトーの街へ行こうと思うの。
   ここから北西へ数キロ歩いた所にある小さな街よ。
   朝に出発すれば、お昼前くらいには着くわ。
   そこは、水産業が盛んで、歴史の長い街なの。
   港も大きくて、他の地域から沢山の行商人や旅人がやって来るわ。
   もしかしたら、あなたのことを知っている人に会えるかもしれないし・・・。
   ・・・どう?」

   しばらくして、サクラと呼ばれた方は、
   やはりこの質問にもただコクンとうなずくだけだった。
   炎に照らされて出来た影が頭の後ろで大きく動いた。

   そっか、それじゃ今日はもう寝よっか、と言って、
   最初に話した方がごそごそとショルダーバッグから一枚の大きな布を取りだした。
   どうやら布団のかわりらしい。
   それをたき火の横でバッと広げて、そしてちょいちょい、とサクラに手招きすると、
   サクラは最初は少し恥ずかしがり、
   でも、すぐに布を広げている方の側に寄って、布の下に潜り込んだ。
   布を出した方は、にこっと笑って、横になり、そして肩を寄り添って、おやすみ、と言い、
   すぐに寝息をたてて寝てしまった。
   サクラも、くっついてる肩に緊張しながらも、耳元から聞こえてくる寝息に誘われるように
   自分もいつの間にか目を閉じて同じように眠っていた。
   2人の寝息はとても静かだった。

   たき火の炎は、燃やしていた木をほとんど炭に変えていて、
   先ほどよりも炎の大きさは確実に小さくなっていた。

   2人分の小さな寝息は、広い森に吸い込まれていった。
   かわりに小さくなった炎が、時々パチ、パチ、という音を出していた。

   静かな、静かな夜だった。


           020311 猫崎晴美