2002/07/28
命
お父さんは文鳥を飼っている。
大切に大切に、毎朝、餌やりや水替えをしている。
卵を産んで、今は30羽くらいまでに増えた。
今日はお父さんと文鳥の話。
まだ朝早い時。
早いと言っても、もう6時を回った。
普段の私ならとっくに起きているころだ。
段々と夢から現実へ移行しつつあるとき、
お父さんの声が頭に響いた。
「あぁっ!! ・・・おい、ちょっと。」
最初は驚きの声。次はお母さんに呼びかける声。
バックには文鳥のせわしなく羽ばたく音が聞こえたから、
文鳥に何かあったんだと私は悟った。
・・・もしかして、何羽か脱走したとか?
なんとなく想像してみる。
脱走かぁ、戻ってきてくれると良いんだけれど、可能性は低いなぁ。
でも、文鳥は可愛いけれど、世話はしていない私。
特に何があっても興味はわかない。
私はそのまま布団の中で眠りの続きに浸った。
だいたい1時間後。
私はやっと起きる決心がついた。
携帯画面を見て、現在時刻を確認。
今日の予定を思い出しながら、体を起こした時、
おばあちゃんがやって来た。
「鳥小屋にねぇ、大きな蛇が出てねぇ、5羽も飲み込んだと。
お父さんが蛇を捕まえて、竹で−−、燃やしおった。」
蛇。 固まってしまった。
しばらく、頭の中に蛇の映像がついて離れなかった。
蛇と言えば、数年前、可愛いうちのハムスターを飲み込んだんだっけ。
・・・今度は鳥か。
おばあちゃんが、竹でどーの、というところはよく聞こえなかった。
でも、竹で挟んで炎の中に放り込んだとか、
そういう使い方をしたんだろーな、となんとなく思った。
お父さん、蛇を焼き殺すなんて、呪われたりしないだろうか、とも思った。
今日は朝から演劇の大会がある。
お母さんにお願いして、車で会場へ連れていってもらうことになった。
お母さんの準備が終わるまで、私は外で待っていた。
その時、今日初めてお父さんの姿を見た。
お父さんは燃えた草山(庭にあるんですよ。)の所から、
何か長い物を持ってきた。
それが竹だとすぐに分かった。
竹には・・・釣り竿のように、でも、糸の代わりに、針金が縛ってあった。
私は、今朝、おばあさんが言おうとしていた事をやっと理解した。
そして、お父さんを見た。
お父さんは、いつものお父さんだ。
でも、どうしてだろう。
私には、お父さんに牙が生えているようにしか見えなかったのだ。
白いシャツを着ているけれど、
それは私には黒いマントのように見えた。
小鳥は蛇に食べ殺された。
蛇はお父さんに焼き殺され・・いや、火あぶりにされたのだ。
小鳥は、蛇の目が我が身を捉えた時、
一体どういう気持ちで見つめ返したのだろう。
蛇は、お父さんに体に針金を巻かれた時、
一体どういう気持ちでいたのだろう。
お父さんは、
一体どういう気持ちで炎の中の蛇を見たのだろう。
お父さんの、小鳥に対する愛情と、蛇に対する憎しみの強さを知った。
そして、世の中の命というあやふやなものを
はっきりとした輪郭でとらえたような気がした。
小鳥は蛇に命を消された。
お父さんは蛇の命を葬り去った。
命って、触ったら溶けてしまう氷のかけらみたいだ。
他人に触れられれば、簡単にこの世から消えてしまう。
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