大沢在昌 「新宿鮫 毒猿」 光文社ノベルス
 台湾からの刺客「毒猿」と鮫島の死闘。
 新宿鮫は非常に完成度が高いシリーズですが、その中でも一番高水準の作品です。
 鮫島警部が警護する、マンションの暴力団組長を毒猿が急襲するシーン、新宿御苑での決闘シ
 ーンはまさに白眉。手に汗握ります。
 この作者は、主人公以上に、「ヤクザ」の描き方がうまく、敵役といいながら、実に格好いいです。
2002.11.10


小林聡美 「凛々乙女」 幻冬舎文庫
 この作者のエッセイは三冊目ですが、相変わらずたのしい本です。
 お化粧とか、海外でのトラブル、下着を買う話等、読んでいて笑えます。
 作者撮影の写真が随所に入っていて、カラーで見たいと思います。
2002.11.8


黒岩重吾 「天の川の太陽」 中公文庫
 古代大和朝廷。大海人皇子と大友皇子が皇位を争った壬申の乱を描く。
 黒岩古代小説の代表作。日本古代史の謎に包まれた壬申の乱をここまで綿密に描写した作品
 は他にありません。
 古代における、現代以上の血で血を洗う政戦、謀略は、古代人のイメージを一変させてくれます。
 随所に韓国、中国の情勢がを散りばめられている事で、国際国家としての当時の日本の状況も
 非常に興味深く読めます。
 又、勝敗の分かれ目の一つの要因として、武器の違いを挙げている点等、作者独自の古代史観
 もうかがえます。
2002.11.4


都筑道夫 「なめくじ長屋捕物さわぎ」シリーズ 角川文庫 他
 砂絵師のセンセーを中心に、江戸のスラム「なめくじ長屋」の大道芸人たちが活躍する捕物帳。
 質量共に、最上質の捕物帳で、作者が創作するにあたり何度も読んだという「半七捕物帳」を遥
 かに凌駕するシリーズです。
 捕物帳といえば、江戸の香りを漂わせただけの人情話になってしまい勝ちですが、このシリーズ
 は奇想天外な犯行現場の状況を論理的に解決したり、ストーリーの以外な展開そのものを楽し
 ませたりで、正真正銘の本格推理小説であり、それでいて、江戸情緒も満載です。
 本格ファン、時代小説ファンの両方の方に文句無しにお薦めです。 
2002.11.4


スティーヴン・キング 「いかしたバンドのいる街で」 文芸春秋社
 短編集「ナイトメアズ&ドリームスケープス」を分冊したうちの一冊。
 キングは基本的に長編の作家で、短編はそれなりにおもしろいですが、やはり物足りなさを感じ
 てしまいます。しかし、なかには長編で読みたい話がいくつかあり、表題作もその一つです。
 「神隠し」ものです。車で道に迷った主人公が妻とたどり着いた町は、死んだ有名ロックミューシャ
 ンたちが支配する音楽の町。気の毒な主人公は、先に迷い込んでしまっている人たちといっしょ
 に、徹夜のロックショウに強制的に観客として参加させられてしまいます。
 この不条理さは、安部公房、筒井康隆あたりを彷彿とさせますが、キングらしい書き込みで、短編
 でおいて置くには勿体ない作品です。 
2002.11.3


テリー・ケイ 「白い犬とワルツを」 新潮文庫
 老妻に先立たれた老人が、突然現れた白い犬と過ごす人生の終盤。
 老いた一人住まいの父親を気遣う息子、娘たちと、頭はしっかりしていても片足が悪く、歩行器
 がないと歩けない老人との付かず離れずの関係は、理想的な介護のあり方の一つだと思います。
 老人が毎日書いている日記を読むと、日記を読む事で、過去を思し、こころが癒されるのがよくわ
 かります。
 最後には老人はガンで、亡くなってしまいますが、亡くなる直前白い犬を見る事が出来なくなり、
 死期を悟った老人の姿には、満ち足りたものがあり、人生の最後はこうありたいと思います。 
2002.11.3


スティーヴン・キング 「シャイニング」 文春文庫
 雪に閉ざされた、無人のホテルを一冬管理する事になった、一家三人を襲う悪霊たち。
 「モダンホラーとは、怖くない怪談」とよく言われていますが、この本は怖くそして、悲しい父と子
 の物語です。
 キューブリックの映画も、本の怖さを越える事は出来ませんでしたが、読んでいて怖いと感じたと
 ころはほぼ映画にも入っていて、「洋の東西を問わず怖いと感じるところは同じなのだ」という事
 が興味深かったです。
 結末の予想はある程度できますが、登場人物に対する詳細な書き込みがなされていますので、
 ストーリーを追うだけでなく、深読みも充分可能な作品です。
 深町眞理子の翻訳も、安定感があって、スムーズに読めます。
2002.10.31


小林聡美 「東京100発ガール」 幻冬舎文庫
 独身女優の痛快な日常を描いたエッセイ。
 エステ体験とか、大阪の子供とキャンプなど、バラエティにとんだ話はどれを読んでも面白いです。
 「マダム小林の優雅な生活」を読んだ時は、まとまりがないように感じましたが、この言ってみれ
 ばバラバラ感こそ、この人の持ち味であり、笑える話の数々も一生懸命書いた熱意が感じられて
 ホントにファンになりました。
2002.10.30



筒井康隆 「ロートレック荘事件」 新潮社
 ロートレックの版画を多数飾った屋敷で起こる殺人事件。
 冒頭、車に乗った複数の人間が「ロートレック荘」に向かうシーンから始まるのですが、妙に引っ
 かかるところがあって、5,6ページを何度も読み返しました。
 ネタバレはまずいので、詳しく書けないですが、それがこの本の仕掛けの一部だった事が、最後
 に説明された時には、鳥肌ものでした。
 ただ、映像化も不可能なこのトリックは、犯人が探偵に仕掛けるものではなく、作者が読者に仕
 掛けているので、人によって、好き嫌いがあると思います。
 装丁もカッコいいです。
2002.10.29


島田荘司 「占星術殺人事件」 光文社文庫
 「なにかおもしろい本ない?」と言われた時に、無条件に推すうちの一冊です。
 バラバラ殺人事件の話ですが、ここまで、バラバラにする必然性を追求した本はないのではない
 でしょうか。マンガにパクられるほど、切れ味抜群のトリックは、この本によって味わうべきもので
 、マンガを先に読んでしまった人が気の毒でなりません。
 いろいろと、つっこみたくなる点がありますが、エキセントリックな御手洗潔の言動はそれを補って
 あまりあるもので、とにかく時間を忘れて読めます。
 私は電車で読んでいて、乗り過ごしてしまいました。
 作中、御手洗が事件の捜査で大阪へ、それも京阪電車で、「萱島」「寝屋川」へやって来ますが、
 私のフィールドなんで、作品の出来には無関係ですが、その点でも思い入れがあります。 
2002.10.28

  

有栖川有栖 「絶叫城殺人事件」 新潮社
 タイトルとか装丁はカッコいいです。
 目次も建物関係の名称で統一されていて、見た目美しいですが、お話の方はあまり出来が
 良いとは言えません。二話目の「壷中庵殺人事件」には唸りましたが、それ以外の五編は
 平凡な作品で、本格推理短編を期待していた私には、肩透かしでした。
 どうもこの作者の最近の作品は、良いのが無いように思います。
 それでも、読んでしまうのは、惰性かも知れません。
2002.10.27


三谷 幸喜 「俺はその夜多くのことを学んだ」 幻冬舎文庫
 初デートの後、彼女に電話したくなったことから始まる、眠れぬ夜の苦悩。
 留守電にあわて、話中だと誰と話してるのか煩悶し、やっと繋がったと思ったら何を話
 せば良いのかわからない。
 原稿にして、数枚の短編ですが、登場人物二人だけの、よくできたコメディです。
 彼女との電話が、なかなかうまくいかない主人公の心理描写には、経験的にうなずけ
 る事ばかりで、読んでいて  大笑いしながらも、妙にこころに染み入ります。
 三回も読み返してしまいました。             
2002.10.27


北方 謙三 「 三国志 全13巻 」 ハルキ文庫
 通勤電車で、半年以上かけて、やっと読み終わりました。
 読み始めは、どうしても「吉川英治版」と比較してしまって、いまひとつ物足らないというか、エン
 タテインメントとし ては、妙にクールな印象で、あの張飛ですら、思慮深く、落ちついている感じ
 がしました。
 孔明も、「頭いいんだな」くらいで、天才ぶりを強調した吉川版とは、全くべつの人物のように思え
 ました。
 吉川版は、古代中国小説としてだけでなく、ミステリや恋愛小説的な要素も含んでおり娯楽性を
 重視していたに対し、北方版は、中国統一をめざして戦乱にあけくれる英雄たちを、硬派な文章
 で一環して描いており、その点で、魔術のような戦略戦術の色合いが薄まった、「よりリアルで、
 現実に近い三国志」と思いながら読み続けていました。
 しかし、関羽が死んでしまったあたりから、急に熱気を感じるようになりました。
 関羽の死をきっかけに、いままで馴染んできた登場人物たちが、バタバタと死んでいき、物語が
 淋しくなってしまう筈が、国家を一人で支える孔明の熱く凄烈な生き様がクローズアップされて描
 かれていき、読んでいて、思い入れが非常に強くなりました。
 最後に孔明が五丈原の陣中で病没するシーンでは、結末がわかっていながらも、目頭が熱くな
 りました。  
2002.10.26