クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第9回お題その1
   「電波的な彼女」 片山憲太郎 (スーパーダッシュ文庫)

 不良学生ジュウの前に現れた堕花雨(おちばな・あめ)という妄想少女。 前世でジュウと雨は主従関係にあったのだという。 雨につきまとわれることに最初は迷惑がっていたジュウだったが…。 そして、世間を騒がせていた連続通り魔殺人がジュウの身近に迫る。 第3回スーパーダッシュ小説新人賞<佳作>受賞作。

   秋山真琴@雲上回廊

 日常に潜む狂気を、ここまで爽やかに書いた作品も珍しいだろう。 主人公は意外に硬派で、現代ファンタジィの登場人物が易々と信じてしまう非日常を受け入れることをせず、最後の最後まで猜疑的に事件を追ったように読めた。 ゆえに233ページで主人公が切った啖呵は素晴らしかった。 ヒロインを彼女が抱える狂気ごと受け入れ、さらに敵と相対するために狂気を認めるかのような科白は、心底、ゾッとすると共に感動した。  登場人物が少ないので犯人が限定されてしまうことを残念に思う。

  8   近田鳶迩@ざ・ねば〜・えんでぃんぐ・みすてり〜

 オッケーオッケー、これは面白いです。単純に小説として巧いし、キャラ立ても良い。 もっと破茶滅茶な話にして構わなかったところを、敢えてミステリの領域に留まった点にも好感が持てます。 設定的にはサスペンスよりも本格向きだと思うので、もし続編の予定があるならば是非とも安楽椅子探偵物を!>作者様 <ただひとつだけ、電波的なヒロインが主人公を選んだ理由。 それとなく臭わせているだけとはいえ、これはハッキリ言って蛇足です。作品世界を狭める方向にしか作用していないと思います。

   NAO@魔法飛行

 本書『電波的奈彼女』は、私が「もえたんの課題本にして欲しい」と頼んだもの。 順番が逆転していて、本屋で見て気になったが、購入するまでではないと判断し、 「もえたん」の課題本としてなら読むだろうと考え推薦した、という……。 それはともかく、これは第3回のスーパーダッシュ小説新人賞で佳作となった作品です。 ミステリーというよりもサスペンスで、ぐいぐい読ませる力は確かにあります。 新人という言葉から連想される荒削りさはほとんどなく、よくもわるくも完成度は高いのではないでしょうか。 これから成長が期待できる作家だと思いますよ。

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 主人公像がしっかり書き込んであって、ジュウの見ているもの感じているもの思ったことがストレートに伝わってくるところが特に良い。 最初いかにも気味悪い印象を与えてくれる雨さんが次第に愛しくなってくる展開もなかなか。 他の女の子たちも結構魅力的に感じられて、平穏な序盤は楽しく読める。 だからこそ、中盤一転してジュウが巻き込まれることになる連続通り魔は読み手にも結構キツイ衝撃を与えてくれるし、 その理不尽さに対して抱く怒りにも共感できる。終盤の怒涛の展開…ジュウの叫びが心に響いてくるんだよなあ。 完成度の高い青春ミステリー。

   トラック@コズミックサーフィン

 読了し、物語の流れをゆっくりと思い返してみれば、「んん?」と首を傾げ眉をひそめてしまいそうな粗がひとつふたつ……と出てくるのだけれど、 しかし終盤にある物語の(判りやすくはあるが)急展開には目を見張るものがあり、 また、ジュウと雨の絆についての説明がほのかに、やはり遠回しであるけれどきちんと為されていることから、不満を垂れることはいささか傲慢のように思えるのだ。 不可思議な出逢いによる、一方通行的だったふたりの関係がちょっとしたことの積み重ねで徐々に善くなり(雨がジュウを懐柔させたとも思えたり思えなかったり)、 ラストでの会話までにこぎ着けさせた作者の手腕を、自分は誉めたたえたい。 ミステリとして読むと、登場人物が極めて少ないため犯人の目星は早い段階でついてしまうが、犯人の心情が断続的に吐露される場面ではなかなかの衝撃があったり、 雨が懐疑的に現場をチェックしていたりと、諸々の要素はカバーできているのではないだろうか。 挿絵もふんだんに盛り込まれていることもあり、表紙に惹かれたら読むことをおすすめしたい一冊であります。

平均 6.6


 第9回お題その2
   「女子大生会計士の事件簿 DX.1 ベンチャーの王子様」 山田真哉 (角川文庫)

 女子大生会計士の萌実ちゃんと新米のカッキーが会計監査の先々で出くわす事件や騒動の顛末を描いた連作短編集。 読んでるうちに会計や監査のことがわかるようになっちゃう…かも? な会計ミステリー。

   近田鳶迩@ざ・ねば〜・えんでぃんぐ・みすてり〜

 えーと、最初はもう、問答無用の駄目駄目本かと思ったんですが、 よくよく考えてみると本書はあくまで「会計士の仕事を読者に知ってもらう」ために書かれたものであり、 「まんが会計士入門」的な意味合いが強い作品なのですから、これはこれで良いのだと思います。 大衆向けにヒロインを女子大生にして23時台の45分ドラマ脚本っぽく仕上げてある点なんかも、個人的な好みを別にすれば寧ろ評価対象。 「萌える探偵小説」では断じてありませんが、可もなく不可もなくの安定作と言えるでしょう。 だからといって評価点が高くなるかというとそんなこともなくて、まあ、若干贔屓目に見てこれくらいだと思います。

   NAO@魔法飛行

 小説を楽しみながら、会計の知識が身につくとかつかないとか……。 短編7編を収めた短編集。まず、結論から言うと、期待していたよりも楽しめませんでした。 あくまで「期待していたよりも」なので、別につまらないというわけではないのですが。 どの話もライトでサクサク読めて、億劫さが全くないし、後味が良いのも本書の魅力だと思います。 謎を会計に絡める技術は素晴らしいし、その点においてのミステリとしての出来は水準以上だと感じました。 まぁ、でも二巻以降は私は「すげえ、読みたい!」とは思わないですけれど。

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 会計についての知識がさっぱりないわたしには結構興味深く読めちゃいました。初心者にもわかりやすいので安心。 これ若い子に読ませてみて会計士とか簿記に興味を持ってもらおう、というのも有りなんじゃないかなーと思いました。 中学校教育にどうでしょう。いや、わりと本気で。
 この作品が書かれるにいたった経緯やその意図もなかなか興味深いのだけど、 それで出来あがったものがこんなに”ライトノベル”してるところが何より面白い。 雑誌のインタビューで作者さんは若い頃に「ロードス島戦記」を愛読していたと述べていたらしくて、なるほどと納得しました。 こういうのもライトノベルの浸透と拡散の1つだと言ってよいのかもしれない。 文庫化にあたってアニメ絵の表紙をつけた角川文庫編集部の慧眼に乾杯。 萌さんとカッキーのやりとりは軽妙で楽しい。各話で描かれる内容も”ライト・ミステリー”といってよいでしょう。

   トラック@コズミックサーフィン

 本書で一番関心を抱けた点は、会計上の不正処理のからくりを発見したあとの顛末で、 会社側で改善できる余地があるのなら告発せずに黙って監視しておく、という会計士の姿勢に目新しいものを感じた。 会社を倒産させることも可能な権力を握っているからこそ、企業の善いところ悪いところを映す<真実の鏡>としてありたい、 という信念は、事件に巻き込まれていく探偵たちに何か通ずるものがあるように思えて仕方ないのだ。 ……1話1話の分量は少なく、難解そうな専門用語も平易な言葉で説明してくれたりと、本書は気楽に読め進められる類を見ないミステリ小説である。 非常に判りやすいキャラの造型や文章の薄さについては、あとがきを読んでほぼ解消されたので、特に述べることはありません。 これから続々と文庫化されるのを期待したいところです。

平均 5.0


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