クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第14回お題その1
   「トリックスターズ」 久住四季 (電撃文庫)

 城翠大学・魔学部は日本唯一の魔学の研究・教育機関である。 魔学部の新入生である天乃原周は、世界で6人しかいない魔術師・佐杏冴奈と出会い、魔術師の殺人ゲームに巻き込まれることに…。 これは推理小説を模った、現代の魔術師の物語。

 
 近田鳶迩@TNM BLOG

 国内で唯一「魔学」を学ぶことができる城翠大学魔学部。 ゼミの説明会において流れた正体不明の放送は、殺人ゲームの開幕を告げていた。 新入生の天乃原周はひょんなことから、ロンドンに本拠地を置く世界的魔法結社「OZ」からやってきた、世界で七人しかいないと言われる本物の魔術師・佐杏冴奈のゼミに入ることになるが、 そのゼミの仲間が殺人ゲームの標的に――
 『飾られた記号』の「情報学」に対してこちらは「魔学」。 同じように新しい学問を創造、それを土台としてミステリをやっています。 分厚い作品ですが、途中詰まることもなくサクサクと読めました。 終盤は特に、好き放題に何でも放り込んでいる印象が強いですが、読み直してみるとちゃんと全体の構成から逆算して伏線を貼っていることがわかります。細かな綻びもあるけど許容範囲内。 キャラクターもワイワイと楽しいし、特殊設定ミステリとしてやっちゃいけないこと、やらなくちゃいけないこともしっかり押さえている。これはなかなかの良作でしょう。 シリーズ化されるなら続きも読んでみたいと思います。

 
 安眠練炭@一本足の蛸

 写楽法子、もとい、佐杏冴奈がいい味出しています。 表紙や口絵を見ると結構なオバサンで、ちょっといかがなものかと思うのですが、30過ぎてるようなので仕方がないのかも。 番外篇で冴奈の十代の頃のエピソードを書いてくれないものでしょうか。あるいは、魔術の力で見かけだけ若返るとか。

 冴奈以外のキャラクターが弱いのは残念です。みんなオバサンに食われてしまったという感じがします。やはり、ひとりにひとつ必殺技が必要でしょう。

 参考→尺度の問題

  6 
 秋山真琴@雲上回廊

 これは面白い。 電撃文庫からミステリと冠されて刊行される作品の大半は、ミステリの構造を取っていないものなのだけれど、この作品は真っ当にミステリしている。 読者を騙そうという作者の気概も見て取れるし。無理があると言わざるをえない点も多々あるが、ミステリ的なトリックを駆使しようとしている点が、素直に面白かった。 事件発生からその捜査、解決に至るまでミステリ的な手続きもきれいに踏まれていた。素晴らしい。
 物語の立て方としては『本格推理委員会』に類似性を感じた。 ヴォリュームも充分だし、これは是非シリーズ化して、続きが読みたい。 中々に面白かった。

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 らっこ@海獺の読書感想文対策

 読者をだましてやろうという挑戦状がのっけから叩きつけられます。 受けてたってやろうじゃないかと思いつつ読み進めましたが、あえなく撃沈。 だますよと言われているのに、だましきるその手腕にひれ伏すのみでした。 だましつくされた後には、爽快感……というより、むしろ満腹感(笑) 高畑京一郎『クリス・クロス』のようにゲーム(主にRPG)的なつくりを意識した始まりかたです。 かなりのページを使って書かれている、魔術に関する講義を受けた後に推理へと至る形になっているので、読み飛ばしは厳禁です。 もっとも、興味深い内容なのでそんな心配はないと思いますね。 登場するきゃらくたー達は、萌えることはできませんでしたが(笑)ミステリとして十分な描写がされていて好感が持てます。
 ミステリの中にはフェアじゃないものもあります。 この物語は魔術と言うちょっと扱いにくいものも含まれているので結末を推理することは難しいかもしれませんが、種明かしがされた後には納得できます。 後付設定とかはありませんし。
 ランドル・ギャレット論争は知らないので書けません。 そう言えば何かの本で、いわゆる多重人格の名称のひとつにトリックスターと言うのがあると書かれていた気がしますが(うる覚え) ツンデレって二重人格なんでしょうか? 最近の疑問です。 まあ、私はツンデレより 僕っ娘 の方が好きですがね♪

 
 NAO@魔法飛行

 魔学部を擁し、魔学を学ぶことが出来る城翠大学で「生贄を選定し、処刑することをここに宣言する」という予告が流される。 果たして起こった事件は「密室」の中だった――。  これは先に『飾られた記号』を読んだ影響もあるとは思うけれど、スラスラと楽しく読めた。 400ページを超える作品だが、長さも気にならなかった。 この小説は、しっかりと魔術・魔学というものを、ミステリと上手に融合させているし、解決編までの推理もよかった。 少なくとも「密室」の解決で、「おお!」と関心しないまでも「はあ?」となることはなかったし……。 あんまり、書くと感づかれてしまいそうだが、最後の最後まで、ミステリ的な驚きを与えてくれるという点も評価できる。 続編も書けそうだし、また別の作品でも十分「読ませる」小説を書ける作家だと思う。

 
 ゐんど@のべるのぶろぐ

 魔法が存在する世界のミステリ、という事で、電撃だし、キワモノっぽい印象だが、これがきちんとミステリしてる。 「読者への挑戦状」を始めとして、けれん味たっぷりで好印象。 多分、魔法でできることなどの境界条件に曖昧な部分があるので、本格としてはややアンフェア、なのかな? 私は永遠のミステリ 素人なので気にしませんでしたが。 伏線の張り方が新人離れして巧いので、解決編が心地よい、カタストロフ、じゃないカタルシス。 探偵役の先生のキャラも 立っていて、ライトノベルとミステリを高いレベルで両立している。 その分、同級生など、他のキャラが弱いのがちょっと残念。  ところで、この作品には七つの謎が隠されているのだが…私が分かったのは、最大のはずの七つ目(だけ)、ただこれはあっさりと。 (以下ネタバレ) このトリックには昔、田中芳樹などで散々騙されたからだが。 何より表紙にも口絵にも挿絵にも、主人公のイラストが無いのが致命的証拠になった。 まさかライトノベルというジャンルにこんな弱点があるなんてなあ…。
 ともあれ、ライトノベル・ミステリ界に期待の新星登場。熱烈歓迎。

 
 永山祐介@ My dear, my lover, my sister

 魔術で出来ること、出来ないことを提示した上で、フェアに事件を展開していたと思います。 動機と事件の繋がり(なんでその動機でこういう事件を起こすんだろう?)はやや弱い気もしましたが、 謎に対する解答の論理性がしっかりしていたので解決編も気持ちよく読むことが出来ました (まあ七つのうち二つ(アレイスタ・クロウリーと先生に関するあれ)はお遊びという気もしますが)。
 キャラクターに関して言えば、ゼミ仲間の出番が存外少なかったような印象。 (微妙に)ヒロイン扱いされている凛々子はともかく、他の子は外野っぽい扱い。 いみななんかは、登場時の描写などから、推理の時にもっと関わってくるかと思ったのですが。
 色々自分でも推理しながら読む楽しみがある作品でした。面白かったです。

 
 ムスタファ@【ムスーたん(;´Д`)ハァハァ】の帰還

 キャラクターがいまいちでした。ベトナム戦争から帰ってきた退役軍人みたいな妙に悟った感じの主人公が好きになれません。 もっとこう熱く燃えたぎる情熱を真正面からぶつけてくるストレートな人間が出てくる話が読みたかったです。 おまけに五人も登場する女学生の、各々の顔とキャラクターとを一致させることがなかなかできず、苦労しました。 三嘉村さん以外、記憶に残っていません。
 えーと、それとですね、作中で登場する魔学、要するに魔法ですか、 これが登場人物達によって盛んにロジカルで合理的なものだと言われているんですが、 この作品世界における魔法は一体何が出来ることで、何が出来ないことなのかの差異がいまいちよくわかりませんでした。 もうちょっと分かりやすく説明して欲しかったです。 あと、人物名にあんまりにもアナグラムを多用すると、オタク臭くなる(大学の同人誌とかモロにそんな感じですよ)だけだから、やめといたほうが良いんじゃないかなとも思いました。

 
 TKO@BAD_TRIP

 マジックの中にロジックを持ち込んだ意欲作。 しかし、最終的にトリックよりもレトリックを重視したがため、全体的に散漫な印象を残す結果になったのが惜しかった。 なにより、謎解き部分がぞんざいなのはミステリとして致命的でしょう。
 「魔術師からの挑戦状」など、謎の提示面では過剰なほど演出に拘っているのに、逆に解決を示す場面では、メタな内容の会話で決着をつけているのが実に勿体ない。 ミステリの醍醐味はやはり、散りばめられた謎を見事に解き明かす鮮やかな解決法にこそあると思うので、そこを投げ遣りにされては肩透かしです。
 ただ、謎を解くことではなく「見つけ出す」ことに注目し、重点を置いた点は、大胆かつ斬新でした。 冒頭での「七人」の魔術師という内容が後のヘキサエメロンと齟齬を来していることに気づけば、挑戦状を叩き付けた魔術師「我」が一体ダレなのかも判るし、 「七番目の欺計」の意味も自ずと判明するようにもなっている。 この用意周到さを終局まで維持していたら、というのが本書の感想かな。 一応、面白かったですけどね。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 ゴスロリ趣味でミステリマニアな女の子を用意しながら、彼女をヒロインにもってこなかったのが当作品の最大の落ち度であると言っても過言ではない。 いや、過言だけども、せめて探偵役の助手くらいは務めさせようよ。 佐杏先生はキャラはとても良いんだけど、頑張って20代後半な娘さんということもあって絵的にはちっとも萌えないのでーすっ。 口さがない人はケバイとかオバサンとか言いたい放題ですがな。 まあ、2作目以降は先生を押しのけて他のお嬢さんが表紙を飾るはずなので、今後に期待ということで…。

以下ネタバレ。 密室状況を作り出した”クロウリーの変身術・遠隔操作”がいまひとつ納得いかないのはわたしだけ? 他人に術を施せる、見た目では見破れない、まではいいとして、 凛々子の痛覚はどうなっていたのか?(傷つけられたという感覚までも魔術で操作できるのか) 病院の治療・診断はどうなっていたのか? についての説明がまったくされていないところがどうも引っ掛かる。 後に入れ替わる予定があったのなら、屋上の事件の時点でクロウリーが凛々子に成りすましている方が自然な気がするんだけどなあ。 二度手間にならずにすむし、上記の問題点も解決しやすくなる。ただ、それだといみなちゃんの推理が大正解ってことになるのですな。
 周くんの性別については最初っから疑って読んでました。 一人称で、周(あまね)なんて性別不詳の名前で、しかもカラー口絵にイラストがないとくれば、 今までさんざん同トリックに騙されてきた者としては疑わないわけにはいきませんことよ。おほほほほ。 というわけで、周くんが女の子であることをちらちらとほのめかす記述や会話を読むたびにニヤニヤしまくりでした。 ネットで感想見て回ってたら、全然気付かなかったという人がわりに多くて、電撃文庫の読者ってピュアだなーと思っちゃった。 それから、周くんの魔術隠蔽について、ときおり挟まれる奇妙な記述が伏線の1つになっている手法の発想元は綾辻行人「殺人鬼」なんでしょうかね。
 あと、クロウリーの正体がわたしの脳内ビジュアルで「クイズマジックアカデミー2」のマロン先生になってしまったため(髪の色とか違うんだけど)、
CV:水橋かおりで喋っておりましたよ。「ディモールトー♪」。

 とりあえず、電撃文庫からようやく富士見ミステリー文庫並にミステリーな作品が出たなーという感じで感慨深いと同時に、 こんな新人が電撃から輩出されるなんて、富士見ミステリー文庫と富士見ヤングミステリー大賞の存在意義があああああ…という気分でいっぱいです。 第4回大賞の「バクト!」とどっちがライトノベル系ミステリとして良作かというと……。

平均 6.7


 第14回お題その2
   「飾られた記号 The Last Object 」 佐竹彬 (電撃文庫)

 空間に存在する”情報場”と直接やり取りすることが可能になった近未来。 朝倉渚は学園内で起きた殺人事件の第一発見者となってしまう。 空集合……Φと皆に呼ばれる少年・日阪道理の導き出す答えは…?

 
 秋山真琴@雲上回廊

 ミステリ的な展開を持つことに、とても好印象。 事件が起こり、主人公がその事件の第一発見者となり、事件を捜査し、探偵が解決して終わる。非常に明快なミステリである。 惜しいのはミスディレクションが少ないこと。 読者の意表を突くような不可解な証拠ばかりが挙がってくるので、推理の取っ掛かりになるものがなく、最後の解決編も今ひとつ感動的なものにはなりえなかった。 また、この長さにするのなら、もう少しトリックを用意するか、構造を複雑にしてほしかった。
 あとがきで作者自身、述べている通り森博嗣の影響が強く見られる。 しかし、こう、森博嗣の熱狂的なファンからすると、この作品は森博嗣のいい点をあまり受け継いでいない。 秋山が思うに、森作品の魅力のひとつは理系用語を、何でもないことのように扱うことにある。 唐突にCPUやメモリといった言葉を出すことで、作者を含め登場人物の全員がその世界観に慣れ親しんでいるという事実を演出しているのだ。 この作品の場合、世界観の根底に流れる情報学という概念を、この作品独自の、特別なものとして描写しすぎている節がある。 そのせいで情報学という特異な概念が、読者に理解できるレベルにまで落ちてしまい、この作品の世界観が持つ不思議さが失われている気がする。勿体ない。

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 らっこ@海獺の読書感想文対策

 すごく気持ち悪いです。 筆者の佐竹さんが言っているように、森博嗣さんを意識されて書かれているので理系的で端正な物語なんだろうなと思っているとやられます。 不意打ちを食らった私の感想が、冒頭の一言です。 森さんのような文章なのに、読んでいて落ち着かないです。森さんにはない恐怖がこの中にはあります。 キャラクターのほうは、続きを意識しているようなので一巻だけではなんとも。

 
 安眠練炭@一本足の蛸

 探偵役の日阪道理(男性です)はもしかしたらツンデレ系のキャラクターじゃないでしょうか。 この作品ではツンツンしていたけれど、きっと続篇ではデレデレになるに違いない……そんな予感がします。

 もう一人、印象に残ったキャラクターは廣畑百花です。199ページのイラストが絶妙でした。GOTHときつねそば、これ最強(でも椎茸はいらないと思います)。 百花もシリーズキャラになりそうなので楽しみです。

 朝倉渚はちょっと地味ですね。道理を百花に寝取られて愁嘆場を演じたりすると面白いのですが。

 参考→尺度の問題

 
 NAO@魔法飛行

 数学テイストを混ぜたミステリ……というよりも、ミステリチックな内容に数学もどきのファクターを散りばめたといった感じの作品。 電撃からの新人作家ミステリーということもあったが、「問一」いや「問題の条件」を読んだところで「あぁ、これはヤバイ……」という思いになってしまった。 酷く読みにくいし、劣化森博嗣にさえなっていないし、なんというか痛い。 各章の冒頭にある、論文のような文章も、物語に雰囲気を漂わせるという効果があるとは思えない。 また、ミステリという点から言えば、ラストには「はあ?」と首を傾げざるを得ない内容になっている。 そこを期待する人は読まないほうがいいと思う。 情報場とか情報学とか、もっと巧みに表現し説明できれば魅力的なファクターになるとは思うけど。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 主人公の朝倉渚があまり女の子らしくないのが作品を淡白にしてる理由なのかもしれない。 ”情報場”の設定とか近未来世界の様相をもう少し魅力的に見せるためには、それを眺める主人公の方に活力がいるんじゃないかなー。 きゃぴきゃぴさせようよ。女の子の一人称なんだからきゃぴきゃぴー。 道理くんなんて描き方次第ではもっとかわいく出来るだろうに、中途半端な哲学少年で終わってしまってるのが残念…。 よし、ここは道理くんにふりひらドレスを着せて女装を趣味にしてしまえばキャラの弱さも解決だ! 時代はいま”少女少年”なのですよ。 これで周囲に恐れられている理由付けもバッチリ。

 ミステリ部分はまあまあ頑張ってるけど、話はいまいち面白くない。

 
 ムスタファ@【ムスーたん(;´Д`)ハァハァ】の帰還

 せんせい、あのね。ぼくは、このまえ、『数学をつくった人びと』という、ほんをよみました。 このほんは、ベルせんせという、がいこくの、すうがくしゃが、かいたほんです。 すうがくを、つくるのに、かつやくした、かしこいひとたちの、はなしが、たくさんのっているほんです。 とてもおもしろいほんです。 このほんのなかで、ワイエルシュトラスという、えらいひとが、 『詩人らしいところをかねそなえていない数学者は、数学者として決して完全なものではない』 という、とてもかっこいいことをいっていました。 これをよんで、ぼくは、さたけあきらさんの、『飾られた記号』というさくひんが、とちゅうから、ぽえむみたいに、なってしまうのは、 このワイエルシュトラスせんせの、いけんを、すなおに、まもっているからなのかなあと、おもいました。

平均 3.5


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