『とある屋上の二組』
「あのさあ」
10月、秋。学校。
「なに?」
「もうあえて言うよ、つーか我慢できねぇし」
「だから、なに」
「うん」
照りつける日差しは穏やか。時折優しい風が吹き抜けていく、屋上。
「俺等もああいうことしよう」
「嫌」
即答。
がっくりとうなだれる男子生徒。そのおかげで女子生徒は、今まで彼の頭で隠れて見えなかったとある二人組の姿をはっきりと捕らえることができた。
このだだっぴろい屋上の上でこれでもかというくらいに寄り添ってみたりして。周りを顧みずに大声を出し合ってみたりして。
アホみたいにいちゃついているカップルが、いた。
そのあまりに甘ったるくて見ていられない光景に、女子は携帯の画面に視線を戻す。
「祐一〜」
「名雪〜」
「はい、あーん」
「あーん」
ぱく。
「きゃー!きゃー!どう、祐一おいしい?」
「ああ、すごいおいしい。でも……」
彼女の唇に口づけをして。そこには、米粒が一つ。
「こっちのほうがおいしいかな」
「……そんな、祐一ったら」
「うぜえ!あいつらマジうぜーよ!どうにかしてくれよ!」
「まあ、落ち着いて」女子生徒がなだめる。
思わず立ち上がって拳を振り上げていた男子生徒は、行き場を無くしたように視線をうろつかせたあと、結局元の位置に座り直した。
女子のいじっていた携帯を閉じさせる。
「なにすんのー」
「ほら、食え」
男子は買ってきたサンドイッチを女子の膝に乗せた。
「いらない」
「なんで」
「だって、ダイエット中だし」
「先に言えよ!金払っちまっただろ!」
「いいよ、出す」
女子がポケットをまさぐる。
「あーいい」止める男子。「おごるわ」
「だから、食べないってば」女子。
「あとで食えばいいじゃん」男子。
「あとでって言ってもね……」女子。再び携帯を開く。
「祐一〜」腕にしがみついて。
「ん?」
「あったかいよ」
「そうか」
「うん」
「……」
「……」
「……わっ」
抱きしめられる。
「祐一〜」
「ん?」
「もっとあったかいよ〜」
「寒い」
サンドイッチをヤケになったようにむさぼり食う男子。
吹き付ける風がいつにもまして冷たく感じられるのは、気のせいだろうか。
この街にも冬が近付いてきている。
「あー寒」
「うるさいなー」と女子。携帯の上を親指がせわしなく動き回ってる。
「おお、反応してくれた」
「は?」
「いやさ」
ずりずりと女子のほうに座る位置を移動させながら言う。
「俺もね、寂しいわけよ」
腕同士がくっついた。
「バカみたい」
「悪かったな」
「あ、パン」
女子が指先でさっと男子の口元についたパンの欠片を摘み取った。口に運ぶ。
風が長い髪を揺らす。
「名雪……」
「わ、だめだよ祐一、こんなところで……あっ」
「……俺等もああいうことしよう」
「嫌」
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