『うぃざうと・みー』
結局、12時を回ったけど名雪は来てくれなくて、俺は暗く沈んだ気持ちで帰路につく。
水瀬家のドアを開け、リビングへ。
「あ、おかえり〜祐一」
「……はい?」
名雪が元気にキッチンで料理をしていた。
「祐一、随分帰り遅かったね」
「え、遅かったつーか……」
「あんまり夜遊びしちゃダメだよ」
名雪はたしなめるようにそう言うと、焼きそばのたっぷり盛られた皿を器用に3つ同時にテーブルに運んできた。
「はい、祐一、夜食できたよ」
「いや、夜食にしちゃ量多いし……じゃなくて! 名雪! お前……良かった、元気になったのか!」
「え? あ、うん、わたしはいつでも元気だよ」
「秋子さんは?なにか病院から連絡は?」
「お母さん?お母さんなら……」
「ふっかぁつ!!」
「「わあ!!」」
ドガシャーン
秋子さんがテーブルの下からいきなり飛び出してきた。そのせいでテーブルがひっくり返って焼きそば床に散乱。
「……」
「……」
「……」
「……焼きそば」
名雪、ふてくされる。
「うー」
「あらあら名雪、ごめんなさいね」
「お母さんひどいよー。せっっかくの夜食だったのに」
「あら、そうだったの。じゃあ私、作り直すわね」
「そう? じゃあ、わたしも手伝う」
そして名雪と秋子さんは床を掃除すると、キッチンに行って仲良く料理を始めた。
「お母さん、ちょっと油入れすぎだよ」
「え、そうかしら」
「うん。あんまり油分が多いと太っちゃうよ〜」
「あらら、年頃の女の子は大変ねぇ」
きゃあきゃあ言いながら楽しそうに焼きそばを作る水瀬母子。
やがて……
「ほら、できたわよ。名雪運んでくれる?」
「うん! お母さん」
……二人分の焼きそばがテーブルに並べられた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきま〜す」
談笑しながら楽しそうに食事をする二人。
そして……
「「ごちそうさまでした〜」」
水瀬家リビングに響くごちそうさまでしたの声。
……。
……あれ?なんか変だよな?
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
「あ、お母さん、ちょっと待って」
何事もなかったかのようにリビングを出ていく秋子さんを呼び止める名雪。
名雪も気付いたのか!? この違和感に!
「今日……わたし今日、お母さんと一緒に寝たいな」
……ああ、なるほど。そういうこと。
って待て。
「あら名雪、どうしたの急に?」
「え、なんとなく……ダメかな?」
「ダメなんてことありますか」
秋子さんは一瞬タメたあと、華麗に名雪の方を振り向いて言った。
「あなたは私の大切な一人娘なんですからっ!!」
「お……お母さんっ!!」
猛然と母親の元に駆けていく名雪。それをひっしとうけとめる秋子さん。
「うっ、うっ、お母さん……」
「あらあらこの子ったら……」
「お母さん……大好きだよ」
「私も、大好きよ。名雪」
涙の抱擁。
「じゃあもう遅いし、そろそろ寝ましょう」
「うんっ」
そうして名雪と秋子さんは、寄り添い合いながら廊下へ消えていった。
ひとりリビングに取り残される俺。
「……」
俺はテーブルのいつもの席に座って、タッパーに入った紅しょうがを手でつまんで、食べる。
「紅しょうがの味って……しょっぱいな……」
相沢祐一、17歳の冬の青春だった。