クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第16回お題その1
   「バクト!」 海冬レイジ (富士見ミステリー文庫)

 教え子を救うために借金ギャンブル地獄に陥りかけた音無素子は、ギャンブラーの国定兄妹に助けられることに。 3人の大勝負の行方は…。  第4回富士見ヤングミステリー大賞<大賞>受賞作。

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 らっこ@海獺の読書感想文対策

 この話で一番驚いたのは、なによりも主人公で教師でもある音無先生のヘタレっぷりじゃないかと思います。 最近、ギャルゲーや漫画、小説などの主人公にもどかしい思いを抱かされることも多々ありましたが、音無先生はこれらの比ではありません。ひとつ突き抜けています。 生徒の煙草は注意するくせに、その生徒に賭博で頼る先生って……将来がかなり心配です。ある意味スリルが満載で、ドキドキしっぱなしです。 そんな父性とも言うべき感情を主人公に持ってしまった時点で、作者の海冬さんの術中にはまっているような気がします。 そんな風に、読者としては賭博の魔力に囚われてしまった音無先生は滑稽に見えますが、自分の経験と照らし合わせてみると案外似たような状態に陥ってしまっていたことに気づきました。 のめりこんでしまうと言うか、冷静な判断を下せなるというか。お金って怖いですね。
 そんなわけで、この小説を読むと賭博関係の知識とか仕入れることができます。 縁のない世界ですから知らないことがほとんどで、どのネタも新鮮で面白かったです。 巻末には本編で出てきたゲームのルールとかも書かれているので分かりやすいです。 音無先生がヘタレな分、国定兄妹はかっこいいですよー。 むしろこっちを主人公に据えてもらいたいくらいです。 でも、そうするとスリルがなくなってしまいますね。

 
 ムスタファ@【ムスーたん(;´Д`)ハァハァ】の帰還

 ヒロインの音無素子さんが自分で垂らした糞の始末もできない情けない大人という役どころでして、読んでいる最中イライラしっぱなしでした。 彼女にはシリーズを重ねるごとにしっかと成長していって、自分のケツぐらいはきちんと拭けるようになってほしいものです。  あと国定ヒロトくんは悪者達のイカサマに対して自分もイカサマで返すんですけど、その方法があくまでもフェアプレイなのが、 ビル・パームリー(パーシヴァル・ワイルドの『悪党どものお楽しみ』に登場する元イカサマ賭博師)が活躍する『カードの出方』っぽくて好感が持てました。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 語り手の音無素子ちゃんは25歳の高校教師(科目は国語)。 ん、これってもしかしたら富士見ミステリー文庫では最年長ヒロインなのかも!?  しかし、そのわりには落ち着きないというか、教師のくせして借金まみれのギャンブル地獄に陥って教え子でもある凄腕ギャンブラー兄妹に助けられるという展開が…、 いやー、かわいいんだなあ、これが!w  目の前の勝負に熱くなってハッと気がついたときには大金すってるわ、ヒロト君の言いつけは1つも守りゃしねえわと、 馬鹿なのと浅慮なのにも程を知れな感じの素子ちゃんなのだけど、根っこはどうしようもないほどバカ正直で善人というあたりがちょびっと愛しかったりして。 彼女を許せるか否かがこの作品を楽しめるかどうかの分水嶺なんだろうな。
 ギャンブルものの名作と比較しちゃうとどうしても見劣りしちゃうだろうけど、 ヒロインの転落っぷりを通して「賭場の怖さ」を描いているところは評価ポイントの1つかなと。 それと、各章をはさむインターミッション・パートの下品なギャグになんじゃこのノリは…と思いながら読んでいたら、これがミステリ的な仕掛けにつながっててビックリ。 何気に密室トリックもあるし、そうか! これも実はミステリーだったんだ!!  ……なわけないですね。いくらなんでも。

平均 5.3


 第16回お題その2
   「BAD×BUDDY 12月の銃と少女」 吉田茄矢 (富士見ミステリー文庫)

 上司に逆恨みされ、ニューヨークからアトランタに左遷されてしまった若き刑事ホンダ・ヒロユキ(日系)は到着早々、 爆弾魔の少女の大騒動に巻き込まれてしまうことに…。 そして、刑事稼業の新たな相棒は、軍人上がりの17歳の少年!?  第4回富士見ヤングミステリー大賞<最終選考作>。

 
 らっこ@海獺の読書感想文対策

 ヴィスコちゃんのかわいらしさは道徳をも越えます。短気な爆弾魔だろうが、かぼちゃパンツだろうが構いません。 かなり頭の悪そうな始まり方ですね。 そんなヴィスコちゃんのような存在のおかげで軽くなってますが、物語全体を通して主人公があまりにもかわいそ過ぎます。 間違ったことはしていないのに、人生下り坂です。 まあ、ヴィスコちゃんに出会えたことで十分報われているとは思われますがー。 舞台が外国だからでしょうか、ヴィスコちゃんの出番がない部分はけっこう硬派な印象を受けました。 アクションはあるし、爆破はあるし、ブロンド美人も薄幸の美女もいるし、ハリウッド映画のおいしいシーンは詰め込んであるようです。 一番分かりやすい形での、ハリウッド映画の富士ミスバージョンかな?  少なくとも私はそう感じましたし、その試みは悪くはないと思います。 それにしても一番驚いたのは、ストーリー展開ではなく著者の吉田さんが携帯ではなくPHSを使っている美少女だという点でしょうか。

 
 トラック@コズミックサーフィン

 すらすらと読ませる軽妙な文章とあまり間を置かず停滞を見せない展開が相まってか、かなりテンポ良く読むことができ、 また、次第に裏側が明かされていく事件に巻き込まれた人々の悲哀さが溢れた内容とやがて静かになっていくエピローグもなかなか善くて、読後感は良好でした。 連邦本部のあるニューヨークからアトランタへ左遷させられたばかりのホンダが街で会った様々な者たちにひたすらぐいぐいと引っ張り回されている感覚を、 的確にその場の状況を突っ込んでいるそのホンダの語り口によって、読んでいてあまりストレスなく享受していたような気がして、 そしてそこから弾き出されるホンダの蛮勇すれすれでいて己の正義感に準じた行動には目を見張るばかりなのでした。 ……序盤にある、ホンダと12才の爆弾娘ヴィスコのやりとりからウォルターを交えてのなんだかやけに微笑ましく思える言い争いがすごく好きです。 そんな、直情径行型な大人と性悪と性悪の図が描かれた161ページの挿絵にはもう、言い様なく笑いが込み上がるのでした。 そんな性悪たちに時たま優しい眼差しを向ける――向けざるをえないシーンに出会したりするホンダは、かなり善いキャラなのではないでしょうか。 いや、新聞を賑わせるヴィスコもある種素晴らしいといえば、素晴らしいのですが。  すでに発売されているシリーズ2作目『サウス・ギャング・コネクション』も早いうちに読んでおきたいところです。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 うわーい、これ面白ーい。良作、良作〜♪
 女性に振りまわされたり、同僚とそりが合わなかったり、真面目に仕事に取り組もうとするがゆえに貧乏籤をひかされ、 相棒の少年やワガママな爆弾娘までつい助けてしまう羽目に陥ったり…。 降りかかる面倒と女難にぼやきながらも、直情型で熱血漢な性格で全部真っ向から受けとめてしまう主人公が、実に愛すべきキャラクタとして描かれてる。 ホンダがウォルターやヴィスコ相手に悪態つきあってるところなんか、微笑ましくて和むなあ。 やたらたくましい女性陣にたじたじになってるホンダ君もかわいいぞ。 語り口は軽快で読みやすく、テンポの良い会話の応酬もいい感じ。 コミカルな展開を見せる部分も多いのだけど、描かれる事件自体は爆弾の出所とか殺人の真相を追いかけるもので結構シビア。 捜査が進展し、見えてくる事件の背景と関係者の想い。そういったものを受け止めながら、ホンダはどう動くのか。 相棒であるウォルターとの信頼関係は……ってなあたりも刑事ドラマとしての面白さにつながってる。 そして、訪れる、ほろ苦い結末。その描き方がまたいいんだ。 中盤でのやり取りが効果的にいかされてて上手いなあと感心しましたよ。 今年デビューの新人さんの中でも有望株な一人として期待。

平均 7.3


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