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「………誰?」 天国のその一言に犬飼は真っ白になって燃え尽き、辰羅川のモミアゲは奇妙な形に変形し、司馬のサングラスはショックの余り爆発した。 兎丸は石化し、子津は砂となって崩れ落ち、沢松に至っては魂が体から抜け出していた。 「あれは一種の地獄絵図だった」 たまたまその場に居合わせた一般生徒はそう証言している。 クッキングパニック■記憶喪失編■ 「あ、あ、あ、天国ィ!!!」 ようやくダメージから立ち直った犬飼は自分達を見て首をかしげる天国に勢いよく詰め寄る 「な、何?」 「オレの事を憶えてないのか!!?」 犬飼の凄い剣幕に押されつつも済まなそうに首を横に振る。 そのショックで犬飼の体は石化し、そのままガラガラと音を立て崩れ去ってしまった。 「兄ちゃん!ボクの事は憶えてる!?」 「私の事は!?」 「…!!!(自分を指差す)」 「ボクの事はどうっすか!?」 4人に怯えつつも再び首を横に振る。 そして、4人も犬飼と同じ運命を辿った…… 沢松は未だに魂が抜け出したままで、天国はそんな彼等を見て、ただ首を傾げる事しか出来なかった。 「…私の事も覚えてないみたいね。」 「ごめんなさい…えーと……姉さん?」 ようやくダメージから立ち直った犬飼たちは再び天国に自分達を覚えていないのか聞いてみた。 やはり天国は覚えがないと言ったばかりか、『…オレは天国って名前?』と聞き返してきたのだ。 どうやら自分の事も覚えていないらしい。 それでも、もしかしたら家族の事なら憶えているかもしれないという微かな期待を抱いて 沢松が天国の兄と姉に連絡を取った。 姉である明美がすぐに駆けつけて来てくれたが、結果は上の通りである。 しかも、『全然似てないけどホントに姉弟?』と言う始末…… 明美は深いため息を吐いた。 「重症ね……あら、大地は?」 こんな事態ならば真っ先に駆けつけてくる筈のもう一人の弟の姿が見えないので、明美は不思議そうに辺りを見回した。 「おかしいな…ちゃんと連絡しましたよ。」 沢松にとっても予想外の事らしく不思議そうにしている。 「おい、辰。大地って誰だ?(小声)」 「知りませんよ。でも、今までの話から考えると猿野君のお兄さんでしょうね(小声)」 「とりあえず俺は天国からそんな話は聞いた事無いぞ……(小声)」 「それって犬飼クンが信頼されてないからじゃないの?(小声)」 「!!」 「アンタら何をコソコソと…?」 「えーと、犬飼君が兄ちゃんに信頼されてないって落ち込んでるの。」 「兎丸君、いくらなんでもそれはひどいっす……」 天国に隠し事をされた気分になって落ち込む犬飼に、更に兎丸は追い討ちを掛けた。 「それって、天国が家族の事話してなかったからか?」 「うん。そうみたいだよ。」 「明美さんならともかく、大地さんの事を話すのは嫌だと思うぞ。だって…」 「「「「「だって?」」」」」 沢松は周囲を何度も何度も確認してから声を潜める 「あの人はバケモノ……」 「誰がバケモノだ?」 不意に聞こえてきた声で沢松の言葉は遮られた。 声のした方向を見ると…部屋の隅に置かれたゴミ箱から誰かが出てきている真っ最中だった。 「「「「「!!!!!」」」」」 「で、出たー!!」 「……」 犬飼達は声にならない悲鳴を上げ、沢松は声を上げてその場に座り込み、明美は呆れたまま視線を逸らした。 その光景を何故かゴミ箱から出現した長身の少年は不思議そうに見ている。 「健吾、人をバケモノ扱いすんじゃんねぇ。」 「(いや、貴方はバケモノです)」 犬飼達は一斉に心の中でツッコミを入れた。 百歩譲ってバケモノでは無いとしても、普通の人間ではない事は確かだ。 どうやら彼が天国の兄・大地らしい。 顔は全然似てないが行動は天国ソックリで、天国の兄だというのは間違いないだろう。 「…大地さん、何故にゴミ箱なんかに入ってたんですか?」 あからさまに怯えながら、沢松はこの場に居る一同が疑問に思っている事を口にした。 「いや、面白そうだったから」 「それだけかい!」 コイツは天国よりもタチが悪い、犬飼達はそう悟った。 天国の奇妙な行動は笑いを取る為ワザとやっているが、彼は素で行動しているのだ。 確かにこんな兄が居たら他人に教えたくないだろう 実際、天国も『この人と血が繋がってるなんて』と泣いてるし…(記憶は無いが) 「そういや記憶が無いんだってな。」 沢松のツッコミを無視して大地は天国に近づく。 「よお、天国。俺のこと覚えてっか?」 その問いに天国は怯えながら首を振る。 それを見た大地は暫く考えた後、おもむろにズボンのポケットの中を探り始める。 中からは強大な金槌が出現(ええっ!) そして、それを天国めがけて振り下ろそうとした…が、明美によって阻止された。 「ちょっ…大地!止めなさい」 「止めるな明美!記憶喪失ってのはぶん殴れば治るって古からのお約束があるだろ!!」 「そんなの知らないわよ!記憶が戻る前に天国が死んじゃうでしょ!!!」 「もしかしたら治るかもしれないだろ!」 「原因も解からないのに勝手な事しないで!」 「叩けば治るって!」 なおも殴ろうとする大地をさすがにヤバイと思い始めた犬飼達も取り押さえる 「治る訳無いでしょうが!」 「とりあえずアンタは何を考えてるんだ!」 「馬鹿な事はお止めください!」 「兄ちゃんが死んじゃうよ!」 「………!(必死に首を振る)」 「そんな事したら駄目っすよ!」 7人がかりで押さえつけ、そうやく大地は止まってくれた。 「……弁当?」 まずは原因を知ろうという事になり、大地と明美にこれまでの事を全て話していたら2人は弁当の所で反応を返した。 「まさか…天国の方に……」 大地が呟いたその一言を一同は聞き逃さなかった。 「……大地、何かやったわね?言いなさい?」 有無を言わせぬオーラを明美。 観念した大地はポツリポツリと話し始めた。 「いや…天国が付き合い始めたって聞いたから。」 「…?別にいいじゃない?」 「だって!男だぞ、天国の恋人!」 「ふーん、何で知ってるの?」 「(男だってことに驚けよ…)俺の情報網は知ってんだろ?それで、相手を消そうと…天国の弁当の一つに俺が作った料理を混ぜたんだよ。まさか、天国が喰うとは……」 それを聞いた犬飼は一気に血の気が引いていくのを感じた。 一歩間違えれば自分がああなっていた、それに加えあの危険人物に命を狙われる羽目になったのだ、想像するだけで恐ろしい。 「…大地」 ニッコリと綺麗に笑いながら青龍刀(しかも血塗れ)を構える明美 「な、何で俺の青龍刀持ってんだ!何をする気だ!!?」 …アンタの青龍刀だったんですか? 「お仕置きv」 綺麗な笑顔のままでそう言うと容赦なく青龍刀を振り降ろす。 「ぎゃああああ!!!!」 みるみる内に血に染まってゆく大地の身体 それを一部始終見ていた犬飼達(沢松除く)に恐怖を与えたのは言うまでも無い。 「天国は普段通りの生活させて様子を見ますから、お願いしますね。」 ベッタリと返り血を浴びてニッコリと笑う明美の言葉に逆らえる人物は居なかった。 「……明美さんは怒らせなきゃ無害だからな」 沢松の必死のフォローも虚しく、犬飼達の脳裏には明美に対する恐怖がしっかり植え付けられた…… 「(俺は将来あの2人を『お義兄さん』、『お義姉さん』と呼ばなきゃならんのか!?)」 …犬飼さん、どこかずれてません? 続く |