街外れの小山のあたりでUFOが出たという話を耳にして、同じ頃に4組の池田さんが行方不明になったらしいとかいう噂が立って、それだけといえばそれだけの話のはずだった。
池田さんはUFOに連れ去られたんだ、とかふざけて誰かが言い出さなければ。
「UFO見に行こうぜ」
こいつがこんなことを言い出さなければ。
「……はあ? 何言ってんの?」
思わずすっとんきょーな声が出る。
「行こうよぉ」
「行かない」
「ちなみに出発は今からね☆」
「ヲイ」
放課後だった。土曜日なのでまだお昼だった。
教室内はまだ多くの生徒で賑わっている。大抵は高校1年生で、15歳か16歳で、男か女で、そこそこ栄えた地方都市とその周辺の地域でトップの進学校から1、2ランクくらい落ちる良くも悪くもない環境で良くも悪くもない成績を今のところキープすることに成功している、と言っても世間体とか責任感とか良心とかそういった何かにちっぽけな傷がつかない程度には宿題をこなしたりテスト前にそれなりの準備をする、その程度のことだけど、それでもなかなかに大変だったりすることもある作業で私はたまに参って夜の街を盗んだバイクで走り出してるつもりになって自分の自転車で走ったりすることもあって、というかまあそういった御託はともかく。ごく普通の高校生だということで問題ないと思う。とりあえず私に関しては。目の前の女はちょっと、というかだいぶ変なヤツだけど。
私たちは教室の入口の近くで話している。行き交う生徒が胡散臭そうな視線を時折よこす。
彼女はそいつを植物に向けてやったら光合成の手助けになるんじゃないかというような満面の笑みで、
「いかないか」
「行かないっつってんでしょ」
「七ちゃんバス通でしょ? 自転車で行くからさ、あたしの後ろに乗っけたげる」
「それなら楽かもわからないけどね」
「ちなみに10分交代制」
「バイバイさっちんまた来週!」
華麗に廊下に躍り出る。
「あの部活の後輩の子、結構かわいいよねぇ」
フリーズ。
「こないだ一緒に映画観てきたんだっけ?」
「な、何よ」
「言っちゃおっかなー高橋クンに」
「ななな何でそこであいつが出てくるのよっ」
「くひひ、何ででしょー」
「ちょ、待ってよっ」
「♪」
結局、さっちんを先導に廊下を歩く。
「あれ言ったっけ? 私さっちんに話したっけ?」
「いやもー、顔に書いてあるって」
「マジ? わかる?」
「確信を深めつつあるのは今だけどね」
「……」
「そっかー、七ちゃん高橋のことまんざらでもないんだ」
あれ? 墓穴掘ってるの私?
「行くっしょ?」
いつの間にやら玄関。靴箱の前でローファーに履き替えながら、少し蒸し暑い夏の午後。
次々と下校していく生徒達で、ざわめきは最高潮だ。夏休みももうすぐで、それさえも待ちきれないというように今日これからの予定を話し込む声がそこかしこから聞こえてくる。
UFOも、何かしらのドラマを求める若さゆえの昂揚感が作り出した、そんな蜃気楼のような儚い偶像なのかもしれない。
なんてね。
「うふふふふ」
「またこのコは、妙な笑い方を」
駐輪場の日陰の中、さっちんが引き摺ってきた自転車の後方に陣取る。
「いざ行かん、UFO探し!」
「急にノリノリだし……てか違うよ、UFO探し違う」
「はあ?」
「探すなんて面倒なことなんてしないわよ。ウチらはただUFOを見に行くだけ。労せずして我々はその姿を目撃することになるだろう……!」
「は? 何でそんな自信満々なんよ? つか意味がわかんない」
「おりゃー、デッパツじゃあ!」
ぐいんと急発車する自転車、慌てて目の前の肩を捕む。
「ちょお! 危ないじゃん!」
「しっかり捕まっとけよー!」
生徒の群れの合間を縫うようにして──というか蹴散らすようにして校門を抜けた自転車は右折して、ぐんぐん街を西に進んでいく。
あっという間に住宅街を過ぎて、見える景色は駅前の商店街。
ここの向こう、更に住宅や大きな公園や工場の隣を通り過ぎた街の外れの外れの海沿いに、私達の目指す、頂上に神社を構えた小さな山がある。
「あー、重くて疲れるわ」
「首絞めるよ?」
「ところで、そろそろ交代の時間じゃありませんこと?」
「いーけど、コンビニ寄ってこうよ。お腹空いた」
セブンイレブンで菓子パンとお茶を買って、選手交代。再び走り出す。
「私、二人乗り慣れてないから、気ぃつけてよ」
「ふー、ごちそうさま」
「早ッ」
すごい勢いでパン食い終わってた。
「私もお腹空いたー! 漕ぎながらじゃ食べられないー!」
「あたしが食べさせたげるよ」
ばりばりと音が聞こえて、袋から顔を出すパンが横から差し出された。
「ほら、たーんとお食べ」
「超食いにくんだけど」
「口どこ? ここか? それともここ?」
「んーもっと左、左、右、あー今惜しい、って行き過ぎ、もうちょい上、ちょ、鼻! そこ鼻!」
結局、ちょうど近くまで来ていた、この街の中心に位置する大きな公園でいったん食事ということになった。
手ごろなベンチに並んで腰掛ける。ペットボトルのキャップを回して一口で3分の1空けた。妙に喉が渇く夏日。
「いー天気だねえ」
さっちんは思い切り伸びをして、そのままだらしなくずるずると背中を沈み込ませる。
降り注ぐ日差しはあるけれど、時折涼しい風が吹いたりもして、この街の夏にしては割合快適な部類の日和。
名前のよくわからない小鳥たちが飛んでいる。噴水の向こうの広場の向こうの並木道の向こうにはそれなりに背の高いビルがそれなりにたくさん建っていて、土曜日の人通りと車通りはいつもと同じ賑やかさで私の鼓膜を震わせた。
仰げばいつもと同じ、青空。
たまにこの青が青すぎるように感じることがある。そういう時は大抵、感傷的になっている。
「この公園からさ」
腰のあたりの位置から聞こえる声。
「見たんだって」
「何を?」
「UFO」
ぼんやりとベンチに沈んでいたさっちんは、「よっ」と立ち上がると手に持ったペットボトルを空にかざす。
「あっち、外れの山のほう」
「だね」
「ここからあの方向の空に、なんか浮いてんのがぼんやりと見えたんだってさ」
「ふーん」
「5,6人だかで歩いてて、一人があの山の辺りの方角に何か飛んでるって言い出して、その場にいる全員が注目してみたらホントに何か見えたって話。聞く限り」
「それが、UFO?」
「そう」
「UFOなの?」
「そうなんじゃないの?」
「じゃないの、ってねぇ」
「UFOだと思うよ」
「そのココロは?」
「みんながUFOって言ってるんだからUFOなのよ」
一瞬間があって、それからさっちんはニヒ、と笑った。こいつはにひひ笑いがすごくうまい。
そういう時は大抵、苦笑するしかなくなる。
「じゃあ、そろそろ行きますか?」
「あ、やる気出てきた?」
「別にー」
「さーさー、れっつらごー」
また走り出す。
だんだん二人乗りのドライバーも慣れてきた。信号に捕まることの多かった駅前も抜けて、スピードを上げる。するとさっちんが左手を真横にかざして言う。
「もっとスピード上げてっ」
「なんで?」
「風がおっぱいの感触になるっての試したい!」
「帰れよお前」
私たちの住んでいる辺りとは駅を挟んで反対側になる住宅街。そこを抜けたあたりでまたバトンタッチ。私は後ろで一休みする。
「ところでさ」
「んあー?」
「UFOってほんとのところ、何なんだと思ってるの? あー、マジメにね。マジメに」
「みんなの夢!」
「マジメにっつってんだろッ!」
「マジメだってのッ!」
「そーじゃなくて! 私はね、もっと科学的な返答が聞きたいわけなんですよ!」
「えー……何だろうね?」
「降りていい?」
「ちょ、じゃーあんたはどう思うのよ」
「いやだからさ、私はこれっぽっちもそんなの信じてないから見間違いとか目の錯覚だと」
「何人もの人がみんなして錯覚ったわけだ」
「そう言われても……わかんないけど」
なんとなく、もにょる。もにょもにょ。
目的地までは1時間弱ほどあるから、それからも何度か交代を繰り返す。
川沿いの土手を走り、チョコレート工場の横を走り。やがて民家もまばらになって、あたりに微かに潮の匂いを感じる気がする。
「到、着っと」
自転車は木々の生い茂る山のふもとで止まった。私が地面に降り立って、さっちんは道端にそれを寄せて鍵をかける。
「それ、盗まれない?」
「辺鄙なとこだし大丈夫でしょ。まー、いざとなったらバスがありますし」
「まあね。てか、できればそっちの方が嬉しい」
さすがに最後の方になると太腿に疲労を感じて、ペダルを漕ぐのもだいぶしんどくなってきていた。体力にはそれほど自信がないので、帰り道がちょっと不安だったりする。
「……それで」
振り仰ぐ。
「やっぱり、ここ昇るの?」
「モッチのロンですよ七ちゃんさん」
目の間には一直線に伸びていく石の階段。
長く、ひたすら長く続いていく。何百段とあるだろうそれの頂上を見ようとすると、軽く首が疲れる。
「正直しんどい」
「大丈夫、疲れてるのはお互い様だから」
「慰めになってねぇ……」
ここまで来たのだから、という思いもあるけれど。やはり現物を目にすると圧倒される。
頂上には神社。街の人々にはそこそこ有名な、学校の運動部では、ランニング→ここ昇る→ここ降る→ランニング、という阿鼻叫喚の図が繰り広げられることもあるというにわかには信じがたい話も聞く、厳かなる石の段。
通称『地獄階段』。ありきたりだった。
「それじゃ、行きますか」
「うぅ……」
「ロケットスタート!」
「はぁー!?」
唐突に物凄い勢いで石段を3段飛ばししていくさっちん。
こいつ、バカか? バカなのか?
「先に着いた人がアイスおごりねー!」
「逆だろ!」
「逆だったー!」
その声が軽くフェードアウトしていくくらいに、すでに彼女の背中は遠のいている。
「なんであんなに元気なんだろ……」
まあ、馬鹿なことをやる体力だけはやたらとあるようなヤツだ。
いつも周りを振り回す。それなのに、憎めないんだけど。
「はぁ……」
溜息なんて似合わない季節。太陽が、制服の背中に熱く照り付けている。
「ま、いっちょ頑張りますか……」
右。左。右。左。
ゆっくり単調な歩行運動を繰り返す。左右に茂る緑を見飽きたあとは、目の前は石段で埋め尽くされるばかり。
流れる汗を拭く。おでこに貼りつく髪を掻き分ける。ふと視界に影がさす。
「ひぃ、ひぃ……」
「よ、久しぶり」
肩を叩いて影の主に声をかける。言うまでもなくそいつはおバカのさっちんで、言うまでもなくスタートに飛ばしすぎたせいですでにバテてるように見えた。
「しぬ……」
「大丈夫、疲れてるのはお互い様だから」
ぬるいペットのお茶に口をつける。
「まだ残ってたんだ……ひとくちちょーだい」
「だめ。慈悲は与えぬ」
「けち」
「けち子です」
「きー、ムカつく! チョベリバ!」
MK5! などとわめきながらバシバシと叩いてくるさっちんに、元気なんじゃんと思いつつ仕方なくペットボトルを渡してやる。
「かかったな! 全て飲み干してくれる」
「どーぞ。一口しか残ってませんから」
そんな感じで適当に会話しながら歩いた。
けれど、脚に鈍い重みが徐々に溜まっていくのに比例して、お互いの口数は少なくなっていく。
ぼんやりとした頭はろくに働いてもくれない。
機械的な運動と、呼吸と、蝉の鳴く声と、暑さだけがある。
「……疲れたー」
立ち止まって膝に手をつく。
少し先でさっちんも足を止めた。止めてくれたのかもしれない、とも思う。
その場で息を吸って、吐く。
「……私たちってさ」
「……んー」
「すっごい、バカなことしてるよね」
「……かもね」
「かもね、じゃないよ」
言ってから、少し八つ当たり気味な言い方になっちゃったかも、とさっちんの表情を見る。けど、彼女は特に気にした様子はなかった。
「でも、あたしは楽しいけどね」
スキップするように段差を進みながらそう口にする。
この期に及んでなんでそんなにはしゃげるんだろう、と訝しんだりしながら。私も、鈍い脚をゆっくり持ち上げる。
「七ちゃんは? って、見ればわかるか」
「しんどいです」
「あははっ」
「笑うなっ」
それでも楽しそうな笑い声は収まらない。
「はぁ……あんたって、むっかしからそんな感じなんだから」
「そう?」
「変わらない」
「嬉しいなぁ」
「呆れてるんだけど」
「あはは」
そういってまた、笑う。
そしてその笑顔を見て、私はまあいっか、なんてことを思うのだ。つまるところ私も、まるで変わっていない。昔から。
思わず苦笑が浮かぶ。けれど、悪い気分じゃない。
そうしてまた黙々と歩く。少し軽くなった足取りを感じながら。
「ほら、もうすぐ頂上」
声につられて顔を上げると、さっちんが指差した向こう、そこに確かにこの街の小さな神社へと続く鳥居の姿が見えた。自然と歩く速度も速まる。
残りの段差はあと僅かだ。
「じゅーう」
きゅーう、とカウントダウンの声。私もそれに合わせる。ななー、ろくー、と響く声。
「ごー」
「よーん」
「さーん」
「にー」
「「いちー!!」」
一段ずれてた。
けれど、そんなこと気にせずに二人してその場にへたり込む。
「つっかれたぁー……」
今昇ったばかりの階段に腰を下ろして息も絶え絶え、さっちんが呟く。私は膝と胸に手を当ててひーひーいいながら目を閉じた。疲労が磔のように肩や背中を覆っていて、膝は軽くガクガクいってる。
達成感みたいなものはあると思う。けれどそれよりも、日差しやら何やらで熱に浮かされた頭が全ての思考を拒否しようする。自分も石段に座って休もう。そうだそうしよう。そうやって振り向いて、
心がどくん、と音を立てた。
「さとうななかです。趣味は映画をみることと寝ることです。よろしくお願いします」「おはよー」「たげるから」「そうなの?」「今日一緒に」「そうじゃなくて」「今とったでしょー!」「できた?」「そう思うけど」「海、見に行こう」「いい、けど」「速いー!」「気持ちいいね」「ここを?」「無理だよ」「だいじょぶ」「いたい……」「のぼれる?」「靴がー」「あっち」「明るい」「ついた?」「あ」「すごい」「すごいね」「きれい」「きれいだね」「つかれた」「つかれたね」「でもきれい」「なーむー」「飛行機」「帰りはこっち」「また今度」「やっぱり!」「好きな」「違うよ」「走るのは……」「泣くなー」「また」「春から」「そうだね」「じゃあ、ね」「バイバイ」
「──ちゃん、七ちゃん?」
「え、あ、さっちん」
「どったの?」
そんな声で我に帰る。視線を下ろすと、さっちんが覗き込むようにこっちを見ていた。
「……なんでも、ない」
「まーたなんか考えてた?」
「ううん、別に」
「そう? 七ちゃんって、たまに急にぼーっとするもんね」
笑いながら来た道の方向に振り返った彼女は、手に持ったハンドサイズの双眼鏡を熱心に覗き込み始めた。
「あれ。あんた、そんなの持ってきてたっけ」
「さっちん様に抜かりはないのだ」
「UFO?」
「探したり、サボって景色見たり」
「そう」
さっきまでは吹いてることさえ気付かなかった風が、髪を小さく揺らしていく。高台から見る景色は、視界の一面に拡がりをみせていた。
眼下には街が広がっている。その向こうに見えるのは海。どこまでも続いていく、海。
水平線の上には空が広がっている。仰ぎ見ると、白い入道雲とのコントラストが眩しい。
あー、青すぎんだよこんちくしょー。
そんなことを、思う。
さっちんの隣に腰を下ろす。日光に灼けた地面の熱が心地いい。
「綺麗だよね」
「ん」
手に持った物を覗きながらの彼女の言葉に、頷く。何のことかなんて、言わなくてもわかる気がした。
「ずっと前にも、ここ来たよね」
「来た来た」
「懐かしいな」
「あの時は確か、裏道通ったんだよね」
「さっちんが言い出したんだよ」
「超無謀だよあたし……あ、船」
「靴とかどろどろになってさ、家帰ってから親にすごい怒られて私すごい泣いたんだよ」
「あはは、ごめんね。許してちょんまげ」
「あ、なんか今のですげえ許す気なくなった」
「えー!」
「冗談。……海、きれいだったから。だから許したげる」
双眼鏡を離したさっちんと目が合って、笑う。
「てか、私にもそれちょっと貸してよ」
「ん、いいけど……あ」
と、もう一度軽く覗き込んだ彼女の手が止まって、そのまま動かない。
「何、UFOでも見つけた?」
「いや……まー、見て」
そういって手渡された双眼鏡を覗き込む。意外に倍率が高くて、自分の見ている位置を掴むのに苦労する。
「あの、ここから見える浜辺のあたり」
さっちんの言葉を頼りにしばらく視線を忙しなく動かして、やがてそれらしき場所を視界におさめる。
同時にその場所を歩いている、人影も。
「──あれって……もしかして、池田さん?」
「じゃないかと思うんだよね」
「ん……多分そうだよ。私、あの人の顔よく覚えてるし」
その池田さん(らしき)女の人のそばには一匹の犬と、そして男性の姿があった。遠くてよくわからないけど、同い年の高校生には見えない。随分年上だと思う。
「漁師の人とかだったり、するのかな」
「どーだろね」
女の人は蛍光色のフリスビーを投げて、それを犬が追いかける。それを穏やかに眺めている男性。そんな光景。
これ以上は野暮な覗き見をやめて、さっちんに双眼鏡を返す。
「もういい?」
「ん」
そして、後ろ手をついて空を仰ぐ。
「なーんだ──」
宇宙人に連れ去られた彼女は、夏の浜辺の日差しの中、UFOみたいなフリスビーで犬と戯れていました。
とさ。
またひとつ風が吹いて、飛行機が音を立てて視界を横切っていった。青い空に、真っ白に尾を引く飛行機雲。
ただそこにあるものに、純粋に心動かされることがいつからかできなくなってしまって。
でも、いつだって世界は、考えているよりずっと簡単なのかもしれない。
だから、思う。
世界よ、ただ、ふつうであれ。
アーメン。
アーメン?
「まぁた、ぼーっとしてる」
視界にかざされる手のひら。
「なーに考えてんの」
「ラーメン食べたいな、って」
「またそんな唐突な」
「ね」
「ん?」
「なんで今日、いきなりUFO見に行こうなんて言い出したの?」
不意打ちは成功しただろうか。さっちんは大きな瞳をきょとんと見開いて、珍しくどもったりなんかしている。
「えー……えっと」
彼女は、視線を少し気恥ずかしそうにこちらに向けて。
「七ちゃんとここに来たかったから……」
そして、いつものように笑う。
「じゃ、ダメ?」
「ふうん」
「な、何ー」
「合格っ」
私も、あの日のような笑顔で。
この街の夏は、これから始まる。
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