クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第15回お題
   「クドリャフカの順番」 米澤穂信 (角川書店)

 学園祭を迎えた神山高校。 文集「氷菓」も無事に刷りあがり、準備も万端な古典部であったが、問題が1つあって…。 古典部の面々は問題を解決することが出来るのか。そして、学園祭を騒がす些細な盗難事件の真相、十文字の正体は!?

 
 NAO@魔法飛行

 米澤穂信の待望の新刊にして、古典部シリーズの最新作です。 本書では今までは、ホータローの一人称で書かれていたものが、 古典部の4人、つまりホータロー・福部里志・伊原麻耶花・千反田えるのそれぞれの視点からの一人称で語られていきます。 これで、ホータロー一人称のみを経験している者としては新鮮で面白い。 えるは天然だなぁとか、なるほど里志は麻耶花のことをそう考えているのか、とか。 で、やっぱり青春ミステリというだけあって、ミステリ以外の描写が本当に読んでいて楽しいのです。 舞台が文化祭ということもあって、いろいろ作者的においしい部分があったと思うのですが、 それをミステリに直接的・間接的・あるいはほとんど無関係に上手に描写しています。
 お料理対決とか、えるの校内放送のゲストに登場とか、麻耶花の部活内での葛藤とか、 落語研究会のアレ(おそらく『氷菓』のあとがきの続き)とか……。 無論、ミステリとしても文句なしに秀逸だと思います。 物語中に散りばめられたいろんな要素、ギミックが収斂され、最後の「解決」へと繋がっていきます。 これはもう読んでみてください。というわけで、こんな感じで高評価・高得点です。

 
 踝祐吾@Quantum Educational Device

 古典部数年ぶりの最新作、ということで早速手に取った。 やはりシリーズ最新作ということもあり、見事なるかな。 以前に出てきた人もぽつぽつと顔を出しているのが何とも嬉しい。 今回は一人一人の行動が見事に同時進行し、時系列を追って読んでいく楽しさと同時に、 ドラマ「木更津キャッツアイ」で見たような「表/裏」の楽しさも同時に味わうことが出来る。 思いのすれ違いがどのような結末に至るかも楽しませていただいた。
 惜しむらくは、解決に十分な説得力を見いだすことが出来なかった部分だろうか。 ミステリ的な面白さとしては「愚者のエンドロール」の方が上であったように思う。 解決部分を読んでちょっと肩すかしを食らった気分になったのは、一応筋が通った結論になっているだけに残念だった。 主人公の行動にちょっとした疑問を持ったというのもある(わざわざそれをするか、と)。 もう少しひねりを見せて欲しかった……というのは贅沢だろうか。

 
 ゐんど@のべるのぶろぐ

 もうミステリ要素なんてどうでもいいじゃん! と「もえたん」的にはどうか?な科白を大声で叫びたいくらいに、 学園祭のお祭りな空気が愉しくて愉しくて一気通読。 なんか「氷菓」や「愚者のエンドロール」で想像していたよりも、ずっとエキセントリックな校風だったので驚いた。 一般単行本として発売された本書が、今までで一番ライトノベルしていると思う。 そしてエキセントリックといえば、折木を除く古典部の三人。 各人の一人称形式だったため、随分キャラクターが掘り下げられた感じ。 摩耶花は意外とヲタクだったんだなあ(コスプレ、気になります!) とか、データベースも複雑な思いを抱えているのだな、とか。 でも特筆すべきは、千反田えるのぶっ飛んだ中身でしょう! 凄い天然。 正直に告解します、萌えますた。 あと、こういう作品の作中作って、小説が基本だけど、同人漫画というのが逆に高校生っぽくて良いですね。 何やら新キャラも多数登場して、今後の展開が愉しみ。新「図書館の主」は何者なんでしょう?  私、とっても気になります!

 
 近田鳶迩@TNM BLOG

 将に“今が旬”の作家・米澤穂信による古典部シリーズの三冊目。 今回は学園祭を舞台に、古典部が抱えた大きな問題の解決と、正体不明の怪盗「十文字」が巻き起こす盗難事件と、ふたつの軸で読ませてくれます。
 何よりもまず、エンターテイメントとして面白い。 特に千反田えるの一人称部はいつまでも読んでいたくなる、 いっそ千反田視点だけで長編千枚書いてくれませんかってくらいに嵌まってしまったわけですが、もちろん本書の良さはそこだけに留まりません。 「十文字」事件におけるミッシングリンクの巧妙な使い方、真相に隠された“青春”のほろ苦さと、青春ミステリ好きのツボをこれでもかとばかりに刺激しまくり。 シリーズの初出が角川スニーカー文庫だったこともあってか、登場人物たちの設定に半端なラノベっぽさがあって、それがどうにもアンバランスに思えて仕方がないのですが、 これはこれで他作家の作品にない独特な味を生み出していたりもするので、まあ、良いのかな。 最新刊の『犬はどこだ』と合わせて読みば色々倍増請け合いです。  …それにしても全編千反田視点じゃなかったのが返す返す残念でなりません。 もしそうだったなら二千点はつけたのに。

 
 TKO@BAD_TRIP

 米澤穂信の古典部シリーズ第3弾は、若者の熱い血潮が迸る「神山高校文化祭」を舞台にした見事な青春ミステリでした。 作品全体に横溢するお祭りムードは高揚感漂う実に愉快なものばかりで、読めば絶対、たまらなく愉快な気分になれます。 数ページに渡って大胆に提示される冒頭直後のしおりのコメントも、見ているだけで充分楽しくなるし、 例えば、茶道部の野点や手芸部の曼陀羅絨毯、本当に実在したビデオ映画研究会など、 過去作品で言及されていた部分を目にして妙に嬉しくなったりもしました。 あと他にも、意外な形で明らかにされた「寿司事件」の真実とかね。
 ただし、文化祭に対する登場人物の姿勢は千差万別なのが当たり前。 作中でも、積極的にお祭り気分を満喫する里志と消極的・受動的に時間を空費する奉太郎の対比や、 やりたくもないコスプレに漫研での活動をしぶしぶ行う摩耶花の心情面など、 それぞれの文化祭へのアプローチが大きく異なっている点など趣向が凝らしてあり、好感が持てます。 これらを一人称できちんと、しかも魅力的に書き分けた点には心から拍手を贈りたい。
 そんなわけで、青春小説という側面では不満は全くないです。 しかしミステリ面ではやや物足りなさを感じる点があるにはあるかも。 ただそれでも、今回の『クドリャフカの順番』が『ABC殺人事件』を模倣したいう点は非常に面白いと思う。 なぜなら、『氷菓』が過去の人物の表現行為を、『愚者のエンドロール』が未来のあるべき表現内容を、それぞれ推理する作品であったのに対し、 『クドリャフカの順番』は、現在進行している表現行為を読み解く物語であるからです。 過去・未来・現在進行。その意味でも本書は、正しく前2作を継承していると言えるでしょう。
 問題は、この次。 文化祭も終わり、色んな意味で出尽くしてしまった感があるこの状態で、どうやって続きを見せてくれるのか。 作者の手腕に今から期待しています。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 売れなくて一時中断してしまった古典部シリーズの続きが読めるという幸せにまず乾杯。 そして、かかる期待に見事に応えてくれた傑作であったことに拍手喝采。

 滝本竜彦とか元長柾木の本は単行本でもイラスト表紙なのに、米澤穂信はそうじゃないのかあ。 米澤氏の東京創元社での仕事ぶりに、ライトノベルとして売るよりは一般向けでいった方がよさそうという編集判断なのだろうけど…。 わーん、えるえるとまやまやのイラスト見たかったよー。 コスプレとかお料理とかビジュアルで見たいシーンがいっぱい有り過ぎます。 ということで、シリーズ4冊目(短編集?)を刊行するのに合わせて「少年エース」でコミック化しましょう、そうしましょう。 5冊目の長篇を出す頃にはアニメ化ね。キャストはもう考えておきましたから。

   千反田える=能登真美子
   伊原摩耶花=斎藤千和
   福部里志=水島大宙
   折木奉太郎=神谷浩史

 里志が難しいな…。菊池正美でもいいかも。

  10 
 秋山真琴@雲上回廊

    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 古典部! 古典部!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J
      ┌─┐  ┌─┐
      │古│  │古│
      └─┤  └─┤
      _   ∩   _  ∩ 古典部!
    ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  古典部!
 ┌─┬⊂彡┌─┬⊂彡
 |典|    |典|
 └─┘    └─┘

 最高。読んでいる間中、ドキドキが止まらなかった。もう、脳内一人米澤祭り状態。 登場人物は誰ひとりとして、ライトノベルにありがちな典型的な恋愛をしていない。 文化祭に必要以上にのめり込んでいる訳ではないし、祭りの舞台裏にある軋轢やいがみ合いまで描いているのに、 もう全てが、全てが――そう、青春という安易な言葉で片付けてしまうことを悔やんでしまうぐらいに、青春している。
 一番の見せ所は、全てが収束する解決部分よりも、お料理大会に違いないと思う。 ちーちゃんと言い、さっちんと言い、最高。 だいこん! だいこん! バッテン! バッテン! そして、ミッシングリンクとミッシングリングは、どっちが正しいんだ。 わたし、気になります!

 
 ムスタファ@【ムスーたん(;´Д`)ハァハァ】の帰還

 個人的体験を書かせてもらうと、文化祭といえば灰色の思い出しかないのです。 教室の隅っこで一人で蹲っている人間には誰も手を差し伸べてくれなかったというか 当時はそれはそれで楽しかったからまあよしとしましょうかというか 文化祭ネタに触れると非常に切なくなってしまうので、ミステリの話をしますね。
 今回の作品はミッシングリンクがテーマのようです。 作中でも幾度となく触れられているように、クリスティーの『ABC殺人事件』といえば、 Aの頭文字を持つ人間をAの町でぶっちゃ殺し、Bの人はBの町でぶっちゃ殺し、 Cの人は……という連続殺人を行う精神が病んでいるとしか思えない犯人の所業が、 実はものすごく利己的な動機に基づいて行われていた、その動機の鮮やかな対比性が面白い作品です。 この米澤穂信の『クドリャフカの順番』もかの名作に負けていません。 『おいしいココアの作り方』*1 もそうでしたが、カモフラージュの仕方と犯行動機の説得力が並じゃないですね、この人。

 *1 …「春期限定いちごタルト事件」収録

 
 安眠練炭@一本足の蛸

 最初に読んだときは面白さのあまり「『愚者のエンドロール』を超えた!」と思ったのですが、読み返してみると謎解きの手順に見過ごせない弱点があったので、評価が少し下がりました。 奉太郎の推理は「死とコンパス」めいた超論理によるもので、飛躍と無理が目立っています。 たとえば、293ページ5〜7行目で奉太郎はこの事件の構図をほとんど思いつきだけで言い当ててしまいます。 しかし、その前に「八岐の園」の可能性を検討しておくべきだったではないでしょうか。 奉太郎の推理のほうがより自然だと思う人もいるでしょうが、事件の前提となる人間関係に類似した関係が里志パートで既に語られているからです。 でも、奉太郎は里志の独白を聞いてはいないのです。 予め読者にすべての情報を提供し、作中の探偵と推理力を競わせるというタイプのミステリでなければ、物語全体の構成や雰囲気のためにミステリ的な厳密さを多少犠牲にするのは問題ありません。 しかし、探偵役の視点で語られるミステリで、その探偵の心理が全く理解できない(なぜそんな推理ができたのか? 何がきっかけで真相に気づいたのか?)となると、どうしても違和感が残ってしまいます。 他の箇所では、微妙な心理の機微まで見事に描かれているだけに、謎解きシーンがよけい浮き上がってしまうのです。
 他方、文化祭の楽しげな雰囲気やしゃれた会話の数々、そして思わず微笑してしまう愉快なエピソードは非常に楽しめました。 『氷菓』『愚者のエンドロール』に比べても格段に面白くて、ちょっと不遜な言い方ですが、米澤穂信の成長のめざましさが感じられます。 そこで、総合評価としては、『愚者のエンドロール』を8点とすれば『クドリャフカの順番』は7点となります(ちなみに『氷菓』も同じく7点です)。 ただし、「もえたん」ではイラストも評価対象となるので、イラストなしという理由で1点引いて6点にしました。 この扱いは純粋に形式的なもので、「イラストがないなら、イラストのせいで減点されることもないはずだ」と思われる人は、7点と受け取って頂いて結構です。

平均 8.3


 第15回 レビュー再募集
   「氷菓」 米澤穂信 (角川文庫)

 第3回課題本。

 
 踝祐吾@Quantum Educational Device

 デビュー作。連作短編ということもあり、油断すると一気読みしてしまう作品集である。 それぞれの解決が高校生らしいといえばそうだが……。 なぜこのタイトルか、という落ちの部分は下手するとギャグ落ちになってしまう部分を上手く青春のほろ苦さを醸し出している。 これこそ、米澤さんの本領発揮だなぁ、と思った。



 第15回 レビュー再募集
   「愚者のエンドロール」 米澤穂信 (角川文庫)

 第3回課題本。

 
 踝祐吾@Quantum Educational Device

 三作の中では一番高い点数を付けさせていただいたのは、 解決が一回で収まらない、しかしながらそれでいて後味が決して悪くないところに僕が感激したからだ。 解決したと思ったらそれが間違いで、さらに悪い方向へ……というのは良くある話だが、この事件はそれを全く感じさせない。 本文だけでなくありとあらゆる所に伏線を張っており、油断出来ない構造になっている。 ミステリと青春小説の二つの要素を兼ね備える傑作といえるのではないか。





「もえたん」トップにもどる