クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第6回お題その1
   『学校を出よう!2 I My Me』 谷川流 (電撃文庫)

 3日後の世界からとんできたらしい神田Aと3日前の世界からとんできたらしい神田Bが現在の世界ではち合わせ。 さらに元々この現在の存在している神田Nもいるらしい。これは時間遡行か、ドッペルゲンガーか、はたまた平行世界移動なのか。 2人の神田健一郎は同級生の星名サナエに助けを求めることに…。

  7   近田鳶迩@ざ・ねば〜・えんでぃんぐ・みすてり〜

 第八回スニーカー大賞の大賞受賞者である谷川流が、受賞作『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫)と同時に刊行した『学校を出よう!』(電撃文庫)シリーズの第二作。 時間物というのはその設定だけでも腹八分くらいには楽しめる作品が多く、 そういう意味で「三日後の世界の自分と三日前の世界の自分、そして現在の自分が同一時間上に存在する」という本書は、それだけで一定のレベルを保証されたようなものです。 そこから先の展開もなかなか捻りが効いているし、最終的に明らかとなる真相は、過去の名作時間物と比較してもそれほど遜色はありません。寧ろ素晴らしい。
ただ、作品として大成功しているかといえばそうでもないような。事件解決の一部を“シリーズ物の第二作”に依っている点は、仕方ないような気もしますが もっとスマートにできたと思うし、物語のテンポやキャラ同士のかけあいといったライトノベルとして重要な部分にも多少のもたつきを覚えます。 完成した絵図面が本当に震えのくるものであるだけに惜しいですね。 「この子はもっとできる子だよ」的な意味合いも込めて点数はこれくらいで。

   秋山真琴@雲上回廊

 二重の意味で驚いた。本書が刊行された当時、秋山の中で谷川流の優先順位はけして高くなかった。 それまでに刊行されていたこのシリーズの一作目も涼宮ハルヒシリーズも、それほど面白いと感じなかったからだ。 本書も半ば惰性で手に取って読み始めた……それがこんなしっぺ返しを食らうことになるとは。
 間違いなく本書は谷川流の出世作だろう。非常に面白かった。 ――二重の意味でと言ったけれど、もうひとつは秋山が思っていた以上に自分が「時間物」が好きであるということ。 もうラストでループがくるりと一回転して閉じられた瞬間に涙が溢れてしまった。

   キセン@D4D

 メインの謎自体は魅力的だが、解決シーンがどうにも衝撃的でない。というか、意外性が無いのか。 そのうえに何かエキセントリックなキャラクタが出てくるから、真相がキャラクタに負けてしまっている。 そーなるとあとは中途だが、これはなかなかよかった。 現実にありえない状況のシミュレーションを主人公に課しているわけだが、淡々と描くことに成功している。楽しかった。

   NAO@エッグ・スタンド

 この作品を読んで感じたのは、実は私はこの作者と合わないんじゃなかろうか、というものでした。 設定はとても魅力的だし、物語の進行も的確なリズムでむしろ評価したいところです。 ……が、どうも、この文章が――というか作家の個性が、私にはしっくりこないのです。 ただ、本作は「2」だけで問題なく読めるものだし、ミステリとしても謎を解く要素が徐々に出始め、そして収斂される様子は秀逸だと思います。

   トラック@コズミックサーフィン

 本書を読んで一番楽しめたのは、123ページから128ページかけてにある、神田Bとユウキによる小競り合いのシーンだけでした。 そこにあるユウキの台詞の端々から滲み出るものに感服してしまったのか、本書の核となるタイムトリップに対しあまり感銘を受けることはなかったです。 しかしそれは、ある人物に特定して読み進めたのが悪かったのかもしれません。 自分は巻頭のマンガからしてこのキャラを疑わずにはいられない! と思ってしまった人間なんですが……。 本書で最も驚いたのはこの巻頭のマンガでしたね。ここまで物語の本筋を明かしちゃうのか、と。
 動と静という風に対照的な姉妹として造型されているユウキとミツキを物語にもっと絡ませてくれればなあ、と口惜しく思いながら3巻を読もうかと思います。 茉衣子のイラストは毎回善い出来ですね。

   元@コンバンハチキンカレーヨ再

 「窓から見た景色は本物ですか?」

 今の自分が瞬間的に正しいなんてことは、誰が証明してくれるだけでもなく、自分が感じ取るしかない気がする。 もし、時間移動した時に「俺は俺だ」と僕は言えるだろうか。 不思議な少女と暮らし、もう一人の自分を見て、落ち着いた生活、元々ある謎、帰りたいと思う気持ち、それらに耐えられるのかを考えただけで、少しだけ泣きたくなります。 そんな刹那さが抜群に上手い小説だと思っています。

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 設定がまず魅力的なことと、血まみれのナイフの謎や女児誘拐事件というサスペンスを予感させる展開が結構どきどきもの。 キャラクタの扱い方や描き方・会話に関しては若干物足りなさがなくもないんだけど、 主人公・神田君の幼なじみ姉妹とのじゃれあいや、星名嬢にちょっとときめいちゃったりしてるあたりの恥ずかしい展開はなかなかよござんす。 不可思議な状況の謎は解決編で論理的に明かされ、すべてがふに落ちていく快感。 記憶喪失や時間移動の構図の複雑さはパズル的で良くできており感心いたしましたよ。良質のSFミステリであったと思います。 やっぱり、時間遡行ものって面白いなあ。それと、心に残る清らかなラストシーンがとてもとてもとおーっても、綺麗でイイ。

平均 6.6


 第6回お題その2
   『金の瞳の女神 ルーク&レイリア』 葉山透 (富士見ミステリー文庫)

 ”神の門”と呼ばれる建物で瞑想をしていた法王が重傷を負った状態で発見された。現場は密室状況。 女神像の修理工として働いていたルークは元ハンターという経歴のために事件に巻き込まれることになる。 事件の真相は…?

   近田鳶迩@ざ・ねば〜・えんでぃんぐ・みすてり〜

 『ドラゴンランス戦記』をマイ・フェイバリット・ファンタジーとする僕にとって、 ファンタジーといえば富士見、富士見といえば剣と魔法という図式は曲げようのない絶対的節理であり、 「富士見ファンタジア文庫」でライトノベル路線を打ち出したときは多少裏切られたような気分になりましたが、 それでも富士見がファンタジーを捨てることはない、富士見・イズ・ファンタジー、ファンタジー・イズ・ベスト!  当時の僕が「富士見」という冠に寄せていた信頼はそれくらい大きなものだったのです。
故に、富士見が「富士見ミステリー文庫」というレーベルで本を出すと知ったとき、 そこに「ファンタジーがない」などという事態は微塵も考えませんでした。 いざ最初の一冊を読んだときは、もう本気で泣き叫びたくなりましたよ。僕の頭大混乱。 残っているのは「ライトノベル」という上澄みだけで、ファンタジーの欠片も感じられない、 ミステリーとしての質も決して高くない、というかぶっちゃけ低い。 富士見は何故これを「富士見ミステリー文庫」などと名付けてしまったのか…… それでも富士見を憎むことのできない僕は、とりあえず手近にあった****の著作に怒りをぶつけました。 嗚呼ママン、富士見が、僕の富士見が壊れていくよ――。
 しかし! 我々は遂に「富士見」と「ミステリー文庫」の名に恥じないタイトルを得たのであります!  本書は将に「ライト・ファンタジーの定理で書かれたミステリー」。キャラ立てと物語展開は諸にそれです。 富士見はもはやライトノベルというやり方を手放せなくなっていますから、これはもう仕方のないこととして受け入れましょう。 問題はライト・ファンタジーとして面白いかどうか、ミステリーとして面白いかどうかです。 面白かったですか? 面白かったでしょう!  中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台に、元凄腕ハンターと絶世の美女ハンターが宗教儀式の最中に起こった密室事件に挑むというあらすじ。 ミステリーとファンタジー、双方のいいとこ取りをしちゃってるっていうんだからもう大変です。 道具立てからトリックから犯人の動機から大団円まで、正直を言えば大絶賛とまでは行かないんですが、非常に上手く纏まっています。 シスコン兄さんとお姉系ヒロインのコンビもいい感じ。 何故これを第1回配本にしなかったんですか?と編集者に文句を言ってやりたい気分ですが、見るとこれが第1回富士見ヤングミステリー大賞の最終選考作品。 つまり本作は、第1回配本を読んだ葉山透氏が「違ぇよ! 富士見ってのはファンタジーなんだよ! ファンタジー忘れちゃいけないんだよ!」 という血管もぶち切れんばかりの勢いで書いた作品なんですね――だったらいいなあ。

   秋山真琴@雲上回廊

 本書はファンタジィの中でミステリに挑戦し、成功した類稀な作品である。 ファンタジィとは言え、その世界観に魔法や必殺技は含まれず、どちらかと言えば我々の知らない世界の中世を舞台としているに近い。 そこで語られる事件と解決はいずれも論理的で、その筋道は明確だし、意外性もある。 富士ミスと言えばトンデモか萌え一辺倒かと思われがちだが、本書のそれは確かに文句のない出来栄えを誇っている。

   キセン@D4D

 非常にこじんまりとしている(褒め言葉)。 しかし、ハンターがいてギルドがあって、という或る程度手垢のついた世界観を採用しているのだけれど、それに自覚的になろうとしている。 「お約束」の良さを認めながらも、そこに安住しようとしていない。職人芸。 ミステリとしての仕組みもとてもよく練り上げられていて、なんでこれが壊拳より下になるんだー!

   NAO@エッグ・スタンド

 トリックは特に独創性溢れるものではないけれども、オーソドックスなもので、作品全体としても安定しているという印象。 この世界観を謎の解決部分に上手くコミットさせているのも好印象。 あまり期待していなかっただけに、楽しく読めました。 ファンタジーの世界を背景におきながらも、ちゃんとミステリをしているように感じました。悪くありません。

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 ミステリ者になる以前、十代の若かりし頃は「ソードワールド」や「風の大陸」の愛読者だったリッパーさんとしては、 ファンタジー世界でミステリを書こうというその心意気にまず拍手を送りたいところ。 こういう作品は富士見ミステリー文庫の創刊にあたって期待していたものの1つでもありましたし、 これが新人のデビュー作ということでようやく同文庫ならではの期待の新人が現れたなあと思いました。 あいにく、いまいち売れ行きがよくなくてシリーズは3巻で止まったまま、葉山透は電撃に拾われて向こうで別シリーズ刊行中、 という現実がちょっぴり切なかったりするのですが…。 シリーズ続編鋭意希望ですよー>ミス文編集部さま。葉山透かむばーっく。
 ミステリ部分は無理なくまとまっていて好印象。犯人の動機についての伏線のさり気なさに、あー見抜けなかったーという気にさせられたのが特によござんした。 それと、事件の真相解明に付随して、作品の世界観や舞台設定にも関わるある仕掛けが明かされるのだけど、これがロマンがあって素晴らしいのだ。 ファンタジーとミステリの両方が好きならぜひ読んでほしい、隠れた佳作。

平均 7.2


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