恐怖のメール
ある日。
ジャーンジャーンジャーン
「ん、メールか」
携帯を手にとる。あゆからのメールだった。
あゆは少し前から名雪と一緒に商店街へ買い物に出かけている。
『今、名雪さんと鯛焼き食べてるんだ。おいしいよ〜』
「……って、それだけかよ」
なにもこんなことをいちいち報告しなくても、とも思うが、こんな何気ないメールのやりとりも意外に楽しいものだ。
俺は早速あゆに返信メールを送った。
『お前、そんなに鯛焼きばっか食ってたら太るぞ?』
送信して間もなく、あゆからの返事が来た。うぬ、あやつの親指のスピードも大したものよ。
『うぐぅ〜、祐一君いじわるだよ〜。ボク太ってないもん』
俺達はメールでもこんな感じだ。
俺はメールでも相変わらず意地の悪いことしか言えないし、あゆはメールでもすぐ拗ねる。
このメールだって、あゆが頬を膨らませて拗ねる顔が思わず目に浮かぶような文章だ。
あゆらしいメールとでも言おうか。
そう、本当に、あゆらしい……
……ちょっと待った。
俺は、今一度、携帯の液晶に映し出されたあゆのメールを読み返した。
『うぐぅ〜、祐一君いじわるだよ〜。ボク太ってないもん』
うぐぅ?
俺は目を疑った。ちょっと待ってくれ。冷静に考えよう。
このメール、あゆらしすぎやしないか?
普通、口癖をメールに打つか?
ジャーンジャーンジャーン
また、あゆからのメールだ。俺はおそるおそるそのメールを読んだ。
『うぐぅ、祐一君返事してよ〜』
言ってるよ。
あゆ、うぐぅって言ってるよ! いや打ってるよ。うぐぅってメール打ってるよ!
なんだこれは一体!? マジなのか? あいつはいたって真面目にこんなマネをしでかしているのか?
ハッ! もしや……もしや、これはネタか?
俺から、
『お前、何メールに口癖打っとんねんっ!!』
という鮮やかなツッコミメールが届くのを心待ちにしているのか!?
ヤバイ。俺、今相当混乱してる。
わからない。あゆが今一体何を考えてるのかがわからない!わからないぞっ!?
ジャーンジャーンジャーン
「ぎぇぁっ!?」
俺は思わず座っていた椅子から飛び退いた。
どうやらまたヤツからメールが届いたらしい。机の上では携帯の液晶画面が怪しく光っている。
どうする……見るか? でも、もしまた「うぐぅ」と書いてあったら、俺はどう返信すればいいんだ?
そもそも、携帯電話を初めに買ったのは名雪だった。それにつられてあゆも買ったのだが、あゆと名雪がメールのやりとりをしているのを何度も見ているうちに俺は思ったんだ。
──俺も携帯を買って、メールをしよう。会話じゃ言えないこともメールでなら言えるかも知れない。あゆとも、今以上にわかりあえるかも知れない。もっと、あゆのことを知りたい。
それが今じゃどうだ。俺はあゆの知ってはいけない一面を垣間見てしまっている気がする。人間、知らないほうが良い事もあるという言葉が今は痛いほど身に染みる。
しかし。
俺は心の中で渇を入れると、机の上の携帯を手に取った。
あゆは、俺の恋人じゃないか。
恐れてどうする。この程度の事、乗り越えてこそ真実の愛というものが育まれるのでわないだらうか!たとえこのメールにどんなことが書いてあろうとも、俺はあゆを信じる!
ついに俺は意を決して、携帯の画面を覗き込んだのだった!
『うげぅ〜』
打ち間違ってるよ。
(終わってくれ)
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