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『ごーとぅーゆないてっどすていつ』 3連休も矢のように過ぎ去って傷心気味の相沢祐一君なわけだが。 風呂上がり、自室のベッドに転がりながら明日からの怠惰極まりないスクールライフに思いをはせ良くない気持ちでいたところに携帯に電話がかかってきたんだ。 画面には「川澄 舞ハニー」の文字が。 出るさそりゃ。速攻な。 「もしもし」 「祐一……」 超思い詰めてんだよそれが。声色から察するに。 何かあったのかと訊いてみると、 「……」 無言。 「今どこだよ」 「学校……祐一、今から学校に来て」 こうきたわけ。 そりゃ心配にもなるよな。何しろ夜の学校といったら。 剣を握りしめる舞の姿が瞼に蘇る。 「わかった。すぐ行く」 電話を切るやいなや俺はジャケットをひっつかんで部屋を飛び出た。 それがなんで、今はこんなところにいるんだ? ざわざわと夜も大分更けているにもかかわらず賑やかな喧噪と安っぽい内装にそこは包まれていた。 吉野屋だった。 なぜ学校に呼び出されたと思ったらこんな所に連れてこられてるんだ、俺は。 「他に待ち合わせる場所が思いつかなかったから……」 吉野屋でいいだろ。 「……それはそうかも」 「ったく……で、こんな所に何の用だ?」 牛丼デートか? それなら別に付き合ってもいいが。 「違う。祐一、これを見て」 舞はメニューの板を手にとって俺に向かって突き出した。 そこに当然あると思っていた牛丼の文字は、なかった。 「祐一……これは由々しき事態」 「知らん」 これか。この事でこいつは思い詰めていたのか。 そりゃ俺も何度かここの牛丼は食ったことはあるが、そこまで美味いもんでもなかったぞ。 「祐一は判ってない。安くて手軽な所がいい」 そうすか。 「で、俺にどうしろと?」 「祐一、私は今からアメリカに行く」 は? 「私の力で、牛さんを助けるの。その前に、祐一にだけはさよならを言いたかった。もしかしたら、命がけの戦いになるかもしれないから」 そうすか。 「ってお前……」 「じゃあ」 舞はそう短く言うと、颯爽と身を翻して去っていった。 自動ドアの開く音。 「……待てよっ!!」 「……」 振り返った舞の瞳は決意に満ちていた。 今更俺が何を言ったって、それが揺らぐことはないだろう。 こいつは、牛丼に、命を、懸けている。 なら俺は、舞に命を懸けるだけだ。 「俺も行くぜ」 「……」 「お前がなんと言おうとな」 「祐一……」 彼女はありがとうとだけ言った。笑顔だった。 夜の街がちょっとだけ優しく見えた。 これで翌日、空港の荷物検査に引っかからなければどれだけ良い話だったか。 「アメリカは危ない。私も何か武器を」 「だからって剣バッグに入れてくんじゃねぇ!!」 2004.1.13 第11.5回SS試験 会場『Nocturne』 お題「吉野家に行ったら牛丼メニューが無くなっていて、傷心の川澄舞を描け!」より |