やっぱりその日も初めは、いつも通りだった。

 見た夢なんて目覚めたときにはほとんど覚えてないのもいつも通りなら、名雪の目覚めの悪さのせいで朝が修羅場なのもいつも通りだった。早朝の登校という名のマラソン、チャイムを聞きながらの滑り込み、朝の挨拶、ホームルーム。授業がつまらないのもいつも通りで、教室には活気が無くて、クラス替えでまた一緒になった香里が真面目に先生の話を聞いていてクラス替えでまた一緒になった名雪は睡魔を相手に今にも沈みそうだったのもいつも通りだ。
 だからまあ、
「今日から俺達、囲碁部に入るぜ」
 休み時間にクラス替えでまた一緒になった北川がクラス替えでまた一緒になった斉藤のヤツを掴まえてこんなことを言い放ったのも、いつも通りといえばいつも通りだった。なにしろ北川はバカだ。すぐに意味不明で突拍子のないことを言い出す、バカだ。
「俺『達』って誰だよ」
「もちろん、俺とお前」

 こうして祐一は、北川と共に部員数一名の華音高校囲碁部に入部することになったのだった。
 ヒマ潰しに。

 まあいつも通りの、くだらない日常だ。
 そして祐一は、あの冬、あの、色々なことがありすぎた冬を乗り越えて。名雪と、あゆと、栞と、真琴と、舞と。そんな、皆に囲まれて過ごすこの何気ない日常こそが素晴らしいのだなどとやっと本気で思えるようになってきたのだ。
 それなのに、そいつはそんな時に限って突然目の前に現れた。
 そしてさらりと、トンデモナイ事を言うのだ。

 いつも通りの日常は、次の日の朝。目覚めた瞬間に、終わりを告げた。




 ──夢。
 夢を見ていた。

 不思議な夢。


 ──いい?

 ──私はこれから、あなたに

 ──とても、辛いことをいうから。

 ──聴いて。

 ──しっかりと、聴いて。

 ──……ううん、あなたは聴かなきゃいけない。

 ──辛くても、耳を閉じないで。現実から目をそらさないで。

 ──それは、辛い、とても辛いことだけど。

 ──でも。

 ──とても、大切なことだから……


 それは、不思議な夢。
 もしくは、予知夢とも呼べるものかもしれない。

 いや、むしろ、悪夢。

 いつもの俺なら、そんな悪夢なんてものはすぐに忘れ去ってしまうんだ。

 でも。
 俺は、それをしなかった。

 できなかった。 


 なぜなら。






   華音町バッドラビッツ

   prologue 『平穏な日常を壊しちゃったりする夢』






 ──あなたの命、あと、半年なの。


 目が覚めたときには、俺の隣に寄り添うようにして、それはそこに「在った」から。







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